アーカイブス
高山小石
ずっと探してた
「あれ?」
気がつくと私は本屋さんの中にいた。
近所にある行きつけの本屋じゃないのに、なんどか来たことがある気もする。なのに、どこの本屋だったかが思い出せない。
奇妙に感じながらも、ここが大きな本屋だというのは知っていて、せっかく来たのだからと、面白い本はないかと書棚を見て歩くことにした。
丁寧にならべられた表紙や背表紙を見てまわるだけでも楽しい。
客の入りはまばらで、さわさわとした気配だけがある静かな空間だ。
絵本コーナーで、開かれてオススメされていた一冊の絵本に足が止まった。
「あ、この絵……」
ずっと昔、私が幼稚園に通っていた頃に読んだことのある絵本だった。
おさげの元気な女の子が、オオカミに食べられないように、逃げたり隠れたり攻撃したりするんだけど、あるときからハンバーグを作る話だった。
大好きで何度も読んでもらったのに、タイトルもオチも覚えていない。描かれていた『フライパンにのったハンバーグ』がとても美味しそうで、ハンバーグの記憶しか残っていない。
どうしてかというと、絵本を読んでもらううちにハンバーグが食べたくなって、ねだって作ってもらったのだけど、それが想像していた味じゃなかったのが衝撃的だったからだ。
おそらく、絵本を読んでもらっている時に私の口に広がっていたのが、実際のハンバーグの味じゃなかっただけなのだろう。
口がよだれでいっぱいになるくらい想像していたのが、当時の自分が想像できうる最高の美味しい味だったようで、「あの味が食べたい」と何度もハンバーグを作ってもらったものの、実食するたびにショックを受けていた。
結局、その味は、話を読んでもらうとき限定でしか味わうことができなかった。
懐かしい絵本に手を伸ばしたところで、私は布団の中で目覚めていた。
「いま、なにか夢を見ていたような?」
口の中にいつか食べたことのある美味しい味だけが残っていた。
アーカイブス 高山小石 @takayama_koishi
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