隣国に行ったら馬の世話を押し付けられましたが、むしろウェルカムです
たおたお
本編
第1話 二十年前
「フランシア・パローニ! 今ここで、君との婚約解消を宣言する!」
ザワザワと賑やかだったアカデミーの卒業パーティー会場は、私のその一言で一瞬の内に静まり返った。それはまるで凍りついた湖の水面の如く、その場の時間が停止したかの様だ。しかしフランシアは顔色一つ変えず、見透かした様な視線を私に送っていた。
「ラザフォー、今何と?」
「聞こえなかったのか? 君との婚約を解消すると言ったのだ!」
「それは、あなたの隣にいるルティーシャ様の影響と思ってよろしいのかしら?」
「好きな様に解釈するがいい。私はもう決めたのだ」
フランシアの言った通り、この婚約破棄はルティーシャの影響が大きい。ルティーシャは美しく、そして何より私を愛してくれる。フランシアも美しいことは認めるが、そのキツイ性格が私には合わないのだ。アカデミーに入る直前に、我が国ヴァネディアの王である父から突然言い渡された婚約。そしてアカデミーに属したこの二年間、私はフランシアに小言をもらい続けた。『次期王となるのだから、もっと賢明な判断をしろ』『次期王となるのだから、もっと堂々と振る舞うようにしろ』『次期王となるのだから……』 もう、うんざりだ。
「しかし、この婚約は王であるあなたのお父上がお決になったことですよ」
「私にふさわしい婚約者は私自身が選ぶ。父の意見など関係ないのだ。君の様な上から目線の口やかましい女は私にふさわしくないと言っている!」
どうだ! はっきり言ってやったぞ! ここ数日、私はこの瞬間を心待ちにしていた。今までガミガミと小言を言い続けた君への罰だ。ん? 泣いているのか? 君のような冷徹な人間であっても、流石にこの場で婚約破棄されたことは堪えたと見える。フランシアは口元を押さえて後ろを向き、肩を震わせていた。
「おい、ラザフォー! この仕打ちはあまりに酷いのではないか!?」
アカデミーの同期で友でもあるトーリが彼女に駆け寄り、そして怒鳴りつける様に私に言う。
「これはヴァネディアの問題だ。ストランジェの王子である君の意見は不要だ」
「クッ……見損なったぞ、ラザフォー!」
私を睨みつけるトーリ。お前は正義感が強いからな。その内フランシアは逃げる様に会場を出ていってしまい、トーリもそれを追う様に去ってしまった。少々、場が白けてしまったな。
「殿下、折角の卒業パーティーです。あの方たちのことは忘れて、続きを楽しみましょう」
「そうだな、ルティーシャ。これでもう、私たちの関係を邪魔する者もいないだろう」
父も怒るだろうが、私の意思は変わらない。好きでもない相手と結婚するよりも好きな女性と結ばれた方が、王としての風格も増すと言うものだ。何より、フランシアが辺境伯の令嬢であるのに対してルティーシャは公爵令嬢。全てにおいて私にふさわしい女性なのだ。
その後、フランシアとトーリが会場に戻ってくることはなく、そしてそれ以降も二人と会うことはなかった。私の婚約破棄を知った父は怒りはしなかったが、酷く落胆し何かを恐れていた様子。
「お前の好きにするといい」
ただそうとだけ言って、それ以降父と会話することがそれまで以上に減ってしまった。そんなことがあって暫く、風の噂でフランシアとトーリが隣国で結ばれたと聞いた。私を嫌う者同士、気が合ったということか。隣国ストランジェは我が国に比べて弱小だし、二人でひっそりと過ごすのがお似合いだ。
私もルティーシャと結ばれヴァネディアの王となった。我が国は周辺の国家に比べて軍事力でも経済力でも秀でている。私が王となったからには、ますます繁栄することだろう。フランシアよ、遠く離れた隣国より見ているがいい。君にガミガミ言われなくても、私が王として問題なくこの国を支配している姿を。そして自身の愚行により王妃になり損ねたことを、一生悔いるがいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます