第2話


 一方で潰れた商店を住居ごと奪った商業組合グラレス支部は住民の居なくなった住居を改築させる方針によって大騒ぎになっていた。

 それもその筈で、商店隣の大工店や木材などを取り扱っていた商店も含めて、グラレス領のほぼ全ての商店が一斉に潰れたからだった。更に商店が取り扱っていた取引先に交渉に行けば、商業組合とは交渉しないと言ってくる。

 それをどうにかしようにも、取引先から出された条件を呑むことができなかった。その条件の多くは各商店のオーナーの復帰であったり、以前取引していた書類を要求されていた。

 しかし書類に関しては住居を家主が出て行く前に燃やしてしまい、何も残っていない。だからと言って、出て行く事を強要した手前、騎士に通報することができなかった。

 また潰れた商店が統合された新参の商会に行くのは商業組合としてのプライドが許さないようで、商会長は行くことを許可しない。そして何故なのかは分からないが、最近は貧民街周辺に騎士が集団で巡回しており、近付けないことの一つでもあった。

 その2日後、王都の商業組合本部から監査官の来訪が知らされ、たちまち騒動が大きくなるのであった。



 シリア商会では着々と貧民街の改築と増築が行われていた。領の城門近くに設営された商会の周辺は何も整備もされず、建物や施設に綻びが出続いている状態だった。

 その状態を打破するために、セリアが屋敷の書斎しょさいで読んだ通りに商会の職人に取り壊しと以前取引していた店で該当する資材を頼み、改築することにし、屋敷の専属料理長を密かに呼び出して貧民街に住む人々に無償で配るよう指示を出す。

 専属料理長も始めこそ、専属といえどもセリアの指示に抗った。だが指示通りに動かない料理長に嫌気がさしたセリアは侍女に料理長を追い出させるよう告げる。そのことに目を見張る料理長であったが、セリアに詰め寄った途端、背後から騎士に拘束される。専属料理長は一時貧民街に出入り禁止を言い渡された。

 料理長は貧民街への出入りは路地に入れば行けると思い行動したが、商会付近は平民の服装に外套がいとうを纏った顔馴染みの騎士が用心棒のように包囲していたことで近付くことができなかった。

 そのまま何も伝えられないと思い込んでいたが、その晩のうちにセリアは屋敷に帰ってきており、セリアに問うてみた。


「セリアお嬢様。相談したいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか」


 その一言で料理長の用事が何のことか分かったようで、セリアはすぐに人払いと料理長に茶菓子の指示を出す。側に控えていた侍女がテキパキと用意を済ませ、入り口前で控える。


「さて、話とは何でしょうか?私も忙しいので、用件は早めにお願いしますね。」


 始めこそセリアは微笑んでいたが、料理長の質問に冷淡な目線に切り替わる。


「…はい。それでですね、その、お嬢様は貧民に無償で、その料理を配ることをどう思っておいででしょうか?…できれば私は、お嬢様に召し上がってほしいと思っております。ので貧民に配るなら、他の料理人に頼んでも良いのではないかと」


「あなたに頼んだことは間違っていません。貧民であろうと領民であることに変わりはないのですから、私は領民であるなら誰でも施そうと思っているだけです。あなたを選んだのも、他の料理人とは違い、偏見をしないことに評価しました。」


「焼け石に水、となろうとですか?」


「はい。きっと今回行ったことは、いずれ私たちに良いこととなって返ってきます。だからこそ、今回あなたを選びました。」


「わかりました。此度の命、お受けいたします!」


「ありがとうございます。では明日からよろしくお願いしますね、料理長。…それと父と母には内緒に動いていますので、ジジの指示には従うように」


「はっ。」

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