僕が幼なじみを苦手なわけ

 夜、僕は三菜子とゲームに興じる。このゲームは、周囲をどれだけ自陣の色に塗りつぶせるかを競う。三菜子が言うには、「神々の陣取りを紹介するのに適しているゲーム」らしい。


 僕の操る四頭身のキャラクターが、身の丈を超えるサイズのローラー刷毛を手にした少年が、床を黄色に塗りつぶす。


 対する三菜子は、マシンガン式の水鉄砲を駆使して、僕が塗った黄色いエリアを赤く塗り替えしている。「うおー」と雄叫びを上げながら、三菜子はコントローラーを持ち上げたり身体を左右に振ったりしている。

 動きが完全に初心者なのに、戦績は三菜子が上だ。


「そもそも、マニフィカトってのは何者なんだ? どうして世界の滅亡に固執するんだ?」


 なかなか形勢が逆転しない状況に苛つきつつ、三菜子に問いかける。


「この世界で、神々が陣取りゲームをしている、という話はしたね?」


 僕は首を縦に振った。結局、手を止めて耳を傾ける。


「そうやって、互いの力を高め合ってるんだっけ?」


 世界は、一定の間隔で区切られているのではない。境界線が実にあやふやなものだ。あるのは真っ白なキャンパスだけ。神々は色を塗りつぶし合うように、世界を取り合っていた。キャンパスの中で、ルールに従って。


「マニフィカトは、『陣取りゲームに勝つためだけ』を目的に作られているんだ」


 要は「チェスに勝つために作られたコンピュータ」のような物か。


「誰の命令で動いているんだ? それに、誰がそんな危険な存在が作られたんだ?」


「指示を出しているのは【機械神】という属性だ。元々はワタシ達のジャッジ役だったが、自我を持って暴れ出した。『自分たちの方が効率よく世界を統一できる』ってね」


 恨みがこもった一撃が、三菜子が僕を水鉄砲で撃墜した直後、タイムアップに。


「機械神が暴走した原因は?」


「分からない。神の属性を持つから、何が起きても不思議ではなかったけど」


「弱点は?」


「特に弱点はないが、特殊な強みもない。数がすさまじく多いこと以外はね」


 それが一番厄介だな。


「ほら、このゲームだって、CPUが一番強かったろ?」


 ゲーム選択画面から、三奈子が不良が運動会をするゲームをチョイスした。


 僕たちが遊ぶ大人数対戦型ゲームは、たいていCPUが無敵の強さを誇る。 


「たしかに。マニフィカトとは、強すぎるCPUみたいなもんか」


 おそらく目的があるというより、

「目的を持つ存在を邪魔すること」

 が目的なのかもしれない。


「弱点と言えば、どうしてキミは、南郷院ヒカルを目の敵にするのかな?」


 どうして、ヒカルが僕の弱点になるのか分からないのだけれど。


「約半年前に、ヒカルに命を助けられた事があるんだよ」


 その日、僕の家で宿題を済ませようと、二人で家に帰ってきた。だが、鍵が開いている。不振に思った僕が家に飛び込むと、忍び込んでいた強盗と鉢合わせに。

 ヒカルを家から逃がして、僕が侵入者を取り押さえようとした。けれど、逆に僕はのしかかられてしまったのである。僕は身動きがとれなくて。


「そのときヒカルが、犯人をやっつけた。後ろからフライパンで思い切りコツン、と」


「命拾いしてよかったじゃないか」


「いいものかよ。僕はそれ以来、ヒカルを超えられない男になってしまった」


 僕の一言で、三菜子は納得したようにうんうんと首を振る。


「わかるか? 僕が力負けした犯人を、一発で気絶させたんだよ! どうやって、この屈辱を乗り越えろと言うんだ!」


 あの時ほど、「もう死んでしまう」と思ったことはない。


「なるほどねー。『好きな女のコに助けられて、僕ちゃん超カッコ悪い』と」


「ち、違う! 聞き間違えるな! そんな気はないから!」


「そうやって否定されたら、余計に勘ぐられるよ。だいたい、全校生徒がキミとヒカルが付き合うとるって思ってるから。クラスでもちょくちょく話題になってたよ?」


 いやいや、おかしいだろ!

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