水の都のラッキーナンバー/#06『お題・アンラッキー7』
「おや、よく見つけられましたね……分かりにくかったでしょう、ここ」
「あ、そうですね……、でも教えてもらっていたので、迷わなかったです」
「常連さんからですか? あまり場所を言いふらしてほしくはありませんが……、よく当たる『占い師』である私のことを評価してくれるのは嬉しいですけどねえ。
あまり人が殺到してきても困りますから。なので取材も受けていないんですよ。逃げるように移動していますから……。ここが、移動する『占いの館』です」
「館みたいなキャンピングカーですよね。もっとこう、わたしの中にイメージがあったんですけど……まあ、今時の占いの館はこうなのかもしれませんけど」
「他の占いの館へいったことも?」
「はい。館と言うか……、占い師としてもどうかと思うような形態でしたよ。今のお姉さんみたいに、手元に水晶玉もなければ、タロットカードを使ったりしませんし、服装も……。
スポンサーでもいるんですかね? ユニフォームとか、商品がでかでかと印刷された広告シャツを着ていたりして……当たらなさそうな占い師ばかりでした」
「それは当たらないかもですね」
「まあ、その方々に聞いて、この場所が分かったんですけど」
「……私の占いの館がどこにあるのかを、占い師に占ってもらったんですか?」
「もちろん、ついで、ですよ? 占ってほしいことは他にありましたし」
他の占い師の手がついた客を占うというのは、気持ちの良いものではなかった。
それでもお客様である。
テキトーなことを言ってお金だけを貰おう、とはならないのがプロである。
これでも堂々と店を構えていない『隠れ家』的な占い師を売りにしているのだ、是が非でも当てなければならない。
もちろん、嘘は抜きだ。
占い師が、言ったことを後日、当てにいくのも同じく。
「……私は後追いの有象無象とは違いますから。
一応、『占いの国』出身です。今はなき、ですけどね」
「あ、占いの国なんてあったんですか? わたし、趣味で旅行ばかりしているんですけど、勉強不足で、その国のことは知りませんでした」
「合併していますからね。今ではエンタメの国の一部になっていますよ」
さて、占いましょうか、と占い師が水晶玉に手をかざした。
「なにを占いましょう」
占いの館(キャンピングカー)から出てきた少女は、占い師から教えてもらった【ラッキーナンバー】……『7』に関係する物を買いにいくため、近くの商店街へ向かった。
身に着けられるものがいいだろうと思い、アクセサリー店へ。
屋外で販売している出店なので、価格もそこまで高くはない。
ビルの中だとショーケースに入っていたりして、値も張るのだ……旅人は常に金欠である。
「おじさん、その『7』のデザインが入ったネックレス、くださいな」
「はいよ。『7』は特に縁起が良い数字だ、あんたに幸せがくるだろうよ」
受け取ったネックレスを早速つけてみる。
『7』という数字が元々持つ幸運と、占い師が教えてくれた少女の【幸運を呼び寄せるラッキーナンバー】……『7』。二つの効果を合わせれば、幸運が起きる頻度が高く、より大きな幸運が舞い込んでくるのではないか?
「試しにギャンブルでもしようかしら」
彼女の金欠の大半の理由は、ギャンブルである。
めちゃくちゃ勝った。
金欠問題なんて吹き飛ぶくらいに。
大金を手にしたが、カバンの中の軽いはずの札束が重く感じる……、持ったこともない大金に怖くなってきた。物陰から襲われるのではないか……? 嫌な予想が頭をよぎる。
「そこの君、ちょっと助けてくれないか?」
と、呼びかけられる。
綺麗な身なりをした青年だった。
「なんですか?」
「困っていてね。この店でアップルパイを買おうとしたんだが、カードが使えなくてね。現金を持ち歩いていないんだ、君は持っていないかい?」
「はぁ。ありますけど……」
アップルパイ一つくらい、買える金額を持っている。
一つどころか何百個も買えるくらいには。
もしもカードが使えていれば、彼も同じくらい買えるだろうけど。
それくらい、彼はお金持ちに見えたのだ。
「ありがとう、助かったよ。お礼をしたいのだが、ちょっとお茶でもどうだい」
「そんな、お金も返してもらいましたし、大丈夫ですよ」
「そんなことを言わずに。僕の国へ案内するよ」
こうして、少女は『ギャンブルの国』から、『水の都』へ。
青年が持っている船だった。
見た目は古い帆船だが、スクリューが備わっているので無風でもかなり早く移動できる。
「水の都に僕の別荘があるんだ……、君は旅人なんだろう?
