第4話 置いてくれるおつもりですか?
「というわけだ。あなたはムートー子爵だな。レッドバーンズ嬢に危害を加えようとしたという事で、あなたをボコボコにさせてもらう」
どういう事かはわからないけど、あまりにも彼が真剣な顔で言うから、私は笑いそうになったけど、ムートー子爵は眉をひそめたて言う。
「誰だ、お前は!」
「…あなたも俺を知らないのか。まあ、次男だし、戦地に赴いている事が多いから、社交場に顔を出さないからかもしれないから、しょうがないか」
「あなた方のおかげで、平和に暮らせています。ありがとうございます」
この気持ちに関しては常日頃から思っていたので、正直な気持ちを伝えると、ジュード家の令息は、少し悲しげに微笑んだ。
「君達が幸せに暮らせる様に頑張るよ」
現在、私達が住んでいる国は、隣国と戦争中だ。
彼の様な人達がいてくれるから、私は平穏に暮らしていける事はわかっている。
そういえば、彼も言っていたけど、普通なら今も戦地に赴いているはずなのに、こんな所にいて大丈夫なのかしら?
「あの、今更ですが、ここにいて大丈夫なんですか?」
「ああ。大丈夫だ。父と兄が前線にいるから、俺は家に帰っていたんだ。全員が戦地に赴いたら、俺の家が全滅してしまう可能性があるからな。で、家にいた時に電報が届いたんだ。どうしても話したい事があるから、ムートー子爵の家に来いと」
「あなた、バカなんですか!? そんなもの無視して良かったんですよ! あなたの元婚約者、婚約者がいる男と恋愛関係になってたんですよ!? しかも、こんなうだつが上がらない男と結婚するらしいです!」
「おい、クレア! 誰がうだつが上がらないない男だ!」
あんたの事よ!
ムートー子爵が叫んだので、彼がこの場にいた事を思い出して、頭の中で叫び返す。
「ムートー子爵と結婚する? …もしかして、結婚報告するつもりで、彼女は俺をこんな所まで呼び出したのか!? 俺にしてみたら、何の興味もないんだが…」
「でしょうね…。だからお家に帰っていいと思いますよ」
ムッとした表情になった、ジュード家の令息に苦笑して言うと、彼は表情をやわらげて頷く。
「わかった。ただ、帰る前にやらない事をしないといけない」
ジュード家の令息は笑顔で、ムートー子爵に近付いていく。
「あなたは自分勝手な理由で行くあてのない女性を追い出し、暴言を吐き、石を投げて彼女を傷つけようとした。見過ごすわけにはいかない。本来なら牢屋に放り込みたい所だが、彼女の望みはボコボコだからな」
そう言ったあと、ジュード家の令息は爽やかな見た目からは想像できないほど、ムートー子爵を叩きのめした。
最初はムートー子爵も抵抗し、近付いてきた彼に殴りかかろうとしたが、まったくお話にならなかった。
私はだいぶ気持ちがスッキリして良い気分になり、地面に倒れたムートー子爵をそのままにして、私に近付いてきたジュード家の令息に、感謝の気持ちを伝える。
「ありがとうございました」
「かまわない。では、帰ろうか」
「……?」
「……?」
私達2人共が不思議そうな顔をして見つめ合った。
も、もしかして?
「私を本当に家に置いてくれるおつもりですか?」
「もちろんだ」
そう言って、彼は私に右手を差し出してくる。
「イーサンと呼んでくれ」
「…では、私はクレアで」
たぶん、彼は私を恋人に捨てられた可哀想な人だとでも思っているんだろう。
行くあてもない事だし、とりあえず、少しの間、お世話になろうかな?
安易な考えだけれど、そう思い、私は彼の手を取った。
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