邪神会議

 さて、と僕はラーメン鉢を置く。


 それを合図に、緊張が走った。


「話す前に、ひとついいかね? アイヤネンとやら、キミ達は人を介して力を発動するタイプなのかい?」


 まず、三菜子が質問を切り出す。


『せや。そういうアンタは、自分でも戦えるタイプのシェーマかいな。かなりレアなタイプやな。何の化身や?』


「ワタシは『クラーケン』の化身なのだよ」


 北欧の伝承に出てくる海の魔物の名だ。嵐を具象化した怪物とも言われている。封印されていた壁には、アンモナイトのような模様が描かれていた。あれがクラーケンをモチーフとしているのだろう。


『海の王様かいな。生まれながらの神格クラスやないか』


「自分で戦えるタイプのシェーマなら、自力で戦えないのか?」


「人間形態は、いわゆる省エネモードだよ。大幅に弱体化するけど燃費がよくなるんだ。でも、今は無理だ。キミに戦闘力を注ぎ込んでしまったからね」


 シェーマにも、様々な形態があるらしい。


「お前にしか、人間にはなれないのか?」


『なる必要もないしな。全力が出されへん』


 アイヤネンは人に力を与えて戦い、自分は契約者の保護・防御に回るタイプだ。そのタイプは戦闘力がない。


「地球上にいるシェーマ限定で言えば、ワタシだけだね」


 三菜子のように自分でも戦う力があるタイプなど、複数の形式があるという。


「お前達も、マニフィカトと戦っているんだな。いつからだ?」


 僕はテーブルに腕を組んだ。


『ヒカルには、マニフィカトと戦える資格が充分備わっとった。ワシが声をかけんでも、他のシェーマが声をかけとったやろうな。せやけど、変身できたんは最近や』


 自分に否はない、と言いたげな口調で、アイヤネンは答える。


「どうして、そこまで時間が掛かったんだ?」


『性格のせいやろな。優しすぎるんや、ヒカルは』


 人を傷つけたくない心を持ってたから、浄化能力なんてレアな能力を引き当てただろう、と、アイヤネンは語る。


「能力は、お前達が自分で渡すんじゃないのか?」


『元々そいつに備わってた能力を引き出すねん。それを発動するんや』


「対象を苦難へと導くという自覚は?」


 正直、マニフィカトとの戦いは危険を伴う。まして、あれだけ強い奴までいるとなると。


『ワイらは力を与えるだけや。その代わり、可能な限り安全は保証するで。契約者が死にそうな目には遭わさへんと、崇めとる神様に誓っとんねん』


「だ、そ、う、だ、が。三菜子、どうして外を見ているんだ?」


 三菜子は頬杖を突いて窓の向こうを眺めながら、鳴らない口笛を鳴らす。


「ヒカルの方はどうなんだ?」


「最初は怖かったけど、わたしにしかできないと思った。必要とされていると思ったら嬉しかった。わたし、いつも三郎くんに守られてたよね。お兄ちゃんにも。だから今度はわたしがみんなを守るんだって」


 ヒカルは、自分が保護されていると考えているらしい。


「納得の上で戦っているんだな?」


 厳しい声で僕が尋ねると、ヒカルは「うん」と力強く頷く。


「この力をもらって、自分でもできることがあるんだって思った。後悔してないよ」


 だったら、何も言うまい。やらされているなら止めたが、自分の意思で行動しているならいいだろう。


「そういう三郎くんは、初めてシェーマの力を使ったって雰囲気じゃなかったけど?」


 ヒカルに問いかけられ、僕は事情を説明した。三菜子も交えて、できるだけ詳細に。


「三郎君は、元から普通じゃなかったんだね? そうだよね? でないと……」


 妙に納得した様子で、ヒカルは僕の話に耳を傾けていた。


「どうした、ヒカル?」


「ううん。何でもない」と、取り繕うような言い方をして、ヒカルが手をヒラヒラさせる。


『せやけどネクストブレイブはん、よぉ復活できたな。ネクストブレイブの世界って、大昔になくなったって聞いとったが』


 ニワトリのニーソが同情の言葉を三菜子に送る。


「ワタシも三郎に会えなかったら、って思ったらゾッとするよ」


「話を戻そうか」と、僕は水の入ったコップをテーブルに置く。


 僕もマニフィカト殺しに力を貸すのは、やぶさかではない。断っても、マニフィカトの方が僕の力に引き寄せられるらしいし、どのみち僕は逃げられない、とみんなに伝える。


「わたしでよかったら、色々なサポートを」


「いや、お前たちの協力を得る気はない」

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