最終話 邪神ヤマダサブロウは、今日も勝てない
「また負けた! なぜだ。なぜ、こうも勝てないんだ!」
掲示板に貼られた生徒会役員選挙の結果を眺めて、僕は膝を落とす。
僕に入った票数は、たった三票。
納得できない。ステージに立ってさえいれば、完璧な演説で生徒の心を鷲づかみにできるはずだったのに! 数日徹夜して書いたスピーチ原稿が、無駄になったではないか。
「寝込んで棄権していなければ、僕の勝ちだったのに……」
『アホか。寝言は寝て言えっちゅうねん』
うなだれる僕に、アイヤネンが追い打ちの冷水を浴びせかける。
「オレ様は、山田に入れたが?」
「わたしもだよ」
自らに期日前投票した分も入れて三票か。待て。一票足りないじゃないか。
「おい三菜子、お前は誰に投票したんだ?」
「タケルに決まってるじゃないか」
なんだと。バカな。
「あり得ないぞ三菜子。僕達は運命共同体だろ? どうして僕に票を入れない?」
「キミに入れること自体があり得ないよ。優秀な現職に任せる方が、いいに決まっているじゃないか」
何が間違っているか、とでも言いたげに、誇らしく三菜子は語る。
しかし、投票日に出席できないとは。
タケルに、ほぼ全校生徒の票が集まった。半年行方不明だったにも関わらず、この結果だ。いかに南郷院タケルが生徒達に信頼されているかを証明している。
僕はヒカルに票数では負けたが、ヒカルが生徒会長になるのは阻止できた訳だ。勝ったのか負けたのか、微妙な所だ。
「ありがとうね。三郎くんがいなかったら、お兄ちゃんは帰ってこなかったよ」
今までよりも、ヒカルは心の底から笑顔を溢れさせる。
「僕は何もしてない。兄を引き留められたのは、ヒカルの功績だろ」
僕が言った百の言葉より、妹が放った一言の方が強いと思う。
「でも、わたし一人だったら、きっとまた我慢しちゃってた。仕方ないんだろうなって」
「僕が動いた甲斐は、少しはあったのか」
僕はまた、南郷院に土をつけられた。だが、なぜだろう。こんなにも清々しい。
「さて、三菜子の星にも人が戻ってきたようだし、何をするかな?」
「そうだね……とにかく、カップ麺の普及かな?」
どこまでも食い意地の張った邪神だ。
「天使の脅威は去ったわけだ。これでもう、ヒカルが魔法少女になる必要はあるまい」
僕が言うと、ヒカルは「あー」とため息をつきながら、口を開く。
「それがね、女神様に聞いたら、魔法少女の契約自体は消えないんだって」
言いづらそうに、ヒカルは口を開く。
「なぜだ。天使はもう襲ってこないのだろう?」
『完全に消えたわけではないんや。数はだいぶ減ったけどな。それに、一度契約してしもうた魔法少女は、一生契約が消えへんのや』
「なんだと……」
正直、生徒会に落ちたときよりショックだ。
「僕の働きは結局、無意味だったと」
『そうでもないで。お前の働きで、ヒカルの処遇が見直されるようになったんや。今後は、だいぶ自由に動けるようになるで』
「そうか。また天使が襲ってくるようなら、返り討ちにするまでだ」
『いや、そうやなくて』と、アイヤネンは思わせぶりに言葉を続ける。『あんな、ヒカルが何をしても特に咎められんくなった、っちゅうわけや』
僕は意味が分からず、クビをひねった。
「それがどうしたんだ?」
「鈍いねキミは。ヒカルは誰を好きになってもいいってことになったんだよ」
「そうか、って何!?」
頭を殴られた衝撃を受け、僕は三菜子を二度見した。
「ヒカルは誰か好きな奴がいるのか!?」
僕はヒカルの肩をつかむ。
「いないよ!」
思い切り、ヒカルにビンタされた。
「……これは、重傷だね」と、三菜子が肩をすくめる。
『アカン。恋は盲目と言うたかて、これはヒカルが報われへんわ』
かわいそうな人を見る目で、三菜子とアイヤネンは僕を見る。
ヒカルも頬を膨らませて、不機嫌になった。
「それはそうと、三菜子」
「なんだい、藪から棒に?」
「お前には感謝せねばならん」
三菜子が力を与えてくれなければ、タケルを死なせていたかも知れない。ヒカルを自由にすることもできなかった。
「ここまでうまくいったのは、ひとえにお前の助力あってのことだ」
「……らしくないよ。悪くないけどさ」
照れ隠しなのか、三菜子が僕の背中をバンと叩く。
「なんだ? 痛いではないか」
「もっと神様らしくしたまえよ、三郎。全てが終わったわけじゃないんだ」
頬を染めつつ、三菜子は決意を語る。
「となれば、やるべきことは一つだ。天使共を根絶やしにする! そうなれば、ヒカルは今度こそ、僕だけを見るようになるぞ!」
「……だといいけどね」
また、邪神が肩をすくめた。
(完)
自意識だけ高い秀才モブが、美少女邪神に取り憑かれた結果ッ! 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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