オレ女との遭遇

 パーカーの下に着ているブレザーしか見ていなかったから、少年だと思っていたが。


 よくみると、少年のような見た目の少女は、スカートを穿いている。


 首のリボンからして、後輩だな。


 柄にもなく、僕は書店員と少年の間に割って入る。


「待ってくれ。犯人は僕が通報した。もうここの壁が汚されることはないだろう」


 路地に転がっているグループを、書店員に見せた。


「こいつも仲間かも知れんじゃないか」


「いいや、このガキは仲間ではないね。第一、犯人なら相手を殴り飛ばしてでも逃げるはずだ。しかし、彼女は弁解だけで、逃げようとはしていない。あんたに危害を食わるつもりもないだろう」


「そんなもん、理由になるか。言い逃れも大概に――」


「フン。理由などなくとも、コイツは犯人ではない。僕が捕まえた奴らで全員だ」


 弁護しつつ、書店員とにらみ合う。


 警察が来て、ひとまず事態は沈静化した。


 まだ訝る様子が消えないながらも、書店員は少年を突っぱねる。


「んだよ!」


 乱暴な扱いを受けて、少年はまたも食ってかかろうとした。


「よせ。誤解は解けたんだ。それでいいじゃないか」


 僕は、少女の腕をつかむ。


「離せよ変態が! てめえも突き出されてえか!」


 腕を振って、少女が僕の手を払う。


「余計なことしやがって」


 少女は、特に礼を言うでもなく、さっとどこかへ消えていった。


 なんだってんだ。別に礼なんていらないが、あんな態度はさすがにないと思う。


「念のために聞くけどさ、三郎。あの子が犯人でない理由は?」


 理由が分かっているくせに、三菜子はわざと僕に問いかけてきた。


「マニフィカトの反応がしなかった。それで充分だろ」


 ふむ、と物言いたげな様子で、三菜子は僕をじっと見る。


「キミはたまに感覚がズレてるね。そこに救われる人も多いだろうけど」


 三菜子の表情は、呆れているのか感心しているのか分からない。


「それにな、僕はあのぶっ倒れている連中を倒した記憶がないんだ……」


「ほほう。そっちの方が理屈に敵うね」


 興味が湧いたのか、三菜子がにやりと笑う。

 どうやら、またしてもシェーマを操る戦士が現れたらしいが。


 学校に入ると、朝から鴻上のテンションが妙に高かった。


「何があったんだ、鴻上?」


「聞いたか山田。ゲーム端末の持ち込みがOKになったぜ!」


「本当か? 何かの間違いじゃないのか?」


 ありえない。堅物で通ってる生徒会が、ゲーム機の持ち込みを許可するなど。


「生徒指導の先生が、自ら生徒会長に許可を出したんだ。間違いなんかじゃない。ただし、休み時間限定って条件だけどな」


 手を顔の前でヒラヒラさせ、僕の疑問を否定する。


「あり得ないな。誰かに脅されているのかも。次期生徒会選挙のための印象操作とか」


「それこそないぜ。だいたいそんな確約で選挙が通るなら、PTAが黙ってねえ」


 事実、それで落とされた経験者が語る。


「タケルが戻ってきたら、それこそ黙ってはいないと思うが?」


「そこだよなぁ。タケル会長が戻ってきたら、再度禁止されそうだぜ。でもまあ、それまでは楽しませてもらうぜ。じゃあな」


 堂々とゲームを出して、鴻上がプレイを開始した。


「三郎、タケルとは誰かな?」


 三菜子が僕の袖を引っ張る。


「南郷院タケル。ここの元生徒会長だよ」


「へえ、南郷院」と、三菜子が呟く。


「ああ。ヒカルの兄貴だよ」


 しかし、半年前に行方不明になっている。街の火災に巻き込まれたのだ。


 現在の会長は、元副会長が引き継いでいる。


「ウヒョー。これで誰にも気兼ねなくエストちゃんを落とせるぜ」


 ニヤニヤと笑う鴻上を放置して、三菜子と相談を始めた。


「ところで三菜子、この状況、どう考える?」


 三菜子は辺りを見渡す。


「マニフィカトの反応は感じない。警戒しなくてもいいと思うけどね」


 僕も特に気にしてはいないのだが、嫌な予感がする。

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