第33話 謝罪
(1)
今年も5連休だった。
大人たちは9連休楽しむ事も出来るらしい。
大人が羨ましく思えた。
しかし僕達の5連休は無駄に潰れた。
連休前に大暴れした。
やられたら倍にしてやり返せ。
2度と馬鹿な真似をさせないように徹底的にやれ。
父さんから言われた言葉。
フォーリンエンジェルとかいうふざけた連中を徹底的にぶちのめした。
それでもまだ氷山の一角だという。
その日からSHの標的はFAに移った。
黒いゴキブリはしぶといから遠慮はいらない。
こういうのは早いうちに叩きつぶしておいた方がいい。
理屈はいくらでもあった。
しかしそんな理由は真っ当な理由にはならない。
それなりの代償を得た。
5連休の間僕達は外出禁止令が出された。
そして反省文を書かされている。
遠坂のお爺さんは純也と茜を連れて遊びに行ってるようだ。
遠坂のお爺さんは男の子が欲しかったらしくて純也を可愛がっている。
お婆さんも同様に2人を可愛がっている。
そんな環境に最初は戸惑っていた純也も徐々に心を開きだしたという。
一体原稿用紙何枚分書けば納得するだろうか?
母さんは冬吾と冬莉の面倒を見てる。
2人は起きている時間が長くなってきた。
また離乳食を食べ始める。
寝返りも打てるようになった。
色々なものに興味を示すようになった。
翼と天音はさっさと5日分の反省文を書いて冬吾達と遊んでいる。
当然反省などしているわけがない。
こんな目に合わせた分たっぷり仕返ししてやる。
天音と水奈はグルチャでそんなやりとりをしていた。
父さんは今日は学校に行っている。
PTAで問題になったらしい。
母さんは冬吾達の世話で行けないので仕事は休みだった父さんが代わりに行った。
お爺さん達は翼たちと一緒に冬吾達を見ている。
5日間反省文を書くって何を書けばいいんだろう?
そういやどこかのお地蔵さんに合格金に行く際ひたすら合格と書き続けてそれを置いて帰ると聞いた。
ごめんなさい。と繰り返して書くか?
学校の課題も文書作成ソフト使えたら便利なのにな。
そんな事を考えていると足音がする。
きっと翼。
「やっぱりてこずってたんだね」
翼が来た。
「まあね、頭に思いつく限りの言葉を書いたけど5日分は難しいよ」
「そう言うところは要領悪いんだね。これ貸してあげる。写しなよ」
そう言って翼は原稿用紙を渡す。
「丸写ししたらバレバレだろ?それにそれじゃ反省にならないだろ」
「ちゃんと空の気分で書いたから大丈夫。それにそもそも反省してないのに反省文書く意味ないじゃん」
「それもそうだね、ありがとう」
翼から原稿用紙を受け取ると写し始める。
「早く終わらせてね。美希も退屈そうだから」
「わかったよ」
急いで書こう。
その時下でドタドタと音がした。
どうやら父さんが帰って来たらしい。結構時間かかったな。相手がごねてたのかな?
僕達も下に降りた。
「いや、参ったよ」
父さんはそう言って笑っている。
何があったんだろう?
