第8話 真犯人、孫悟空


「やっぱりお前かー! 何度目だ桃園荒らしー!!」

「やっべ逃げろ」

 西王母と孫悟空ならば本気で戦えば孫悟空のが強い。

 しかし、怒った西王母を前にしてはそんな状況は打って変わる。

 仙術の撃ち合い。

 天は動乱、いや戦場と化した。

 孫悟空は防御に徹しているが、西王母の攻勢は一息すらつかせない。

「仙術の極意を叩き込んでやるから覚悟しろォ!!」

「クソッ! 如意棒!!」

 近接格闘に切り替える孫悟空、しかし、それが裏目に出た。身体を掴まれる。西王母はそこで幽離魂魄を使い、孫悟空の肉体と魂を切り離し、痛みだけを感じる状態にしてぶん殴る。何度も何度も。握り拳で。意識が飛ぶ事も許されない地獄のような時間を小一時間過ごした後、魂が肉体に戻った孫悟空は今度こそ本当に意識を失った。

「悪は去った!!」

「こえぇ……」

 仙人の間で「西王母だけは怒らせてはならない」という噂が広まり、そして西王母だけが天で唯一の治外法権となった。天と地の出入りを自由にしてよく、また桃園の管理は仙人全員でやるものとする事が定められた。

 これが本当に地上にグゥイ相手に知略を巡らせた仙女の解決法だろうか……甚だ疑問である。

 しかし、問題は解決した。

 西王母は晴れて自由の身となると、早速、地の華國に降りて王の下へと舞い戻った。天と地の時間の流れは違う、その頃には丁度、各地を巡る謝罪の旅を終え、来来の戴冠式が行われるところだった。

 正式に仙女としてその式典に招かれた西王母は、美しい召し物を纏った来来との再会に抱擁を交わした。

「西王母様! 良かった、私もう会えないのかと」

「いつでも会いに来るわ、はいこれ、ちょっと諸々の事情でウチの桃園、枯れちゃったけど、残ってた桃があるからあげる」

「いいんですか!? これ仙桃なんですよね!?」

「いいのいいの、天も堅っ苦しい風習から脱する時が来たのよ、来来も、新しい華國を私に見せてね」

「はい!」

 式典はつつがなく行われた。

 冠を来来の頭に被せる役目は西王母が務める事になった。

「あなたの行く末が、幸福でありますように」

「仙女西王母、貴女様の御心遣いに感謝を」

 盛大な拍手と共に式典が終わり、夜になる。

 来来改め来則天らいそくてんと西王母は王城内の霊木の前まえ来ていた。

「此処にもう鬼はいないんですよね……でも時々来るのが怖いです。いくら鬼に憑かれてとはいえ私が叔父様を殺した事に変わりは無く、そして此処に叔父様が眠っているから」

「叔父様には私から真実を伝えといたわ」

「えっ!?」

「仙人だもの、それくらい出来ますとも、恨んでないそうよ、王族に陰謀も暗殺も流血沙汰もよくある事だ気にするな。だってさ」

「軽ッ!?」

「あはは、人間なんてそんなものよ、こうも言ってたわ、実は来来、お前が生まれた時は跡を継がれないか心配で毒殺しようかと思ってた、とか」

「怖ッ!?」

「あはは、人間なんてそんなものよ、だからね気に病む必要なんてないの、これから歩むあなたの王道で、贖罪を示しなさい来則天様?」

「あはは、まだ呼ばれ慣れませんねその名前」

 そこで二人は別れた、ただ来則天だけは名残惜しそうにしていた。

 天に昇る西王母は手を振ってにこやかに笑っていた。

「きっと貴女の行く末に幸福ありますように、私の友達」

 その目じりには涙が潤んでいた。

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