第四章 帰ってきた主人公!? 南郷院タケル
六角祐紀説得大作戦
南郷院タケルが戻ってきて数日が経った。
乱れがちだった風紀は、再び引き締まるだろう。これにて、生徒会は安泰だ。
放課後、タケルと校門で鉢合わせた。
「タケル、いや、生徒会長と呼んだ方がいいか?」
「どちらでも構わない。昔からの仲だ。今更、遠慮の必要はないだろ」
ならば、僕も遠慮はしない。
「ではタケル、生徒会はいいのか?」
「今日は用事がない。それより」
神妙な面持ちで、タケルは話題を振ってくる。
「何事だ?」
「どうも、学校内が変だ。一部生徒が妙に大人しい。心当たりはないか?」
騒いでいるならまだしも、大人しいなら問題ないとは思うけれども。
「いや、特には」
「そうかい? ワタシは気になっていたが」
「さすが神の化身だな。何らかの気配に気づいたか」
はるか遠くの世界からマニフィカトを追ってきた三菜子には、少し気がかりな点があるようだ。
「マニフィカトか?」
「それは分からない。あまりにも反応が微弱すぎる。関係ないかも知れない」
僕は特に不安は感じないが。
「今はやりの、新型うつとかではないのか?」
「だといいけど」
「とはいえ、イヤな予感がする。学内が関連するのかは分からないが」
警戒をしておくと、タケルは語った。
「話は変わるが、六角の説得は進んでいるか? まだ学校には顔を出していないと聞いた」
「これから、やりに行くところさ」
「えらく自信がありそうに見えるが」
「そりゃあ、特大の『エサ』を用意しているからな」
ふしぎそうな顔で、タケルはクビをかしげる。
「まあ任せてくれ」と、タケルに伝えて、僕は校門を出た。
「さて、六角祐紀説得大作戦を決行しに向かうか」
タケルとの約束通り、僕は六角祐紀を説得しに行く。
「いたいた。よう、六角」
託児所近くの空き地に、六角祐紀はいつものようにしゃがみ込んでいた。かつてのような瘴気はもう放っていない。
「何の用件だ? また学校に戻れって説得しに来たのか?」
「いいや。今日はお前の本性を見抜いてやろうと思ってな」
六角祐紀はいい奴だ、と皆は思い込んでいる。託児所を追い出されそうになっている子供達を守ろうとしていると。
しかし、僕は分かっている。こいつの本性を。
「貴様は戦いたいだけだ。マニフィカトという格好の『エサ』を、ただ喰らいたい」
そうだろ、と問いかける。
六角の口元に、肯定とも取れる不敵な笑みが浮かんだ。
「どうなんだ? 間違っているとは思えんが?」
「よく分かってるじゃねぇか」
やはり、六角の本能は、戦闘に向けられている。遠慮せず狩りを楽しんでいいというインモラルな感情を、もう六角は隠そうともしていない。
「だったらどうする? お前も、南郷院みたいに、オレを更生って檻に閉じ込めるか?」
「いいや、違う。好きにすればいい」
「ああん?」と、六角は眉間にシワを寄せた。
「その代わり、僕に協力しろ。格好のエサ場を紹介してやる」
「意味分かんね」と、六角は訝しむ。
「オレ様を善人に仕立て上げたのは、テメエだろ?」
「お前も迷惑なんだろ? 善人扱いされるのが。その悩みを解消してやる。ついてこい」
僕は、六角を無理矢理立たせた。
「手首掴むなよ、痛ぇだろ?」
「こうしていないと、お前は逃げるだろ?」
僕から離れようとする六角を、僕は強引に引き連れていく。
「っち……」と、六角の舌打ちが飛んできた。
「逃げねえっての……」
通学路である商店街に、夕日が差し込む。
書店の裏へと、六角を誘導する。
『どこへ連れて行く気よ? この裏路地って確か、ラブホテル街よ?』
疑惑の問いかけを、ロクサーヌが飛ばしてくる。
「テメエ、やっぱそういう目的で」
六角がより強く、僕の手から手首を抜こうとした。
「黙ってろ。ついてくれば分かる」
太陽から逃げるように、六角を路地へと連れて行く。
「三菜子、頼む」
「いいから、おいでってば」と、三菜子が、六角の背中を押す。
「んだよ、お前ら。こんな所まで連れてきて。ん?」
僕は六角を、灰色の世界に連れてきた。
星ひとつない、一面の夜。辺り一帯が灰色の岩肌に覆われている。一面が《死んだ街》と同じように、色を失っていた。酸素があるだけマシか。
「どこだよ、ここ、異界だよな。右を見ても左を見ても、クソ天使共ばっかじゃねえか」
そう言いつつも、六角は極上のエサ共を相手に、舌なめずりをしている。
「ワタシが守り、ワタシが壊してしまった世界だからね」
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