父さんはリビングのソファに座り母さんにもらったジュースを飲む。
僕達は父さんが何か言うのをずっと待っていた。
「結論から言うね。3人はとりあえずは言われた通り反省文を書くように」
「それだけ?」
天音が聞いていた。
「ああ、それだけだよ」
父さんが言った。
「どうしてそうなったんですか?」
冬吾達を抱いた母さんが言う。
「それが大変だったんだよ。治療費くらいは請求されると思ったんだけどね……」
父さんが話し始めた。
(2)
「あれ?トーヤじゃねーか?」
小学校の校門でカンナと出会った。
「カンナ子供はいいのか?」
愛莉は冬吾の世話で来れないから僕が代わりに来たと言う。
「本当にお前はいい旦那だな」
「……誠は?」
「呑気に寝てるよ。試合後はいつも朝まで飲んで寝てる」
誠らしいな。
「で、子供はいいのか?」
「最近離乳食に移りつつあるからな。誠のお義母さんに預かってもらってきたよ」
「あれ?片桐君。久しぶり」
「久しぶりね。片桐君」
石原君と酒井晶さんが来た。
多分呼び出されたのは同じ理由だろう。
「僕は愛莉が来れないから来たけど石原君は仕事大丈夫なの?」
「ちょっとの間時間もらってきた」
「恵美さんは?」
「ああ、そうか。言って無かったね」
石原君の妻・石原恵美さんの親友が双子の赤ちゃんを産んで亡くなった。
旦那は交通事故ですでにこの世にいない。
両方共に両親は他界していて頼れる親戚がいない。
危険を伴う出産だと知った親友は恵美さんに自分にもしもの事があったら子供の事を頼むと遺言を残したらしい。
それで今は双子の赤ちゃんと1歳の子供を引き取っているのだという。
その子供たちの世話をするから代わりに学校に行って欲しいとのこと。
「今は連休だからいいでしょ!」
そう言われてきたんだそうだ。
「3人ともごめんね」
僕は3人に謝った。
扇動したのは天音、そして大体の被害は翼と天音が原因だった。
「まあ、やっちまったもんは仕方ないさ」
「そうですよ、ちゃんと謝るのも親の務めです」
カンナと石原君が言う。
「しかしたかが子供の喧嘩に乗り込んでくる親の面が見てみたいわね」
晶さんが言う。
今から見れるよ。
僕たちは校長室に向かう。
被害者の親が数人いた。
散々罵倒された。
ひたすら頭を下げる。
だが、相手も手ごわい。そう簡単に収まらなかった。
しかしカンナの態度を変えたひと言。
「どうせ子育ての仕方もろくに教わらずに適当に産んで適当に育てたんでしょ?最近の若い子は無責任に小作りするから本当に困るわ」
「無責任だと……?随分勝手な事言ってくれるじゃねーか」
カンナがかみついた。
「何その口の利き方?自分の立場わかってるの?礼儀知らずに育ったのは母親譲りってわけ?」
「自分で責任とれずに親に泣きつくような子供の躾したおばさんにいわれたくねーな」
「神奈の言うとおりね。さっきから黙って聞いてたら、女子に殴られて親に泣きつくような情けない息子しか育てられないあなたにとやかく言われる筋合い無いわ」
「なんですって……?」
相手の顔がみるみる赤くなっていく。
「負け犬がキャンキャン喚いて五月蠅いっていってるのよ。おばさん」
「それがあなた達の謝り方なの?まずあなた達の躾が必要なようね」
「悪いけど私は端から謝る気なんて無いわよ。ただどんな親が育てたらそんな惨めな子供が出来上がるのか興味があっただけ」
晶さんが言う。
「先生!こんな失礼な親の子供を学校に置いておいてもいいんですか?」
「あら?反論できないとすぐ他人に助けを求める情けなさは母親譲りだったのですね」
「言いたい放題言ってくれるわね。その気になればあなたの家庭を不幸にさせるくらい簡単なのよ?私の家は……」
「山本グループ。他人の会社のおこぼれにたかる乞食の様な情けないグループ。まるで今のあなたみたいにね」
そう言ったのは子供を抱えた恵美さんだった。
「恵美、友誼と幸は?」
石原君が言う。
