第5話 華國の王


 王の傍に寄る西王母。

 縮地でも使っているのではないかという早業。

 そしてやっと分かったという顔。

「私はすっかり騙されていたようです」

 来来も羅刹も王も呆けている。

「王からは確かにグゥイの気配はしない、しかし、それはおかしい、不敬をお許しいただきたいが、この城はグゥイの坩堝だ。それこそご息女が鬼憑きになるほどに。そう自分の娘が鬼憑きになるほどに、だ。それがおかしかったんだ」

 皆、押し黙っている。

「王、あなたは禁術を用いましたね、地獄から鬼を呼び寄せる禁術を」

 そこで羅刹が刀を抜く、不敬だと断じ、首を刎ねんとしたのだ。

 それを仙術符で動きを止める。そして言葉を続ける。

「あなたはどうしてもご息女に自分の跡を継がせたかった、だけど、本人がそれを拒否した。しかし、そうなると弟が王座を継ぐという、あなたには好ましくない結果が発生する。それを避けたかったあなたある筋書きを考えた。それはつまり、ご息女に責任を負わせ、他の道を絶たせる事だ」

 言い切った。王はまだ押し黙ったままだ。来来は王に否定して欲しくて見つめている。

 羅刹は仙術に絡めとられ、身動きがとれない。

「単なる毒殺では駄目だった。娘に責任を負わせる形でなくては、しかし、温厚な来来さんがそんな凶行に乗るわけもない。だからあなたは禁術を用い鬼と交渉したのだ。弟の殺害をさせる代わりに現世へとグゥイを呼び寄せるという内容で」

「……仮に、そうだとして、上手く行く保証もあるまい」

「確かに上手くかどうか分かりません、しかし、思惑通りに行けば、あなたは娘に王座を譲る事が出来るでしょう。あなたに利しかない」

 王は無言で首肯した。

「王よ、このグゥイ騒ぎの元凶はあなただ」

「如何にも、この王城こそが、我こそが、グゥイを呼び寄せた」

 ならば、だ。

 王を祓わなければならないのだが、王がやった事は禁術を用いた事だけだ。グゥイを直接使役した訳でもなければ鬼憑きになったわけでもない。

 そう、もう元凶となるべき事は去ってしまった。

 霊木の大鬼も祓った。

 鬼憑きの来来も祓った。

 鬼を増やす羅刹の刀を祓った。

 そして王という元凶を突き止めた。

 ならば西王母のやる事は自ずと決まって来る。

「王よ、あなたには償いをしてもらう」

「贖罪ならいくらでもしよう、しかし今更、私が出来る事など無いだろう」

「あります」

「ふむ、して?」

 西王母は少しもったいぶって。

「仙桃を食べたあなたはもう歩けます。街に出ましょう」

「国民に謝罪して周れと?」

「如何にも」

 王は思わず大笑いした。

「そうだな、里を荒らした元凶として民に頭を下げて周って行こうとするか」

 王は床から立ち上がる。来来が傍に寄る。羅刹は相変わらず。

「私もお供します」

 来来が言う、彼女もまた、自分のせいではないとはいえ人殺しの贖罪をするつもりなのだろう。

「来来、あなたはきっと良い女王になれます」

「……そうですね、それが私の責務でしょう」

 こうして一連の「グゥイ騒ぎ」は幕を引いた。


 🍑

 

 しかし、天から降りた禁を破った西王母には新たな困難、天からの使者との逃亡劇が待ち構えているのだった。

 ――第一章、鬼騒ぎ編、これにて完結――


 ――第二章、仙界動乱編、乞うご期待――

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