第18話 やめろって言ってんでしょうがぁ!!
「とにかく、応接室に案内しよう」
苦笑しているイーサンに促され、私達は応接室に向かった。
部屋に入り、メイドにお茶を入れてもらってから、テーブルをはさんで私の隣のイーサンの向かい側に座るライトン様にもう一度お願いする。
「責任を持って、今までの可愛いイーサンに戻して下さい」
「今の俺は可愛くないのか?」
「顔は可愛いけど、行動は可愛くないわ」
「どうすれば可愛くなくなるんだ?」
「イーサン、あなたは被害者なんだから、それはこの人に頼みなさい」
未だにきょとんとしているライトン様を指差すと、イーサンは彼に向かって尋ねる。
「お前は俺に何かしたのか?」
「いや、俺はお前に恋の素晴らしさを教えただけなんだが」
「って言ってるが…」
イーサンは困ったような顔をして私を見てくる。
「それが問題なんです。教えりゃいいって問題じゃないんですよ」
「す、すみません」
ライトン様は怯えた表情で私を見てから頭を下げたけれど、すぐに申し訳無さそうな表情になって言う。
「でも、もう無理だと思うけどな。イーサンは自覚してしまってるから」
「それがおかしいんですよ! 私のどこに魅力があるって言うんです!?」
「そんな全力で自分を卑下するような質問してこなくても…。別に、君に魅力がないわけでもないと思うんだけど…。というか、女の子、いや女性は若かろうが年をとっていようが素敵だと思うよ!?」
「あなたの考え方は悪くないかもしれませんが、今の私にとっては、とても迷惑なんですよ」
「何がそんなに迷惑って言うんだよ。女性は愛されて可愛くなるって聞いたことない!?」
ばちん、とライトン様が笑顔でウインクしてくるものだから、殺意を覚える。
「なんなんですか、ライトン様。いつでも俺を殺せっていう合図でもして下さったんですか」
「そんな訳ないだろ!? イーサン、怖いよ、君の婚約者!」
「怖いだろう? それがクレアなんだ」
「いや、イーサン、別に俺は褒めてないからね!?」
ライトン様の言葉を聞いて、イーサンの動きが止まった。
ああ、これ、面倒くさいやつになりそう。
「ライトン、お前はクレアの悪口を言ったのか?」
「ち、違うよ! 褒めてもないけど、悪口でもない!」
イーサンの声色が変わり、ライトン様を睨みつけながら言うので、彼は焦った表情で慌てて両手を大きく横に振りながら言葉を続ける。
「気分を害したなら謝るよ!」
「クレア、どうだ? 許すか?」
「それについては、別に気にしてないからいいわ。あ、そうだ。ライトン様、1つお願いがあるのですけど」
「な、何かな」
「イーサンに抱きしめられてもらってもいいですか?」
「は?」
聞き返してきたのはライトン様だけではなく、イーサンもだった。
ちょうどいい。
私はイーサンが力加減ができるのかどうか調べたかった。
けれど、他の令嬢を犠牲にするほど、根性が腐っているわけでもない。
ちょうど良さそうな奴がいたわ。
もし、本当に力いっぱい抱きしめられて、骨が折れるようなものであったりしたら大変だから、先程、ジュード辺境伯とイライジャ様の所に治癒師が来ていたから、その人を呼んできてから、イーサンに抱きしめてもらうようにしてみよう。
ちなみに治癒師というのは、私達の国では、回復魔法を使える数少ない人間の事で、病気を治したりはできないけれど、骨折などの治癒や傷付いた内蔵の修復ができる人間の事だ。
なくなった身体の一部を再生させたり、神経が傷付けられたりしてしまうと完治までは難しいらしいけど、骨折なら、きっとつなぎ合わせてくれるだろう。
「イーサン、お願い。彼を私だと思って抱きしめてほしいの。そして、ライトン様は素直に抱きしめられて下さい」
「え、ええ。男に抱きしめられるの?」
嫌そうな顔をするラントン様を睨みつけると、渋々だけれど、彼は頷いた。
「わかったよ。ああ…。もしかして、今日は厄日なのかな…」
それから、私は治癒師を応接間に呼んできてもらい、治癒師の中年の男性が来てから、早速、実行してもらう事にした。
「さあ、イーサン。ライトン様を私だと思って!」
「違うと思うんだが…」
「いいから!」
イーサンは渋々ながらもライトン様に近付いていき、そっと優しく抱きしめた。
あら、これなら大丈夫じゃない?
「これはクレア、これはクレア」
イーサンは呪文のように呟いた後、叫んだ。
「クレア! 大好きだ!!」
「ぎゃあああああっ!!」
ライトン様の絶叫と一緒にボキボキという音が聞こえてきた。
「ひっ! ちょっとイーサン! 待て! 待てしなさい!! ライトン様が死んじゃうわよ!?」
「クレア!」
「やめろって言ってんでしょうがぁ!!」
靴を脱ぎ、ジャンプしてイーサンの頭を靴で殴ると、きょとんとした顔で、彼は私を見てきた。
「あれ、クレア?」
「あれ、クレア? じゃないわよ! 治癒師様! お願いします!! 死んじゃうのは困ります!」
「あわわわ」
気を失ってへなへなと崩れ落ちたライトン様を見て、治癒師は間抜けな声を上げたあと、慌てて治療を始めた。
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