急ぎでなければ一週間くらい、のんびりしていったらどうだい? 面倒を見るよ」
「水の都は……まだきたことないですね……楽しみです」
「町中では常に水着だけど……良ければ見繕って貸してあげるけど」
「水着……」
「嫌なら私服でも大丈夫だよ。まあ、濡れるだろうけど」
この男、まさか水着が目的で……? と警戒したが、旅人の自分をわざわざ連れてこなくとも、不満に思わないほど、人材は腐るほどいるだろう。
本当に、純粋に感謝をして連れてきてくれたのか。
「なら、お願いしてもいいですか? 大胆な水着はなしですけど」
「分かった、用意しておくよ」
「――み、水着!!」
用意してくれた一般的な水着を着て、水の都を闊歩していたら、空を飛ぶカモメに水着を奪い取られてしまった。
幸い、上だけだったので、両手で隠せば済むが、ここはビーチではなく町中である。
町の人がほとんど水着とは言え、さすがに半裸はいない。
水着を咥えるカモメを追うにしても、半裸で追いかけるわけにもいかず、カモメは空を飛んでいる……足では絶対に追いつけない。
「さ、最悪……っ」
下の水着に挟んでおいた小さな財布も盗まれていた。
両手が使えないのをいいことに、このチャンスに盗んだ輩がいるらしい……、こっちは犯人の姿を見てさえいなかった。
水着を貸してくれた青年の別荘へ向かうと、人が多く、物々しい雰囲気で……。
水の都の警察が、部屋中に溢れていた。
「え?」
「おかえり、ごめんね今は――って、なぜ半裸!?」
「カモメに奪われたんですよ……!」
上から羽織れる服を貸してもらい、なぜこの場に警察がいるのか事情を聞くと、
「ちょっと……僕の会社で少し、トラブルがね……脱税していたらしい」
青年が、ではなく、そういったことを全て任せていた青年の部下が、誤魔化していたらしい。
そのため、青年の元まで警察がきて今に至る、ということだ。
「しばらく騒がしいと思うから……宿でも取っておいてくれないか?」
「はあ。分かりました……」
「あの、これは君のお金かな?」
と、警察の一人が少女の荷物を持ってきた。
頷いてから気づく……大金が入ったままなのでは?
まあ、正規の手順で手に入れたお金なので、漁られても困ることはないが……、税金関係となるとちょっと分からないけれど、これだけの数の警察がいるなら相談してもいいかもしれない。
親身になってくれなくとも、相談に合った窓口を紹介してくれるだろう。
「これ、偽札だよ」
「え?」
「あ、全部じゃないけど……二枚に一枚……、いや三枚に一枚かな、偽札が混ざってる。
確か……、さっき教えてもらったところによれば、ギャンブルの国からきたんだよね? ……あの国は偽札に寛容だけど、この都ではダメだよー。君も、ちょっとお話、いいかな?」
ぽんぽん、と背中を叩かれて、奥の部屋へ案内された。
「水着を取られて、財布を盗まれて……しかも偽札がばれる!? なにが【ラッキーナンバー】は『7』よ! わたしに起こるのは不幸ばかりじゃない!!」
先の幸運など忘れている。
直近の続いた不幸しか記憶に残っていなかった。
苛立ち、力強くネックレスを引き千切った少女。
『7』と刻まれたそれを、ソファに叩きつける。
すると、警察の一人が教えてくれた。
「『7』、という数字はね、この都では『不吉の象徴』なんだよ。
国によって、幸運と不幸を象徴するものは違うんだ。だから、他国から引き継ぐ手持ちのアイテムには気を付けた方がいい。自分の【ラッキー7】が、移動した先の国では【アンラッキー7】になっているかもしれないからね」
―― 完 ――
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