ボーイッシュ少女 再び

 マニフィカト退治の日々は、まだまだ終わらない。


 せっかくの日曜日だというのに、今日も天使狩りに出撃した。


「強大なマニフィカトの反応を感じた」と三菜子が言うので、そのポイントへ急ぐ。


 場所は、僕達の街から一駅向こうのビル街である。いつもは仕事帰りのサラリーマンが駅へと向かう光景が広がっているはずだ。


 しかし、どこにも人の気配がない。

 今にもマニフィカトが支配する異世界になろうとしているのだ。


 マニフィカトの数は膨大で、現実にも影響が出そうになっている。



 銀の翼を携えた無数の異形が、僕達を取り囲む。


「邪魔だ!」


 ソードレイを撃ちまくり、僕は天使を蹴散らす。


「なんて数だ! これまでで最大級じゃないか」


 だが妙だ。都市自体にダメージはない。

 これだけの数が集まっていて、異世界化も進んでいるのに。


「こいつら、別に目的があるんじゃないのか?」

「そのようだね」


 三菜子は、自らの周囲にこの周辺の地図を拡張現実で照らし出す。


 マニフィカトの反応を示す点が、ある施設を指し示した。


「三郎、この都市には、大きな託児所がある。どうやらマニフィカトは、大人ではなく子供を狙ってるみたいだ」


「そうか、こいつら、僕達を足止めしているんだ。そうはいくか」


 最大級の黒雷が蛇のようにのたくる。黒い光の蛇は、無数のマニフィカト共を容赦なく飲み込んだ。


 マニフィカトを撃退しつつ、こども園へと向かう。


 スマホを手に目的地に向かうと、保育所の門が見えてきた。


『市立 新垣あらがき保育所』と、門には書かれている。


 託児所の門では、細身の天使が男女二人組の幼児に狙いを定めていた。


 少年が庇っているのは妹か。


「ウヘヘ。痛くしないから大人しくエサになりな」と、機械の天使は口を歪める。


「エサになるのは貴様だ!」


 背後から容赦なく、僕は機械天使を切り刻む。「怪我はないか?」と兄妹に声をかける。


 少年は一瞬、視線を泳がせた。かすかに怯えが見える。


 怖がらせてしまったか。


「中には、もう誰もいないな」


 呼びかけると、すぐに少年は正気に戻った。


「逃げ遅れた僕達を、パーカーの人が逃がしてくれたんだ」


「パーカーの人?」


「まだ中にいるはずだよ」


 僕が聞くと、少年は託児所を指さす。


「お前達は逃げろ。ここは生身の人間が入っていい場所じゃない」


 三菜子に二人を任せ、保育所へ。


 施設内には誰もいない。


 こじんまりとした運動場へと歩を進めた。天使の影響を受けて、遊具すら異様な歪みを帯びている。グラウンドには、大量のマニフィカトで溢れかえっていた。とはいえ、全て倒されていたが。


「見たまえ三郎、この光景を。なんとも壮観じゃないか」


 三菜子と合流する。避難は無事に終わったらしい。


 辺り一面、マニフィカトの死体だらけだったのである。前に倒した昆虫タイプばかりではない。半漁人のようなタイプも見受けられた。


「色々なタイプのマニフィカトがいるんだな」


「様々な世界を食って成長してるからね」


 三菜子は死体に近づいて、腕を掴んだ。本当に死んでいるのか確かめるように、プラプラとさせる。ボロッと足がもぎ取れた。その後、死体が一瞬で黒い砂に変わる。


 ヒカルは裏門にいた。先にある駐車場へ向けて、子供達を誘導している。


「ヒカルも来ていたのか。お前がやったのか?」


「正確には、わたしがやる予定だったんだよ」


 言っている意味が、一瞬分からなかった。


 しかし、ヒカルの姿を見て、僕は得心を得る。


 異界にいるときは、常に魔法少女の姿をしていた。今のヒカルは変身していない。制服姿である。


 天使の遺体も、ヒカルの攻撃で死んだのではない。どの天使も、肉体を切断されている。こんな殺し方はヒカルにはできないし、できる性格でもない。


「つまり、別のシェーマの仕業というのだね?」


 頭が追いつかない僕に変わって、三菜子がヒカルに問いかける。


「そうだよ。多分、あの子がやった」


 広場の隅に人影が。よく見ると、小柄なボーイッシュ少女が地べたに座り込んでいた。

 まだ夏の日差しが差し込んでる季節なのに、パーカーを目深にかぶっている。

 自分の気配を殺しているかのように。

 真っ赤なハープパンツにスニーカーを履いている。


 さっき幼児が言っていたパーカーの人とは、こいつの事だろう。


「よく見て三郎、あの子は以前にも会ったことがあるよ」


「分かってる。覚えているとも」


 あいつは、落書き犯と間違えられた少女じゃないか。


「三郎、あの子の腕を見て」


 三菜子が、六角の手の甲を差す。


 何らかの紋章が浮かんでいた。


「あれは、シェーマの紋章!」

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