本屋の山田さん

草田蜜柑

第1話 

人気のない古びた本屋。


花はこの店のたった一人の店員だ。


「花さん」


声を掛けてきたのは店長の山田。


優しく柔和な顔立ちで、花は高校時代から彼の事が好きだった。


大学に入った今現在も、安いバイト賃だと分かっていながら通い詰めるぐらいに。


「ちょっとゲームをしよう」


「今、バイト中ですよ?」


「でもお客様もいない、暇潰しには良いよね?」


山田は7冊の分厚い本と、それがかっちり嵌る白のボックスを取り出した。


「さぁ、整理してみて?」 


「仕事ですか?」


「ゲームだよ、僕は口下手だから、こんな方法しか思い付かなくてね」


「?」


意味は分からなかったが、店長命令なのでとりあえず挑戦してみる。


まずは7冊の本を確認する。



ミステリー小説『金田一二三ひふみの事件簿』


恋愛小説『君に届けばいいのに』


冒険小説『ガリバン旅日記』


時代劇小説『水戸の校門』


ライトノベル『涼宮さんは憂鬱です』


漫画『デスティニーノート』


童話『酸っぱいぶどう』



「いや、ジャンルぐちゃくちゃじゃないですか、分かりませんよ」


「そうかな?

勘が良い人ならもう分かってるかもよ?」


「?」


「分からないなら、まずは客の気持ちになって店を回ってみようか。

小さな店だから、まずは入口から入って時計回りにグルッとね」


「??」


言われるままに店内をグルッと回る。


店の入口には人気タイトルのミステリー小説コーナー。


直ぐ側の棚には山田の好きな時代劇小説コーナー。


その横に冒険小説コーナー。


店奥にはライトノベルのコーナーがある。


折り返して恋愛小説のコーナー。


横に漫画コーナーがあって、最後に童話などの絵本やエッセイのコーナーだ。


「あ」


花はピンと来て、7冊の本をボックスに並べた。


そして、山田のゲームの意図に気付く。


「ごめん、僕、口下手だから」


「……良いですよ、こうして、伝えてくれたんですから」


花と山田は顔を見合わせ、少し照れ臭そうに笑みを浮かべ合うのだった。

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