「10分もあれば終わると思ってたのに1時間もかかるんだもの。あなたなにやってるの?そんな暇はないはずよ。友誼と幸は新條と美希に任せてきた」
恵美さんはそう言って。相手の親を睨みつける。
「たかが子供の喧嘩の後始末。その程度の事すぐに済むと思ってたらおばさんが口をそろえてギャーギャーやかましい」
相手の親は皆、怒りに身を震わせている。
「片桐天音の親は誰?」
相手の親が言った。
「僕ですけど」
「あなたさっきから何も言わないけどあなたはどう思ってるの?どんなしつけ方をしたらあんな野蛮な子供に成長するの?」
「謝ることねーぞトーヤ!元はと言えば先に手を出したのはそのババアのガキなんだから!」
カンナが言う。
「同感ね。筋道通すなら”そもそもは私どもの子供がご迷惑を……”くらいは言ってくるかと思ったけどそれすらないなんてどうかしてるわ!」
晶さんが言う。
石原君は頭を抱えてる。
先生達もどう仲裁に入ったらいいか分からないらしい。
「あなた方の考え方はよくわかりました。この件はPTAで審議して教育委員会に訴えます」
「また、人任せ?どこまで情けないの。せめて自分の子供の不始末くらい自分で片づけたらどうなの?おばさん」
「あなた名前は?私達を怒らせたらどうなるか思い知らせてやる。治療費の請求くらいで済ませてやろうかと思ったけどもう頭に来た」
「頭に来たのはこっちの方よ、私の名前は石原恵美。石原大地の母親です。子供の喧嘩に親が出て来るだけでも情けないと思ってたのに、そっちがその気なら受けて立つわよ」
「私の名前は酒井晶。酒井祈の母親です。私達を怒らせたらどうなるか思い知るのはそっちよ。山本グループだか何だか知らないけど親の戦争にしたいなら受けて立つわ」
地元で一番怒らせちゃまずい相手だよ?
文字通り消されてもおかしくないよ?
戸籍書き換えるくらい平気でやっちゃう人達だよこの人達。
「ま、まあ。子供の喧嘩で親がやり合っても仕方ないでしょう。どうか穏便に……」
「片桐君は黙ってて!」
「片桐君、ここは私達に任せて。久々に面白い玩具ができたわ」
「トーヤは黙ってろ!」
恵美さんと晶さんとカンナに言われた。
ここは黙っておいた方が良さそうだ。
恵美さんはすぐに電話をかける。
「新條!山本組に発注してる工事全部キャンセルするように手配しなさい。今後一切の取引はしないようにも!替わりは志水建設にでもまかせたらいいわ」
石原君はお手上げといった感じで恵美さんを見てる。
相手の親の顔が青ざめてる。
自分の犯した過ちの大きさに気付き始めたようだ。
その後も山本グループの傘下にあったホテルの利用を全部キャンセルすることから始まって。共同開発の破棄など様々な圧力を指示していく二人。
その30分後山本グループの会長・山本喜一、勝次、紗奈の父親が2人の前に土下座してた。
しかし手遅れだった。
2人の怒りは既に爆発していた。
土下座は1時間続きそして収まった。
その間校長先生も一緒に2人に平謝りした。
「ま、まあ、こちらにも非がなかったわけでもないし」
僕がそう言って二人を宥めて「反省文提出」ということで両者落ち着いた。
それでも二人にはまだ不満があったようだが。
「これで2度目。3度目はないわよ」
そう言ってカンナ達は校長室を出る。
僕と石原君も頭を下げて校長室を出る
そうして僕達は家に帰ってきた。
(3)
「それは大変でしたね」
母さんが一言で片づけた。
「まあ、嫌な予感はしたんだよね……相手が悪すぎる」
父さんがそう言ってジュースのおかわりを求める。
「そういうわけだから3人とも今回の連休は大人しくしててくれ」
父さんが言う。
部屋に戻って良いと言われたので部屋に戻る。
当然のように翼が部屋に入ってくる。
「驚いたね……」
翼もさすがに驚いたらしい。とんでもない友達をもったよ。
モンスターペアレントって酒井家と石原家の事を言うんじゃないか?
どっちが悪党なのかわからなくなってきたよ。
「美希たちに弟と妹いたんだ」
そっちかい!
