全裸邪神

「――っ!!」


 優勢を保っていたはずの六角が、脱兎のごとく飛び去った。明らかな動揺の色を見せ、僕から距離を置く。冷ややかだった六角の肌が、焼けるように赤くなる。


『ヤバイわっ、祐紀!』


 気が動転しているのは、六角だけではない。バディであるロクサーヌもだ。


 六角の身体がキュッと縮こまる。目に涙をため、流すまいとこらえていた。


「お前、ホントに女だったのか?」


 制服が女子とはいえ、あまりに男らしすぎて、信じられなかったが。


『アンタに言われたくないわよ!』


「うるさい! 僕の場合はちょっと違うだろ!」


『同じようなもんじゃない!』


 しかも、背が低い割に、プロポーションがふっくらしていた気がする。三菜子のサーチ能力によると、近くはあるのではなかろうか、という。


「テメエ……絶対殺す!」


 怒気を孕んで、六角が凄む。


 死神ロクサーヌの霊磁力が膨れあがる。


 糸ノコギリの光が、回転速度を増した。


 ソードレイを水平に構え、しゃがむ。体勢を低くしながら、待ち構える。


『何をやっても同じ事よ!』


「どうかな? 黒の嘶き!」


 僕は、ソードレイを振り回し、暗黒の雷撃を、周囲に放つ。


 土煙があがり、僕の姿を隠した。


 構わず、僕はソードレイで周囲の土を削る。


「目くらましだろうが、関係ねえ!」


 ドロップキックで、六角は僕のノドを狙う。


 僕は胸の辺りでソードレイを構え、ふくらはぎの剣を弾いた。激しく火花が散る。


 粉塵によって、強烈な電光が六角を襲った。


 口を開け、ロクサーヌが雷を吸い込もうとする。が、それは不可能だ。


『イッターイッ!』


 ロクサーヌの口の中に、雷が直撃した。


「霊磁力を捕食できない!」


 六角が苛立ちの声を上げる。


 そりゃそうだ。この電撃は霊磁力で作っていない。単なる静電気である。とはいえ、所詮は痛みを感じさせる程度だ。致命傷には至らない。やはり、霊磁力をぶつけなければ。


「よくも、舐めやがって。こうなったら」


 六角が脚の遠心力を利用して、バレエの旋回をはじめる。人間では到底表現できない早さの回転だ。それは巨大な竜巻と変貌を遂げる。


 ゆっくりと竜巻は近づき、建物を切り刻む。狙っているのは僕だ。


『三郎、止められるかい?』


「止めてみせる。できなければ何が邪神だ」


 無人のビルを、ガードレールを、電柱を切り裂き、突き進む。


 バレエの回転と、ブレイクダンスの回転を混ぜ合わせた、独特なダンスを披露している。


 僕は仁王立ちになり、腕を組んだ。


「三郎くん!?」


 ヒカルの悲鳴を聞きながら、僕は竜巻に飲まれた。僕の装備を、六角の竜巻が切り刻んでいく。


「平気だ、ヒカル」と、僕は腰に手を当てて答えた。我ながら自分の不死身ぶりに驚く。


「よかっ……て、ええええええええええええええ―ーっ!?」


 目玉が飛び出るかと思えるくらい、ヒカルが絶叫した。


 無理はない。装備や衣服をズタズタにされ、僕はすっかり丸裸になっていたのだから。


 無理はない。装備や衣服をズタズタにされ、僕はすっかり丸裸になっていたのだから。


「テメエ、何のつもりだ?」


『そうだよ。何を血迷ってるの? 敵前で非武装のままでいるのはさすがにワタシも』


 六角と三菜子に問い詰められる。ていうか、人前で裸になるのは不問にするのか、三菜子。


「他でもない。僕は六角を辱めてしまったからな」


 これはいわば、ケジメだ。本当は死んでしまいたいほど情けなく、恥辱の念に満ちている。だが、これくらいしなければ、六角の怒りは収まらないだろう。


「義理堅いのか、アホなのか」


『バカなのよ、きっと』


 六角コンビに、僕の武士道精神は理解できなかったようだ。


「それに、対策はできそうだ」


「何い?」


 僕の発言に、またも六角が激情の竜巻を巻き起こす。



『注意して、祐紀。あいつ、あれだけの竜巻に飲まれて、無傷だったのよ?』


「構うもんかよ! 次の攻撃でミンチにしてやらぁ!」


 ロクサーヌの忠告も、六角の耳には入らない。


「他に魔法はないか?」


『あるにはあるが、有効かどうか』


「他に選択肢はない。やってみるぞ」

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