部活動Ⅰ
奏汰は急ぎ足で部活棟向かい、入ると階段を登りある程度進む。そして珈琲部と書かれた扉の前に立ち止まり、ゆっくりと扉を開ける。「おはよう、奏汰くん」と中に居た少女、楓は微笑んだ。最後に会ったのは春休み前であるが、相変わらず黒く
奏汰は「おはようございます先輩、遅れてしまいまして」と返すと部屋を見渡し違和感に気付く。コーヒーの香りが今日は薄いと。
毎回珈琲部では最初に来た部員が全員分のコーヒーを淹れておく、というルールがあった。楓が居ると言う事は既にコーヒーが淹れてあるか、準備中となるはずだ。終礼から無駄に話した十五分の間に少しでも作業には取り付けるはず。それなのにもかかわらずこの部室は染み付いたコーヒーの香りだけしかせず、楓は何食わぬ顔で椅子にどっしりと座っていた。
「先輩、どうしたんですか?」とだけ奏汰は聞く。楓は「今日は
楓が取り出したのは数種類、いや十種類弱のコーヒー豆が予め挽かれた状態であった。いつも楓は豆で持ち込むのだが、今日は珍しく挽いた状態で持ってきていることに疑問を抱いた。奏汰には何が起きるか想像も付かなかった。しかし次の一言で全てを察することになる。
「部活動勧誘の日にこれを
おいおい、どうするんだ?と奏汰は困惑すると楓は席を立ち、何事も無かったかのようにコーヒーを淹れだした。普段の光景がやっと戻ってきたようで奏汰は安心するが、この後何杯もコーヒーを飲ませられることにはまだ気付いていなかった。
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