まあ、そんなことを話しながら、僕は反省文を写す作業を再開する。
写すだけだからすぐにできる。
翼が漫画を一冊読み終える頃には終わってた。
「翼、終わったよ。ありがとう」
「終わった?じゃあどうしようか?」
「テレビでも見る?」
「それでもいいんだけど……」
「何かあるの?」
「空この前新しいゲーム買ってもらってたじゃん」
「うん」
「あれやってよ」
「いいけど」
翼はゲームに興味はない。
だけど偶にこうやって僕にゲームをするように促す
どうしてだろう?
翼に聞いてみた。
「共鳴だよ」
翼は一言そう言った。
僕の心と同調することでゲームを楽しんでる僕の気持ちになるんだそうだ。
なるほどね。
「一度クリアしたゲームだからちょっと難易度あげるね」
「うん」
そうして夕食の時間まで翼と一緒にゲームを楽しんでいた。
(4)
「ただいま」
母さんが帰ってきた。
「母さんお帰り。遅かったから私夕飯作ってる」
「ああ、何作ってるんだ?」
「コロッケ」
「じゃあ、あと母さんやるからお前は反省文書いとけ」
「学校でなんかあったのか?」
母さんは明らかに疲れている。
母さんから学校であったことを聞く。
大地の母さんも祈の母さんも凄いんだな。
「ったくあのばばあ。人をイラつかせるだけイラつかせやがって。土下座するなら最初からするなっての」
喜一の母さんはPTAの会長もやってるらしくて学校で歯向かう奴はいなかったらしい。
「水奈。いつかお前が親になっても絶対にあんな風にはなるなよ」
「はい」
母さんはそう言って着替えると私と料理をバトンタッチする。
そして私は部屋に戻って反省文を書く。
反省文と言われても書くことがない。
反省する要素がないのだから書けと言われても困る。
天音に聞いてみる。
「んなもんネットで検索かけたらいくらでもテンプレ出てくるから楽勝だって。適当に使えそうなところ抜きとってつなぎ合わせりゃいいだけだよ」
天音には簡単な作業なんだろうな。
まあ、いいや。
ノートPCを起動して検索をかける。
最初は母さんが使ってたPCを使っていたのだが、それを見た父さんが最新機種のPCをプレゼントしてくれた。
「変な物みるんじゃねーぞ。出会い系とかも駄目だからな」
父さんが言ってた。
変なもんは最初から興味ない。
出会い系は天音と興味本位でやってたら変な画像送り付けてくるから止めた。
バレた時は母さんにこっぴどく叱られた。
反省文を書く作業が終わると暇になる。
ゲームをして時間を潰す。
今は多分学は2人の世話に忙しいだろう。
夕食を食べて風呂に入るとリビングでテレビを見て時間を潰す。
自分の部屋にもテレビがあるんだけど近頃はリビングで見てる。
父さんのいるリビングで。
父さんはバラエティ番組が好きだ。
クイズ番組はあまり好きじゃない。
21時になると母さんが見たいドラマに切り替わる。
お洒落好きな出版社社員のサクセスストーリー。
お洒落はあまり気にしたことがない。
自分で買う事はほとんどない。
なぜなら母さんの古着が好みの服だから。
サイズもぴったり合う。
ぼーっと見てたら23時になる。
そろそろいいかな?
「あ、水奈もう寝るのか?」
「うん、学とメッセージして寝る」
「休みだからってあまり遅くまで起きてるなよ」
母さんが言うと「はい」とだけ言って部屋に戻る。
そして学とチャットをする。
「謹慎生活はどうだ?」
学からのメッセージ。
「気が狂いそうになる」
「そうだろうな」
「学は連休どっか行くのか?」
「せいぜい行ってショッピングモールだよ」
そうか、学の母さんは連休関係なしだもんな。
「まあ、そんなに落ち込むな。謹慎明けたら一緒に買い物でも行こう」
「そんな約束本当にしていいのか?」
「どうしてだ?」
「翼や天音みたいな要求するぞ」
「ほう?どんな要求なんだ」
「彼氏に下着を選んでもらうらしい」
「ま、まあ。お前がそれを望むなら」
「学、今私の事妹扱いしただろ?」
「どうしてそうなるんだ?」
妹の下着なら普通に選べる。そう思ったんだろ?
