変身、ロクサーヌ
「ふにゃあああ!」
僕の視線に気づいて、ヒカルが慌てて身を腕で隠す。
見たくなくとも、一瞬だけ見てしまった。
「すまん!」
「ごめんね三郎くん、できるだけ見ないでねっ!」
僕のせいなのに、なぜかヒカルが謝る。
「おお、ピンク色の帯が、きわどい部分に巻き付いたぞ。かと思ったら、白いミニスカのドレスに早変わりした。うん。やっぱりスタイルいいね、ヒカルは」
直視できない僕の代わりに、三菜子が実況中継を始めた。映像が頭に浮かぶから、やめてもらいたい。
「もう見てもいいよ三郎。肌色成分が減ったぞ」
「うん。見ていいよ三郎くん」
ヒカルの許可を得たので、僕はうっすらと目を開ける。
同時にポン、と魔法少女が姿を現す。
『マジカルエスト、変身完了や』
ニーソ状態のアイヤネンが、ドヤ顔を決める。どうしてコイツがカッコつけているのか。
変身を終えたヒカルが変なポーズを取る。構えた瞬間、放出されそうになった霊磁力が落ち着きを取り戻す。さっきの構えには、魔法を制御する役割があるようだ。
「魔法少女の仕組みを、確認せんでもええのか?」
「いいよ、別に」
確かに、ヒカルはライバルだ。が、弱点の分析まではしなくてもいいだろう。
「ワタシが見た映像を、キミの脳内で再生してやってもいいぞ」
「必要ない! 僕はヒカルを辱める気持ちなんてないから!」
「健気だねぇ。思考は童貞だけど。ヒカルが気にかけるのも頷ける」
「この緊急事態に何言ってるんだお前ーっ!?」
「う、うう」と、決めポーズをしていたまま、ヒカルの頭に湯気が湧いていた。三菜子が変なこと言うから。
「おい、もういいか?」と、うんざりした様子で、六角が大げさに肩を下ろす。
「よく避けたな。ふざけた格好だが、腕は立つようだ。こっちも本気で行くか。ロクサーヌッ!」
『いつでもオッケーよ』
ロクサーヌと呼ばれたアフロのテナガザルが、六角の身体に吸い込まれていった。六角の霊磁力が大きく膨れあがり、身体の外側に光となって溢れ出す。着ている物が蠢き、別の物へと変化していった。何かは分からない。だが、危険なのは確かだ。
「何が起きているんだ?」
『人間とシェーマが融合したんや』
攻撃しようにも、膨大な霊磁力に圧倒されて近づけない。
もたついていると、融合が完了してしまった。
六角の身体を、紫のラバースーツが包む。六角の前腕と、足の裏に沿うように、細身の刃物が装着される。まるでフィギュアスケートのシューズのようだ。人間の骨格を模した様な機械の装甲が、六角を覆う。
たしかに女性らしい、随分と丸みを帯びた体格だ。
「さて、これで本番開始って訳だ」
バレエのように、脚をそろえながら直立する六角。
異形の武装は、マニフィカトに近い姿をしている。
「なんだアレは……」
『シェーマは二段階変身できるねん』
第一形態は、雑魚レベルのマニフィカトを倒すモード。エネルギー消費が抑えられ、弱いマニフィカトなら一掃できる。だが、さらに強い敵を相手にするには荷が重い。
変身にはもう一段階あり、より強力な攻撃を繰り出す事が可能だ、ただし、エネルギー消費が激しく、長時間は変身を維持できない。
『お前、その神さんに何も聞かされてへんのか?』
不思議そうな表情が、アイヤネンの顔に浮かぶ。
『ヒカル、こっちもスーパー浄化や!』
「でも、相手は一般人だよ。シェーマの力なんて浴びたら、ひとたまりもないよ」
『そんな悠長なこと言ってる場合か! 相手は下手したらシェーマの霊磁力に飲み込まれてまう。シェーマが人を食ってまうんやぞ。戦うんはあの人間の為なんや!』
「だけど、まだあの人は人間だもん! 力加減を間違えたら、死んじゃうんじゃ」
ヒカルの叫びを全否定するかのように、六角が歪んだ笑みを浮かべた。
「どうでもいいからよお、さっさと掛かってこいよ」
なおも、六角が挑発してくる。その霊磁力は、どこか天使のそれを思わせた。シェーマが持つような暖かさがない。凍った鉄のような。
『なんや、あいつから溢れ出す霊磁力は? まるで《天使化》やないか』
天使化……僕の担任が天使になってしまったあの現象か。だとしたらまずい。
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