小人たちの【わがままトイ・ランド】/#03『お題・ぐちゃぐちゃ』

「(もう少しかな)」

「(もう少しだろうね)」


「(あとどれくらいかな)」

「(あとどれくらいだろうね)」


 スコップを持ち、狭い地中を掘り進めている二人組がいた。


 彼らの体は細く、頭部が大きい。

 上から糸で吊られているおもちゃが思い浮かぶ。


「(なにかに当たった)」

「(なにかに当たったね)」


 スコップの先端が、土の先で、硬いなにかに当たった。

 かつん、かつん、と何度も響く。


 少し強めに叩いてもびくともしない。

 このまま続けていれば、スコップの方が壊れてしまいそうだ。


「(ダメだ、引き返そうか)」

「(ダメなら、引き返すとしようか)」


 うん、と頷き合った二人が踵を返す。


 長いこと掘り進めてきた道を戻る……、判断が早いというか、ここまで掘っておいて潔く、よく諦められるものだ、と事情を知らなければ思ってしまうが……これでも別にいいのだ。

 

 同じように、二人組で地中を掘っている別の組が、たくさんいる。

 地中は既に穴だらけだろう。


 前に掘り進めていれば、他の組の穴と合流するかもしれない。

 横を掘れば、薄い土の壁を隔てて、別の組の通路かもしれない……スカスカなのだ。


 地中にはもう、空間しかないだろう。


 もうそろそろだろうか……、地上に建つ物量を支え切れなくなり、薄い大地が割れて、上にある『村』の範囲が、丸ごと落とし穴となる。


 村が丸ごと地下へ落ちれば、その穴は巨大なお皿になる。


 少し深い気もするが……彼らは気にしない。


「あ、限界だね」

「あ、限界だったね」


 地上にある多くの家を支え切れなくなり、薄く一枚となった大地が割れる。

 まるで平らな板のように、ペキ、と折れて――

 家も人も、村が丸ごと、地中の空間へ落ちていった。


 穴の底で、壊れた家の木片やら、積み重なった人間やら、ごちゃ混ぜになっている。


 今の落下で命を落とした者もいるが、まだ息がある者もいた。


 だけど、それもこれまでだった。


「じゃあ、予定通りにお願いね」

「じゃあ、予定通りにお願いします」


「あいよ」


 答えたのは巨大な男だった。

 森から頭が飛び出るほどの巨人族である。


 彼は自分よりもさらに大きな棍棒を手に持ち、穴の底へ突っ込んだ。


 ぐちゃ、と、水分を含んだ『それ』が、潰れた音だった。


 先端が太い棍棒を持ち上げると、真っ赤な血が滴っている。

 気にせず、巨人は棍棒を穴の底へ押し付けた。


 押し付けて、捻って、力を入れて――ぐりぐりと。

 木片も肉も全てが一緒になるように、ぐちゅぐちゅに、ぐちゃぐちゃに。


 何度も何度も繰り返し――


 穴の底にあった大半が、原形を留めていない肉の塊になってしまった。



「これでいいのか?」


「これでいいよ」

「これでいいね、満足だ」


 穴の底へ飛び込んでいく小さな存在……、子供ではない。

 子供よりもさらに小さな種族だ。


 小人である。


 穴の底へ落下した小人たちは、中心にある塊の中へ頭を突っ込む。

 べちゃべちゃ、と剥がした塊の一部を後ろに投げ捨て、スコップで地中を掘るように、肉の塊の中心を目指して進んでいく――、そこで、一人の小人が見つけた。


「あった、腕だ」

「こっちは足だ」

「こっちには頭。でも口から下がない」


 肉の塊に群がる小人たち。

 各々、破壊されていない『部位パーツ』を探して、自分の取り分にしていく。

 目的のものを持てるだけ持った小人から、穴の底から壁を伝って上がり、森の奥へと消えていった。


「出遅れたから、変なものしか残ってないよ」

「変なものでも使いようだと思うよ」


 足下に溜まっている赤い液体をぴちゃぴちゃと踏みながら、遅くまで残っていた小人が、最後の『破損が少ないパーツ』を見つけ、回収する。


 それを背負い、穴から出た。


 その穴は後に、巨人族によって埋められることになる。


 ……世界から『村』が一つ、消えたのだった。




「おはよう」

「おはよう」


「ふぁ……——うわ!? ちっちゃい人……小人!?」


 ベッドの上で飛び起きた少女。

 彼女の胸に乗っていた小人は、少女が跳ねた勢いで後ろに飛ばされていた。


「わー」と棒読みで飛んでいく小人は、壁に当たって、その衝撃で地面を転がっていく。


「あっ、ごめん! 大丈夫!?」


「問題ない」

「問題なし」


 二人の小人が起き上がる。

 頭部が大きく体が細い。

 上から糸で吊っていそうな、自立するのが難しそうに見えるバランスだった。


「怪我がないなら良かったぁ……」


 ほっと安堵する少女だ。

 ……そこで気づいた。


 起き上がった時の違和感。右手と左手の長さが違う。

 両腕を伸ばして測ってみるまでもない。明らかに長さが違うのだ。

 

 右腕は肘が二つあるみたいに不気味で、左手は少女のものではなく、男性のそれだ。


 足は?


 太ももの色が違う。

 膝から下は、片足は人間の足だけど、もう片方は――馬のそれだ。


「ひっ!? な、なに、これ……ッッ!?!?」



「ボクが考えた最強の人間」



「な、に……?」


「色々なパーツを組み替えて、オリジナルの人間を作るの。腰から下は、実は車輪にしようか迷っていたけど、やっぱり人の足と馬の足にした。そっちの方が強そうだし」


「ね、ねえ、なに言ってんの……?」


 少女の顔が引きつり、右の頬が上がったまま、下がらない……、たぶんそれは、自分の頬ではないからだろう。しわが多い高齢の皮膚が、少女の右の頬にくっつけられている。


 自分のものではないから、体が受け付けていないのかもしれない。


「えっとね、キミは死んだんだよ。

 でも、ボクたちが生き返らせてあげた。だからちょっといじって遊んでもいいでしょ」


「ちょっと、って……——こんなのッ、ちょっとじゃないでしょッ!!」


 体のあちこちに、継ぎ目がある。

 不足分を別のパーツで補ったのだ。……自分のパーツを探したら、きっと少ないだろう。

 もしかしたら『心』だけで、本来の自分のパーツなんてどこにもないのかもしれない……。


「やだ、やだよ! 元の体に戻してよッッ!!」


「じゃあ戦って勝つしかないね。

 きっと他の子が持ってるから。勝って、奪って、キミの体を取り戻すしかないね」



 後に、世界地図に現れる『ツギハギ村』。


 しかしその実態は、小人たちが楽しむための盤上であり、おもちゃの箱だ。



 通称【わがままトイ・ランド】――


 欲しいパーツを求め、小人たちは世界中を見て、周っている。



 ―― 完 ――

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