まあ、いい。
そう思えなくしてやる。
精一杯頑張って学を誘惑してやるから……。
「しっかり選んでくれよ」
「わ、わかった」
「じゃあ、そろそろ寝るよ」
「そうだな。おやすみ」
「おやすみ」
スマホを置くとベッドに入る。
汚れたぬいぐるみ抱いて。
(5)
反省文を書いていた。
見せかけだけの反省文。
自分がやったことは間違っていない。
玄関が開く音がした。
僅かな音も聞き逃さないように訓練されてる。
両親が帰って来たらしい。
父さんの顔を見て察した。
母さんが「遅いからちょっと様子を見てくる」と言った時に感じた嫌な予感が的中したらしい。
母さんは祈の母さんと二人で言いたい放題言って帰って来たらしい。
そんな事露にも感じさせず友誼を抱いて笑っている。
母さんは友誼を父さんに預けて夕食の準備を始める。
その間に反省文を書き上げる。
そして夕食を食べる
「大地、反省文は出来てるの?」
母さんが聞いてくる。
「さっき出来上がったところ」
「じゃあ、お風呂入る前に持ってきなさい。チェックしてあげる」
「うん」
夕食が終ると母さんに反省文を渡して風呂に入る。
風呂が上がると母さんのチェックは終わっていた。
「まあ、いいわ。大地も不満あるだろうけど、我慢も必要な時があるわ」
「うん」
「今日はもう休みなさい」
「わかった」
そう言って部屋に戻る。
天音からメッセージが来ていた。
「何してる?」
「今風呂から戻ったところ」
「反省文出来たか?」
「さっき終わったところ」
「残りの休みどうするんだ?」
「部屋で大人しくしてるよ」
「それしかねーよなあ。退屈で仕方ねーよ」
天音らしい。
部屋で大人しくしてる天音なんて想像つかない。
「もう少しの我慢だよ」
謹慎だけで済んだだけでも奇跡だよ。
「そーじゃねーだろ!」
へ?
スマホが鳴る。
天音からだ。
電話に出る。
「彼氏に構って欲しい乙女心が分からねーのかお前は!」
「ご、ごめん」
機嫌悪いのかな?
「どうだ?久しぶりの彼女の声は?」
久しぶりってまだ2日しか経ってないよ?
そう言ったら怒られるだろうな。
「嬉しいよ」
「さっき私が機嫌悪いと思っただろ?」
「違うの?」
「まあ、良くは無いな」
「ごめん」
「でも今は最高だぜ!」
「え?」
「二日も構ってもらえない彼女の気持ち考えてくれ」
「ごめん」
「まあ、いいや。偶に聞けるから嬉しいってのもあるかもしれねーな」
「そうだね」
「こんな思いをさせた勝次には復讐してやらねーとな」
まだやる気なんだ天音は。
でも、いいよ。
「そうだね」
「んじゃまたな」
「うん、また明日」
「……その言葉信じてるからな」
「え?」
「明日はお前からかけてくれるんだろ?」
「……うん、かけるよ」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
今はまだ肩を並べて暴れていられる。
だけどきっといつか天音の前に立って戦わなくちゃいけない時が来るはず。
その時に備えよう。
今は同じ位置に立っていられる自分を楽しもう。
これもいつかは綺麗な想い出になるだろう。
(6)
「全くあのばばあ頭にくるわ」
母さんは夕食中も機嫌が悪かった。
母さんは端から謝る意思はなかったらしい。
子供の喧嘩にしゃしゃり出てくる親にムカついていたらしい。
母さんの逆鱗に触れたら人生崩壊する。
今回も崩壊しかけたそうだ。
地元じゃ母さんと大地の母さんに逆らえるものはいないだろう。
「でも反省文だけで済んでよかったね、祈」
父さんが言う。
「善君。祈は悪い事なんかしてないのに、どうして反省文書かせられなきゃいけないわけ?しかも謹慎まで」
「そ、それは祈もやり過ぎたところがあるんじゃないかな……と僕は思うんだけどね」
「やり過ぎた?殺したわけじゃないのに、後遺症が残ったわけでも無いのにやり過ぎたって何?」
