悪堕ちの原因は……僕!?

 戦闘服を再構築し、僕は手を空に掲げた。

 

 天空に、雨雲を呼び寄せる。やがて、空が灰色に染まった。六角の竜巻も合わさって、まるで台風のように雨雲が渦巻く。

 

 掲げた手を、六角に向けて振り下ろした。


『レイニー・ジャベリン!』


 灰色の空から、鋼鉄製の雨粒が降り注ぐ。六角の作り上げた竜巻だけに、集中させる。


「金属製の雨くらいで、オレは止められないぜ!」


 雨で作った矢を、竜巻にたたき込む。


 だが、竜巻の勢いは止まらない。六角は槍のように降る雨をものともせず、すべて蹴りで弾いていった。


「同じ事だぜ。オレ様に霊磁力を使った技は通じない」


「それは、どうかな?」


 竜巻の勢いが弱まる。僕の鼻先にまで迫っていた竜巻は、急激に威力を減衰させ、ついに制止した。


「なぜだ!」


「お前の攻撃は全て、物理に頼っている」


 霊磁力による攻撃は、あくまでも刃のみ。竜巻を巻き起こしているのは、物理的な力だった。ならば、物理的な攻撃は有効なはずだ。


「自分の身体を見てみろ」


 赤黒くなった己の手脚を見て、六角が驚愕の表情を見せる。間接部が特に酷く、動きもぎこちない。


「錆び付いてやがる!」


『まさか、酸性雨?』


 そう。レイニー・ジャベリンは酸性の雨を降らせて、相手の動きを鈍らせる攻撃だ。本来ならば、大量のマニフィカトの羽根を錆び付かせる攻撃なのだが。


「今だ、ヒカル!」


 僕が指示を出す前に、ヒカルは動いていた。手の中でステッキを振り回し、霊磁力を集めていく。


「えいっ」


 ステッキの先端から、太陽の光を放つハートマークが放たれる。


「くおっ!」


 身動きがとれない六角の身体に、ハートマークが入り込む。


 六角は膝をついた。しかし、その後は特に苦しむ事なく、六角から天使の反応が消えていく。身体を鈍らせていた錆も、すっかりと元通りに消滅した。


「これで分かった。お前の能力は、二つ以上の違った属性を、同時には吸収できない」


『なんでよ? あんた達の霊磁力は雷撃の属性しかなかったはずよ!』


 まだ分からないのか。


「それは三菜子の持つ霊磁力の属性だ。僕の霊磁力属性は水なんだよ」


 僕は手の中に、小さな水の渦を作り出す。


『アンタ達は、二つの霊磁力を操れると?』


『いかにも。それこそ神格クラスの持つ霊磁力さ。ワタシが力を分散させたのも、その秘密を天使に漏らさない為』


「クソ、デタラメじゃねえかよ……」


 膝を突きながら、六角は恨めしい視線で僕を突き刺してくる。


「でも、どうしてあなたほどの強い霊磁力を持つシェーマが、暗黒面に落ちて天使化なんてしたのでしょう? 神様クラスですら、あと一歩まで追い詰めたじゃないですか」


『それよそれ!』


 ヒカルの問いかけに、ロクサーヌが目を血走らせた。


『アンタのせいよ、このクソ邪神!』


『ワタシのせいだって?』


 三菜子が、六角に何かしたのか? 知り合いでもなければ、面識すらないはずだが。


『違うわよ。男の方よ、男の方!』


「僕が、か?」


『そうよ。アンタのせいで祐紀は! しくしく……』


 さめざめと、ロクサーヌがわざとらしくハンカチで目元を拭く。


『だってね、自分の冤罪を晴らしてくれて胸キュンしちゃったのよ。でもそいつはすでに特定のオンナがいてね。しかも仲睦まじくケンカしてるのよ。見せつけるようにさ! こんなんじゃ、祐紀の入り込む隙間なんてない訳よ! 分かる? 恋をした瞬間に失恋しちゃってたなんてね! ダークサイドにだって転落しちゃうっての!』



 六角が、僕に? まさか!


 

『なんや罪なヤッちゃなー、いかんなーそいつは。ギロリ』


『でしょでしょー? わかるでしょー? チラッ』


 ロクサーヌとアイヤネンの視線が痛い。


「アホか、ロクサーヌ! 変な妄想してんじゃねーっ!」


 六角がロクサーヌの口をふさぐ。


「だからって、そんな短期間で」


『それよ。どこからともなく、天使の声が聞こえてきたの。その瞬間ネガティブになっちゃってさ、あっという間に悪墜ちよ』


 だとしたら、その声の出所こそ、強力な霊磁力の正体だろう。


 ともあれ、これで六角は元に戻ったはずだ。


 なのに、世界が一向に改変しない。ヒカルが浄化の光を放っても、同じ事だった。


「アイちゃん、天使化って二度も起きるの?」


『いんや。聞いた事もない。一度目はシェーマの方が、二度目は宿主の方がつけ込まれたんなら別やが』


 アイヤネンの口ぶりだと、おそらく後者だろう。


「どういう事だ、何が起きているんだ?」




「ボクが刺激してあげたのさ」




 何者の声が、脳内に直接響く。と言うより、肌にまとわりついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る