第20話 私はお断り

「聞いてくれ、クレアとデートなんだ! えっ!?  応援してくれるか? そうか! 応援してくれるのか! お前達はいい奴だな!」


 出かける用意をするため、一度、それぞれの部屋に戻り、ポーチで待ち合わせる事にした私達だったけれど、私が準備を済ませて、エントランスホールを出ると、ポーチでしゃがみこんでいるイーサンの姿があった。

 デートという事で張り切ってくれたのか、家にいる時は半袖のシャツ1枚とコットンパンツだったりするのだけど、今はグレーのジャケットに、それに合わせた同じ色のパンツを着ていた。

 私に気付いていないようなので、立ち止まって様子を見ていると、何やら彼は、ポーチにいるカラスに話しかけている。


「デートって何をするんだろう。お前達は恋人なのか? デートはいつもどうしてるんだ?」


 カラスは聞いてくれてはいるみたいだけど、キョロキョロと辺りを見回している。


 そりゃ、何を言っているかはわからないわよね。

 カラスが気の毒になってきた。

 大体、カラスが答えてくれたとしても、私達には行けない所ばかりだと思う。


 なぜ彼がカラスに話しかけているのかというと、私が前にカラスに話しかけていたのを見たからだろう。

 以前、犬に連れられて、屋敷の裏庭にまわった事があるのだけれど、その時、焼却炉前に置いてあったゴミを漁っているカラスが2匹いた。

 カラスは賢いので話しかけたら、次にその場所には来なくなると聞いた事があって、飛びかかっていこうとする犬をおさえながら、カラスに話しかけた事があるのだ。

 そして、その時、やってもいいかはわからなかったけれど、犬用ビスケットを持っていたので、それをカラスにあげた所、ツンツンつついたりしながらも食べた。

 それからは、ゴミを漁ることはなくなったが、私が庭に出てくると、ちょんちょんと近付いてきて、餌をねだってくるようになったので、毎度、持っている犬用ビスケットをあげている。

 その際に「おはよう、今日も元気そうで良かったわ」と話しかけているのを、イーサンに見られてしまった事があるのだ。


 使用人にも前に見られたことがあって「クレア様はお優しいんですね」と、それはもう素敵な笑顔で言われて、恥ずかしくて、すぐにその場から逃げ出したくらいなのに!

 もちろん、その使用人には、突然逃げ出した事を後から謝ったけど。


「イーサン」

「あ、クレア!」


 イーサンが振り向いて立ち上がったけれど、私を見て固まった。


「どうかしたの?」

「いつもと違う」

「ん? ああ、髪型ね?」


 いつもはハーフアップにしているのだけど、今日はシニヨンにしてみたから、イメージが違うみたいで、イーサンは私の周りをくるくると回りながら褒めてくる。


「クレアってどんな髪型でも可愛いんだな! いつもの髪型も好きだけど、今日のも好きだ。髪を全部おろしたらどうなるんだろう?」

「はいはい、イーサン。褒めてくれてありがとう。ところで、イーサンはどこか行きたいところはあるの?」

「デートスポットなる所に行ってみたい」

「デートスポットって…」

「それか、そのこういうのをしてみたい」


 そう言って、イーサンが照れくさそうにしながら、停まっていた馬車の中に入り、中に置いていたのか、いつもの本を取り出してきて、目的のページを開けて、私に見せてくれた。


「う、うん…。ああ、まあ、別に出来ないことはないけど…」


 イーサンがやりたいのは、1つのグラスに入った飲み物をカップルが向かい合って、ストローで一緒に飲むというやつだった。


 これの何がいいのかわからない。

 いや、こういうのしたいと思う人もいるんだから、そんな事を言っちゃいけないわね。

 現に、目の前にいるし!

 大体、する人がいるから、こういうシチュエーションが例に出されるわけだし。

 もちろん、これ、ラブラブな人達なんでしょうけど…。

 まあ、これくらい、出来ない事はない。

 ただ、ふき出してしまいそうで怖い。


「いいわ。じゃあ、街に出ましょうか」

「ああ。クレアの好きなものも買おう。クレアは食いしん坊さんだからな」

「買い物の話と食いしん坊って関係あるの」

「ある! ご飯を半分こしたり食べさせ合ったり」

「しません」

「そ、そんな…」


 イーサンがショックを受けたような表情をする。


「大体、食いしん坊の人間が人にそんなに分け与えたりするとは思えないんだけど。あと、食べさせてもらうのは絶対にいらない。自分で食べる。やってほしい人にはやってあげたらいいと思うけど、私はお断り」

「じゃあ、クレアが食べきれないくらいに食べ物を頼んで、俺に食べさせてくれ!」


 どれだけ、食べさせてほしいのよ!

 ライトン様がすすめた本、偏りがありすぎない?


 このまま話をしていたら日が暮れそうな気がするので、街に着くまでの間に話をする事にして、イーサンを無理矢理、馬車の中に押し込んだ。

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