「あ、あくまでも僕が言ってるのは一般論だよ晶ちゃん」
「だいたいちょっと1週間程度病院送りになったくらいでギャーギャー言うなら喧嘩なんか売ってこなきゃいいのよ」
「し、しかし祈もそろそろ女の子らしくなってもいい年頃じゃないかな……って父さんは思うんだけど祈はどうなんだい?」
私に振ってきた。
「私が女らしくないと父さんは言うの?」
「も、もうちょっとおしとやかになればいいんじゃないかなって……」
「ぼ、僕食べ終わったから先にお風呂入るね。ごちそうさま」
善明は逃げた。
「私の祈のしつけ方に問題あるって言いたいわけ?」
母さんは私の味方の様だ。
「いや、そういうつもりじゃないんだ」
「じゃあ、どういうつもりなの?大体あなた仕事ばっかりで全然教育に関心がないって問題なんじゃないの?」
「それは謝るよ。ごめん」
「あのね、娘が窮地に立たされている時に運送会社の一件や二件倒れかけてるからって休日出勤する善君は家族サービスするつもり全くないじゃない」
「私もそろそろ行くね」
私はその場を後にする。
部屋に戻ってスマホを見ると陸からメッセージがとどいてた。
「お勤めご苦労様です」
私は返信する。
「マジ退屈だよ。陸はなにしてた」
「家族旅行」
「うらやましいな」
「お土産買って来たから帰ったら渡すよ」
「ありがと、楽しみにしてる」
「……真面目な話してもいい?」
急にどうしたんだ?
「どうした?」
「元気なのはお前の良い所だと思う。そんなお前が好きだ」
「ありがとう」
「だけど偶に不安なんだ。天音たちと暴走してる時のお前が生き生きしてる姿は好きなんだけど、俺の目の届かないところでもしもの事があったらと思うと不安だ」
そういう話か。
「私は止める気はない。自分に正直に生きるつもりだ」
「分かってる。ごめんやっぱ忘れてくれ」
誰かがノックする。
「祈、お風呂空いたよ」
善明の声だ。
「わかった」
そう言うとメッセージを送る。
「後で詳しく聞く」
「ああ」
そして風呂の中で考えた。
父さんが言ってた言葉を思い出す。
そろそろ女の子らしくなってもいい年頃じゃないかな?
どういう意味なんだろう。
大人しくしてろって事なんだろうか?
そんな人生まっぴらごめんだ。
男の陰に隠れてこそこそしてるなんて絶対無理。
せめて隣に立っていたい。
背中を預けられる男と一緒にいたい。
それが陸。
陸なら安心できる。
陸は分かってくれてる。
あれ?
あの時私の後ろに誰がいた?
天音の隣には大地がいた。
けれど私や水奈の隣には誰もいない。
急に心細くなった。
優しさに触れるとにじむような弱さを知る。
陸の言いたい事ってそういうことか?
あいつがいない時に私に何かあったら、悲しむ人は陸だ。
私が暴れている間陸は一人だ。
その間に陸に何かあったら私は……
身が震える。
甘えることを知った時、人は誰しもそんなに強くはなないものだから。
風呂を出ると、部屋に戻る。
そして陸に電話する。
「もしもし?」
「あ、陸……」
「電話なんてかけて来てどうしたんだ?」
「それは……」
弱さを理解してしまったから怖くて声が聴きたくて。
「陸、さっきの話なんだけど……」
「あ、忘れてくれ。本当にごめん。急に束縛されても迷惑だよな」
「そうじゃないんだ。約束しないか?」
「約束?」
「ああ。私はもう一人で無茶はしない。だからお前にいつも側にいて欲しい」
「……そういう約束なら誓うよ」
「いつもごめんな、お前のこと置き去りにしてた」
「いいんだ、祈を束縛しようとするのは俺のエゴじゃないのかって思ったから」
「そういうのは束縛っていうんじゃない。”絆”っていうんだ」
「……分かった」
「じゃあ、また学校で」
「ああ、またな」
電話を切る。
陸が帰ってきたら何をしよう?
