三奈子と異世界と叔父
再び、陣取りゲームに興じる。
「よし、ワタシの勝ちだね」
気がつけば、七割方の陣地が三菜子に奪われていた。先に三菜子が一〇勝する。
これ以上やっても勝てないだろう。モチベーションが下がった。僕は風呂へ向かう。
「お風呂かい? 一緒に入ろうっと」
三菜子が立ち上がって、僕の後をつける。
「なぜついて来る!?」
「ワタシとキミは一心同体。死ぬときまで一緒だぞ」
「ついてくるな。というか、お先にどうぞ」
目力で圧倒し、三菜子の足取りを制した。
「つれないなぁ」と言いつつ、三菜子が渋々、脱衣所へ向かう。
「母さん、いいのか。あいつを置いておいて」
台所で洗い物をしている母に問いかける。
「あら、どうして? 楽しくっていいわ」
「そうじゃなくて……」と、僕は、言葉を含ませて尋ねた。
「あいつは叔父さんの子じゃない」
僕は、事実を告げる。
しかし、母親は洗い物の手を止めない。平静を保っている。
「いいじゃない。お母さんは気にしないわよ」
母は、あくまでも三菜子を家族として認識しているようだ。
肩にタオルを掛けながら、三菜子が湯気を連れてキッチンに現れた。パジャマ姿の邪神は、冷蔵庫からオレンジジュースのパックを出す。母と他愛ない会話をして、テトテトと寝室へ向かう。
「僕も、無理に追い出したりはしない。母さんが、あいつを認めてるなら」
母の気持ちは分かった。
「なんの話をしているんだい?」
突然、バスタオルを髪にかけた三奈子が戻ってくる。
「はやすぎる!? 行水だなお前」
「いや、ふたりとも話し込んでいたからね。聞こえていなかったけど」
「……いいから。僕に構わず寝ろ」
「はーい」
まったくもう。
気分転換のために、僕は浴室へ。湯船に浸かって、ため息を一つ漏らす。
『ところで三郎』
急に声をかけられ、僕は湯船から飛び出した。
「うわあ、なんだよ? 一緒に入らないって言ったろ!」
辺りに三菜子の気配を探す。けれど、どこにも姿がない。
『思念を飛ばしてるだけだって。それなら一緒に入っているとは言わないだろ?』
そうだけど、身体を見られているのは事実だ。
改めて、僕は乳白色の湯の中へ身体を沈めた。なぜ僕が恥ずかしがらないといかん?
『この地球以外にも別の世界があると説明したね。でもキミは驚かなかった。どうして?』
だよな。普通ならもっとビックリすると思う。
「異世界の存在は、叔父の研究対象だったんだ」
叔父はずっと、この世界には現実世界以外に様々な異世界が存在すると、提唱していた。神隠し、バミューダトライアングルなどの現象は、すべて異世界が関与していると。
「それをもみ消したのが、南郷院だ」
南郷院の妨害もありつつ、異世界の存在を立証しようとした矢先、飛行機のトラブルで行方不明になった。
『ヒカルを恨んでるのかい? キミは、あの娘につっかかってるようだけど?』
僕は首を横に振った。
「ヒカルは僕が個人的に超えようとしている対象だ。関係ないよ。叔父がいなくなったのだって事故だ。南郷院のせいにするなんて逆恨みもいいところだよ」
『強いんだねキミは。だったら尚更、なにゆえヒカルを目の敵にするのか分からない』
「僕は、あいつに勝てたことがないんだ」
どういう訳か、僕はヒカルに一度も勝てたことがなかった。駆けっこなどは僕が転倒し、テストになると、ヒカルは妙な勘の良さを発揮する。
通信簿でも、僕は南郷院ヒカルより上になったことはない。いつだって、僕は二番手だった。
『そんなに、ヒカルは優秀な子なのかい?』
頭では、彼女が僕より優秀なのは分かっている。でも、口に出してしまったら僕は終わりだ。少しでもしがみついて、肩を並べていたい。でないければ僕は、ヒカルに認識してもらえないと思う。
『ウブだねえ。そんな事をしなくも、ヒカルはキミを意識しているだろうに』
「うるさい!」
天井に向かって、僕は風呂の湯をかけた。
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