第11話 アタマ、ダイジョウブ?

「おかえりなさい、イーサン!」

「ただいま、クレア!」


 抱きしめようとしてくるイーサンから距離を取りながらも、安堵の表情で無事を喜ぶ。


「無事に帰ってきてくれて良かったわ」

「…クレアはいつになったら抱きしめさせてくれるんだ?」


 大きく手を広げながら、イーサンがじりじり近寄ってくるので、私は睨みをきかせながら、右手を前に出して言う。


「申し訳ないけど、私はまだ命が惜しいの」

「俺をそんな無差別殺人者みたいにいわなくても…」


 イーサンがしょぼんと肩を落とす。

 彼の力はゴリラ並みなので、抱きしめられようもんなら、私の骨が折れる。


「力の加減もせずに抱きしめてくるなら一緒よ。イーサンは私を殺したくないでしょう?」

「殺したくない! だけど、恋人同士は久しぶりの再会では抱き合うんだと、兵士の皆から聞いたんだ!」

「いつの間に私達が恋人同士になったの!?」


 私が叫ぶと、イーサンはまた、がっくりと肩を落とした。


 なんで? 

 私は悪い事を言ってはいない。


 だって、元々は居候させてもらえるから婚約者になっただけで、恋人同士ではない!


「俺はクレアの事が好きなのに…」

「はいはい、イーサン。ありがとう。私もイーサンの事は好きよ? だけど、それとこれとは別よ」

「クレアのバーカ。絶対に意味がわかってないだろ」

「誰がバカよ! イーサン、あなた、そんな事を言う子じゃなかったでしょ!? 戦地で毒されてきたんじゃないの!?」

「そりゃあ毒されるだろ。どんな光景だったと思ってるんだ」


 そこまで言って、イーサンは大きく息を吐いて首を横に振る。


「ごめん。俺が悪かった」

「イーサン…、あなたは謝らなくていいわよ。私こそごめん」


 何を言おうとしたのかわからないけれど、拗ねているのはわかる。

 まだ彼に聞きたい事もあるし、話題を変える事にする。


「あなたのお父様とお兄様は無事だったのよね?」

「ああ。命に別条はないが、もう戦場にはたてないだろうな」

「…となると」

「でも、もう大丈夫だ。このまま終戦をむかえると思う」

「なら良かった」


 ホッと胸をなでおろす。

 もう、イーサンが危ない所へ行かなくていいし、これ以上、犠牲者が出ない事も嬉しい。


「だから、俺はこれからはクレアと仲良くなる作戦を実行しようと思う!」

 

 なぜか拳を握りしめると、私に向かって笑顔で言う。


「は?」

「俺は今回の戦いで受勲する事になるみたいだから、褒美として、しばらくは遊んで暮らせると思うんだ。だから、クレアと一緒にいようと思う」

「は?」

「名付けて、クレアとラブラブ大作戦!」

「ちょっと、アタマ、ダイジョウブ?」

「大丈夫だ!」


 爽やかな笑顔を私に向けてくる。


 全然、大丈夫じゃないわよ。

 そんなに戦地が過酷だったのね…。

 少しは優しくしないと駄目かしら。


 そんな事を考えていると、イーサンが続ける。


「クレア、ここ何日かは陛下への報告があったりで忙しいけれど、1週間後には一緒にいられるからな」

「イーサン、悪いけど、私、ラブラブになんてなっちゃうと、死んでしまいそうな気がするわ」

「えっ!? それは困る。じゃあ、どうしたらいいんだ?」

「今まで通りの関係でいましょう」

「嫌だ!」


 イーサンが勢いよく首を横に振る。


 なんで、こんな面倒くさくなって帰って来たのよ。

 もちろん、帰ってきてくれた事は嬉しいけど!


「イーサン」

「ん?」

「あなたが戦地でよく話した人を紹介して欲しいな」

「ん? いいけど、なんでだ?」

「どんな人なのかなぁって思って」

「わかった」


 イーサンをこれだけ、面倒な人間にしたのだから、お礼させてもらおう。

 うん。

 そうしよう。


 どんなお礼にするかは、人を見て決める事にしよう。

 よっぽど良い人じゃない限り、何らかの形で痛い目に合わせてやる。


 そんな良からぬ事を考えていたせいか、次の日、イライジャ様から、恐ろしい話を聞かされる事になる。

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