女の子らしくデートでもねだってみようか?
どこがいいかな?
この辺だとショッピングモールしかないか。
隣り合わせた人を思い遣る魂よ。
私達は何がしかの意味を彷徨い求めては今もこうして血を通わせ生きている。
この姿をかりてあるべくしてある意味を誰が知ろう。
(7)
りえちゃんとおじさんとショッピングモールにお買い物。
私達は着替えすらまともに準備してなかった。
他にもおもちゃ屋さんとか行って買ってくれた。
「何でも好きなの買ってあげるよ」
おじさんが言った。
お兄ちゃんも私も戸惑っていた。
そんな風に言われたの生まれて初めてだから。
私達は居候の身。
甘えても良いんだろうか?
おじさんがスマホでやり取りしている。
片桐・遠坂家と言う私達の家族だけのグループ。
私達は家族になれたのだろうか?
空君がおじさんの問いに答えた。
ゲーム機とソフトを買ってもらってた。
「茜ちゃんは何がいいかな~?」
りえちゃんは着せ替え人形なんかを選んでた。
だけどおじさんは気づいたようだ。
私が抱えてる汚れてるぬいぐるみに
「……茜ちゃんはぬいぐるみが良いのかい?それもうボロボロだし新しいぬいぐるみと交換しようか」
私はこの家に来て初めて拒絶した。
「これはだめ!」
汚れたかえるとウサギのぬいぐるみ。
私が産まれた時に初めて女の子が産まれたと買ってくれた大切なぬいぐるみ。
2人は困った末、新しいぬいぐるみを買ってくれた。
「……想い出はいつもキレイだけどそれだけじゃお腹は満たされないよ」
おじさんが言った言葉。
どういう意味だろう。
夕食は外食して帰った。
お風呂に入ってお兄ちゃんはテレビゲームをしてる。
私はお菓子を食べながら見てた。
するとドアをノックする音が聞こえた。
「おじさんだけど入って良いかな?」
「どうぞ」
私が答えた。
おじさんはノートPCを持ってきた。
「茜ちゃん愛莉の使ってたノートPC触っていたろ?」
「うん」
「……これおじさんからのプレゼント。純也君だけゲーム機は不公平だからね」
そうして私はノートPCを受け取る。
取り扱い方のマニュアルも渡してくれた。
「ありがとう!」
私はそう言うとおじさんはにこりと笑って部屋を出た。
私は早速PCを起動する。
扱い方は大体覚えた。
感覚でマニュアルがしみ込んでくる。
早速遊んでた。
インターネットでお洋服とかを選んでみる。
見てるだけで楽しかった。
ゲームに飽きたお兄ちゃんがそろそろ寝ようっと言っている。
大分眠いらしい。
私とお兄ちゃんは一緒の布団で寝る。
想い出はいつもキレイだけどそれだけじゃ空腹は満たせない。
悲しくて切ない夜だけど。
どうしてだろう?両親の笑顔も思い出せない。
今夜も大切な汚れた脱ぎぐるみを抱いて寝る。
心の傷は癒えないけど、ウサギちゃんは分ってくれるから。
ふと思い出す悲しくて切ない夜なのにどうしてだろう?
あの人達の想い出は記憶にない。
想いだせない。
どうしてだろう?
どうしてなの?
それを考える必要があるのだろうか?
私達は今安住の地に辿り着いた。
思い出すことはあの人達だじゃない。
これから暮らすりえちゃんとおじさんの事だけでいい。
サヨナラ私の想い出。
汚れた大切なぬいぐるみだけは抱えているから。
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