BAKUとKANADE

ぼんびゅくすもりー

Variable of the ☆☆☆/ゔぁりあぶる おぶ ざ ☆☆☆ ~ひとつの惑星のカルパ~/外伝 いち【BAKUとKANADE】

ぷろろーぐ. ~兆し~


「どうした? 珍妙な顔をして」


 全天に虹がたなびく幻想的な空のもと。

 白磁のような肌をした青年が、彼女の方をのぞきこんでいた。


「チンミョウとは、なによ」


「言葉のままだ」


 返されたのは、からかいをふくんだ底の浅い微笑み。


 木の根のごとき植物が地表にはびこり、小高い丘のようになって、周辺一帯が見わたせるところ。

 うねりくねりながら、がっしり横たわる太めの幹に背中をあずけていた少女は、となりにいる男を少しのあいだ視界において眺めた。


「ぜんぜん似てない気もするのに、なんでかなぁ…。ひっかかるんだー」


「うん?」


「今日、学校祭だったんだけどね…。お昼前に校内で乱闘騒ぎおこした人達がいたの」


「ふぅん…」


 語尾さがりに空気にとけてゆく、たち消えがちな相づち…。

 つまらなそうだ。


「大事とって、病院へ運ばれちゃったんだけどー。

 その人達が、午後一にプロジェクターで、学校祭の準備映像流す予定になってて…――生で解説入れるやつ。

 でも、肝心な人達が病院行っちゃったから、どうするかでもめたらしいんだ…。

 予行で評判良かったし、公開しなかった部分、本番公開するとかいう、事前予告前振りもあって…――

 止めちゃうのは惜しい…なれど、ぶっつけで代役たてるのもむちゃ…。まぁ、とーぜんだよね。

 結論として、解説なしで適当な曲、流しながら上映することになったんだ…。

 (それ)で、(裏で)なにがどうなったのか知らないけど、珠里じゅりの弟がいくつかピアノで生演奏することになった。

 でも、その後がまた、ごたついて…。

 間をもたせようと応援にひっぱりだされた他校生がいたの。

 珠里じゅりの弟の友達で、生演奏中もそばにいたみたいだから、巻き込まれたんだろうねー…。

 へたすると版権に障るかもしれないっていうから、ここだけの話なんだけど……すごく歌のうまい子で、好評だったんだって…」


 二人の間には、ひと、ひとり分ほどの隙間があって、青年の方は、少女が背もたれにしている幹に腰掛けている。

 ちらと彼を見あげた少女――日野原ひのはら夕姫ゆきは、話題の背景を知らない相手と話をする上で、簡単な注釈を入れた。


珠里じゅりは、あたしのクラスメイト。飛び入りの子は、珠里じゅりの弟と同い年。一学年いっこ下で、笹中ささちゅうの二年なんだって」


 聞いているのかいないのか…。

 となりにいる彼は、関心なさそうに、近いようでいて遠い高空を眺めている。


「あたしは、お化けしてたから、その子がこっち寄った時、ちらっと見ただけなんだけど…。

 あんたみたいに白くなかったし、あんたより若くて、声は、まあ…、少し似てたかも知れないけど、そのままでもなくて……でも、どこか…。その系…? みたいな?」


(…その系…?)


「とにかく、ちょっとしたイントネーション、しゃべりかたの癖とか雰囲気……目つきというか、眼力めぢからみたいなものが似てる気がしたの」


 となりの彼は微妙に頬を歪め、ちらと夕姫ゆきを見てから目を閉じた。


「誰に似てるって?」


 返されたのは、揶揄めいた嘲笑。

 それなりに聞いていれば明らかな指摘を質問で交わされた。

 反応、態度を見る限り、わざとだろう。


 本気にしていない。


 小馬鹿にされてる気さえした夕姫ゆきは、そっと溜息をついて視線を伏せた。


                   🔮🔮🔮


 その日。

 気づくと彼女の方を見ていた(と思われる)問題の少年は、目が出合ったそのタイミングで質問を投げてきたのだ。


『おまえ、誰?』


『ん? あたし? …珠里じゅりのクラスメイト』


『じゃない…。名前、聞いた』


『…。日野原ひのはら


『ひの、はら?』


なか切らないでまとめてよ。名字だから』


 その時、非常に疲れていた彼女が、ぞんざいにうけ流すと、その彼は、彼女がウエストにさげていたおどろ仕立ての《おゆき》という文字に視線を落とした。


『ひのはら…おゆき?』


『〝お〟はいらない。ファーストは、夕姫ゆき


 明かすことに、これという問題もなければ、隠そうという意思もない。

 そこに横から、短絡的で使い古された感のあるが入った。


『夕焼けの『夕』に、お姫サマの『姫』。『ヒメ』って呼んであげると喜ぶよ』


『喜ばないよ』


『えー、おゆきさん。ここは喜んでとり憑いて、呪ってあげなくちゃ。ねぇ、君、記念撮影する?』


『もう、あがりました。いまは、お客さまです! いつかバイトしても、流行る店のホールスタッフだけはないと誓ったところ……』


『協力してよ。まだ、いけるでしょ? お客サマでもいいよぅ。ゆきちゃん、写そー』


 その彼は、そのへんで交わされている彼女らの茶番めいたやりとりを、なにもなかったかのように聞き流スルーしている。


『三年(か)…』


 なにやら、独りごちていた。


 こうして思い返してみると、その子の反応が、やたら冷めていたので、たずねたのはほんの気まぐれで…。

 その時の気分や思いつきで、格好つけていただけにも思えるのだが…。


 年下が、やたら大人びた顔をしてつぶやいて、思案しているようにも見えたので、なにか裏の意図がありそうな予感がしないでもなく…。


 夕姫ゆきとしては、つかのま、どう反応してどうゆう顔していいのか、あつかったらいいのか、迷ったのだが、そうしていると、

 その彼の目がちらっと、彼女ゆきに向けられて伏せられた。


『どこ受けるの?』


『どこってなに(を)? あたし(に聞いたの)?』


『――高校。受験だろ?』


『…普天ふてん


『ふぅん。か…』


 ぼんやりしていたなかに、いいようにくたびれてもいた…。

 知人と重なる妙な近似感をおぼえなければ、そこまで素直には答えなかっただろう。

 だからなおさらに…。


 理由や実力を表明するほどの意欲はなくても、成績をたもつのに必要程度の努力をしている彼女は、その指摘でおかしな感じにプライドが傷ついたのだ。

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