仙界動乱編
第6話 仙界動乱
彼の桃園の主、西王母が天より降りた。
仙人の禁を破った。
そんな噂が広まったのは鬼騒ぎが終結してしばらくしての事だ。
西王母捜索の認に当たる事になったのは、西王母よりも強いとされる、彼の斉天大聖・孫悟空であった。
「んで俺がそんな事」
「お釈迦様直々の依頼です、断れますか?」
「あーはいはいやりますよ」
そんなこんなで特例として地に降りる事を許された(実は度々抜け出しては怒られていた)孫悟空だったが、さてと西王母の行方などあてもない。
「はてさてどうしたもんかね」
彼は頭を掻きながら歩をゆっくりと進めるのだった。
🍑
拉麺を啜りながら西王母は嫌な予感を覚えていた。
「馬鹿が来ている気がする!」
「どうした西王母、急に叫んで」
「王様! 悪いけど今日から別行動にして頂戴! 華國の王と一緒とか噂になってるだろうし、そしたら一瞬で捕まる!」
「? まあ、いいが」
王と共に
いそいそと店を出るとばったりと金環を頭に付けた猿と出くわした。
「気づくのが遅かったな」
「展開が早いんだよ畜生!」
西王母は素が出ていた。
桃園の主は決してお淑やかではなく、粗暴でやんちゃなお転婆娘だった。齢千年越えの。
目の前の孫悟空をし縮地で投げ飛ばす。しかし意にも介さず距離を詰めてくる。
「なんの用だ! 万年弟子野郎!」
「誰が万年弟子だ誰が」
「もっかい岩の中からやり直せ!」
「お前なんでそんなに俺の事嫌いなわけ?」
西王母はとにかく必死に逃げた。
まさか、天を降りるという禁を破った事がバレ、さらにはその追手に孫悟空が選ばれるとは夢にまで思わなかった。悪夢の方の夢である。
「天で暴れ回って内の桃園を荒らした事を忘れたとは言わせねー!!」
「あー……」
そんなこんなで仲が悪い二人である。
しかし、此処数千年、孫悟空という特例という特例を除いて、仙人の禁を破る者はいなかった。
しかし、西王母が不名誉な事に二番目の違法者となってしまった。
天は今、大混乱である。
不老不死の仙桃が地に漏れでもしたら、世は大混乱に陥ってしまう。
そんな不急不測の事態だからこそ、孫悟空を追手に選ぶなどという暴挙に天は出たのだ。
西王母もそれは重々承知の上だが、対策という対策はした(つもり)だし、ばれないように裏工作もしたし、仙桃だって数個しか持って来ていないし、第一、
痛恨の極みとはこの事である。鬼退治が終わったのに今度は鬼ごっこだ。禁を破った者には手痛いしっぺ返しがくるだろうという噂は本当だったと西王母は後悔している。するとどうだろう、いつの間にか孫悟空の姿が見えない。撒いたか? と思い、一度、王様の所に戻ってみる。
するとそこには王様と共に拉麺を啜る孫悟空が居た。
「なんでだよ!?」
「聞いたぜ、
「それは……いやでも、どうせ許可なんておりないだろうし」
「確かにそうだな」
孫悟空はあっさり肯定する。そして。
「今、お前がいなくなった事で仙界は大慌てになっている」
「なんで?」
「今、お前の桃園は枯れている」
……なんて?
西王母は信じたくなかった。
数千年、仙人達の長寿を守り続けた仙桃が、枯れた?
(私が管理を怠ったから?)
仙桃はそんな簡単に枯れるものではないはずだ。
しかし、孫悟空は嘘を言うような猿ではない、そんな器用な真似出来ないのだから。
つまり、本当に仙桃は枯れているのだ。
ならば……西王母がするべきことは一つだ。
「王様、私は一度、天へと帰ります。桃園を枯らした犯人を突き止めないと」
「そうか……私一人でも謝罪の旅は続けるよ、安心して欲しい」
「ええ、信じています。旅が終わったら来来にお伝えください。あなたは私の初めての人間の友人だと」
「確かに」
そう言って、孫悟空と西王母の二人は拉麺屋を後にした。
🍑
天へと昇る方法は簡単だ。
縮地の応用でいい。
要は仙術である。
西王母は天の議会にも向かわず、真っ先に己の桃園に向かう。
そこに広がっていたのは見るも無残な枯れ木の群れだった。
「ああ……私の存在理由……」
「また種から植えりゃいいだろ」
「何千年かかると思ってんだこの猿ゥ!」
「あん!? 猿だけど何か!?」
中の悪い二人である。しかし桃園を枯らして犯人に利などあるのだろうか、仙人の寿命を司る仙桃が失われて喜ぶものなどいないだろうに。
「いや……まさか天狗……?」
「天狗かぁ、ありそうっちゃありそう」
天狗とは輪廻転生の輪から外れ、天狗道に落ちて戻る事の無いという哀れな仙人である。
天で言う
仙人の中で唯一の悪意を司る者達。
ある意味で均衡を保つ者ではあるのだが、あまり好まれる者達でもない。
それが原因で生まれる不和もある。
例えば桃園を枯らすとか。
「……ちょっと天狗に探り入れてみますか」
「用心棒はいるかい?」
「……癪だけど頼むわ」
「一言余計なんだよなぁ」
こうして仙界動乱調査が始まるのだった。
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