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「――〝シュウ〟…とか呼ばれていたと思うけど…。
たまたま居合わせただけで、こっちは名前も知らない。友達の姉といっしょにいただけの人間――(直接)紹介されたわけでもないし、そうゆう話題になっていたわけでもないんだー。
進路なんて、初対面できくことじゃぁないと思うのよね。
思わせぶりというよりは独善的?
なんて言うかさ…〝自分がわかってさえいればいい〟みたいな…。
涼しい顔して自分の言動で他人が疑問を抱えようが、おかまいなしで。自己解決しているようなところが誰かさんと重なるのよ」
「ずいぶんだな」
「その通りでしょう? あんた、そうゆう点では、親切じゃあないもの」
知っていても、すべては教えてくれない――そうゆう側面があるにせよ、いま隣にいる彼は、数分接しただけの話題の少年ほど、とっつきにくい人物ではない。
ちょっと言い過ぎたかな、と。
思いなおした
とうの本人は、何を考えているのか、わからない表情で、遠方に視線をはせている。
無口ということもないが、その口は、気のむいたことしか語らない。
色白な面に、はっとするような紫紺の瞳。
やわらかいのか、しなやかなのか…。ふれた感触が、想像できない栗色の髪の毛。
どこの人種ともつかない中間的な
こっちは常識に縛られないものであふれているので、出会った頃は「白い子」ていどの感覚で、気にもとめなかったが、改めて意識して観察すると、その人は、そこに存在していることが信じられなくなるほど、あかぬけていたのだ。
きれい過ぎて、見ているだけだと、虚像のように思えてくる。
いちおう、人間には違いない(のだろう)。
だが、どんな顔をしようと
ヒトの形をしているのに、現実にはありないレベルの美形なのだ。
そうゆう感覚は好みと個人の主観、対象の態度や表情にも左右されるものだが、そういった観点を念頭に分析を試みても、万人が認めそうな秀逸さだ。
――若いので、あるていど上の年代から見ると、青二才の感は否めないだろうし、年期重ねれば、これもオジサンになってしまうのだろうが…。
色が白く細身なので、軟弱に見えそうなものなのに、その限りでもないのだ。
はげないメイクか皮でも被っているのではないだろうかと考えてしまう。
眠りの中にあって、こうしている自分も、変わっている(のかもしれない)が、その男ほどではないと思うのだ。
「ちょっと話しただけだし、思い違いだと思うんだけど…(なんでかなぁ)」
あっさりしたもので、愉しんでるとも嘲っているともつかない。
「俺はおまえと違って、四六時中、こっちに居るからな。そっちの現実に自分が存在していたとしても、他人のようなものだ」
「それって、眠ったまま…。植物状態ってこと?」
「向こうのことは、あまり知らないよ」
そうしていて、思いついた事柄でもあったのか、裏がありそうな笑みを浮かべた。
「おまえのように生きていたこともあった気がするが…。忘れたな」
「あんたは《
「
悪霊ばらいを本業にしていても、こんなところに縄張りつくって、悪夢を始末して歩く奇特なヤツは、そう拝めるものじゃない」
「
天然記念物だとか言うくせ、あつかいが酷いんだから(だいたい、シンセイって、どうゆう意味のシンセイよ。漢字で書きなさいよ)」
(…テンネンキネンブツ?)
その青年、《コウ》は、よく理解していないような顔をしていたが、言い返してはこなかった。
そこで
その人がすこし前まで見ていた方角に視線をはせた。
その多様な色彩がヴェールのようにたなびく高空に、星のようなきらめきを含む白濁した霧のようなものが浮遊している。
他者が眠りの中に形成する混沌化した意識と記憶の表出。
いま、背中をあずけている木の幹のうねりのようなものも大地もふくめて、ここにあるものは、すべて、ちょっとしたことで、消えたり変貌したりして、移り変わる。
――そこにいる彼女。
彼女が、それを自覚するようになってから、ほどなく四年…。
幻の妖怪めいた名で呼ばれようと、ずっと人として生きてきた。
だから、ありきたりではないにせよ、自分が特殊だとは思っていなかった。
ほかの人間の目に、どう映るのか…。
その他者ではない彼女にはわからなかったし、自分の奇妙な部分を暴露して歩いたりもしないから、異常や変人などと言われたこともない。
いま、となりにいる青年に出会うまで、それと指摘する者もなかったので、自分のありかたには、どこまでも無知だ。
(…なんか最近、漠々として、見晴らしが良すぎる気がするな。
こーゆー時って、どっか、近場に取り込むタイプの荒らしがいることが多いんだよね…。自然に消えてくれればいいんだけど…。
近いうち、何か出そう…。
気のせいだといいな…うん。平和なのが一番…)
この世に生をうけてから、ほどなく十五年。
《BAKU》とも呼ばれるその少女には、まだ、自分が《魔》に属するものだという自覚は芽生えていなかった。
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