雲上庭園『管理人』・天使ホロロの【言い訳】封じ/#07『お題・いいわけ』

 横一文字、であった。

 なにがと言われれば、彼女の口が――だ。


 天使ホロロ。

 山吹色の髪を持ち、重さを感じさせない細さで、腰まで伸びている。

 彼女は『神のメイド』であると同時、雲上うんじょう庭園の管理人でもある。


 そんな彼女は現在、長期間も手入れがされていない濁った池の手前、一切整えられていない歪な形の植木の前で立たされていた。

 まるでイタズラがばれた学生が、教室の外の廊下で立たされているかのように……。


「どういうことか説明してもらえるか?」


 天使ホロロは質問に答えない。

 横一文字どころか唇を内側に入れるように、さらに口を閉ざしてしまった。これでは無理やり指でこじ開けることもできない。

 ……仮にすれば、神であってもセクハラで訴えられてしまうだろうが。


 法は神を裁けない。

 しかし、周囲の天使の目は神を罪悪感に浸すだろう。法で裁けなくとも、罪悪感に苛まれた本人が「罰を受けたい」と言えば可能なのだ。

 結果、法で裁くのと同じことである。


 中世的な容姿を持つ黒髪の神様。

 彼は溜息を吐いた。怒っているかどうかと言われたら、怒っている。


 怒ってはいるが、なにも問答無用で罰を与えるわけではないのだ……理由を言ってくれればいい。どうして庭園の手入れもせず、以前は綺麗だったこの場所が、こうも悲惨な状態になっているのか……。


「言えないことなのか? 理由を話してくれなければ、前に進めないだろう。

 それとも偏見と思い込みで、君の『サボり』と断定してもいいのか?」


「どうせ同じでしょうし」


 久しぶりに聞いた声だ。

 やっと、彼女が話してくれた。


「どうせ、理由を言っても『言い訳』だと決め付けますし」


「そんなことはない。ちゃんと聞くさ」


「それ、神様の嘘ですし。どうせ『言い訳』になるなら……黙りますし」


 天使ホロロは、言い訳に『ならないように』――黙秘する。


 黙ってしまえば、絶対に言い訳にはならないのだから。



 ―― 完 ――

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