第32話 落ちた者

(1)


 俺は放課後体育館裏に呼び出された。

 呼び出したのは弟の山本勝次。


「何の用だ?」


 勝次はにやりと笑った。


「お前のやり方についていけない。お前のやり方は甘すぎる」

「何?」


 今さら手を引こうって言うわけじゃないだろうな?


「これからは俺達は俺達のやり方でやらせてもらう」


 勝次は宣言した。


「勝手な真似は許さないぞ」


 その時に気が付いた。

 勝次の取り巻きは全員黒い衣裳を身にまとっていることを。


「俺達は新しい組織を作ることにした」

「なに?」

「なづけてfallen Angel」


 フォーリンエンジェル。堕天使と言う意味。

 俺の部下と勝次のチームに移った者たちが対峙する。


「……SHとやり合うつもりか?」

「その為にFAを作った」


 指を折られてもまだ分からないらしい。

 弟ながら愚かな選択だと思った。

 でもそれを説得したところでこいつを納得させる事は不可能だろう。


「……勝手にしろ」


 そう言って俺はその場を後にしようとした。

 だが、それを勝次の部下が邪魔をする。


「何のつもりだ?」

「兄貴には悪いが、俺達の旗揚げの景気づけに利用させてもらう」

「なんだと?」


 俺の部下が戦闘態勢に入る。

 しかしこんな状態を想定してなかったので頭数が足りない。


「あいつらに宣戦布告したいんでな」

「……お前らではSHの相手にならない」

「言いたい事はそれだけか?やれ?」


 そう言うと乱戦が始まる。

 FGの中でも元々好戦的な連中を集めたFA

 俺達は一方的な暴力を受けることになる。

 俺達を袋叩きにした後初勝利に酔いしれるFAの連中。

 薄れゆく意識の中で思った。

 わかってるのか?

 次にこうなるのはお前たちだぞと……。


(2)


 祝日を開けて一日だけの登校。


「だりぃ……」


 今の心境を一言で表した。

 今日は喜一が欠席していた。

 遊び道具も無しかよ。

 久しぶりに桜子でも揶揄って遊ぶか。

 用意していたジュースの入った瓶を思いっきり熱する。

 それを桜子の机の上に置いておく。

 桜子が手にするとびっくりするという仕掛けだ。

 軽い暇つぶしのノリでやった。

 だけど桜子は黒板消し落としも気にしないくらい何か考え込んでた。

 桜子は机に着くことなく教壇に立つ。

 教卓に置いとくべきだったか。

 シラケた。

 私は寝る。


「天音!起きなさい!」


 桜子は私に対して怒ってるようだ。

 黒板消しくらいでそこまで怒るのか?


「天音昨日の放課後なにしてた?」

「水奈と家に帰ったけど?」


 嘘はついてない。

 帰りにコンビニ寄ったけど。


「正直にいいなさい!山本君は重体で入院中よ!」


 喜一が重体?

 今日来てない理由はそれか。

 だけどそんな話SHでも聞いてないぞ。


「それが私とどう関係あるんだ?」

「とぼけるな!やったのは天音でしょ!」

「やってねーよ!」


 別にやっても悪いと思わないけどやってないことで怒られるのは納得いかない。


「桜子、天音は確かに私と一緒にすぐに帰った。学が証明してくれる」

「俺も証言するぞ、天音はやってない」


 水奈と遊が言う。


「SHによるFG虐めは職員室でも問題になってる。あなた達がやってないなら誰がやるの!?」


 まあ、いたぶってたことは認めるけど。

 そのとき別の先生がやってきた。


「水島先生ちょっといいですか?」


 桜子を教室の外に呼ぶ。


「あなた達ちょっと自習してなさい!」


 桜子はそう言って別の先生とどこかに行った。


「天音、どう思う?」


 祈が聞いてきた。

 だけど私にも何がどうなってるのか状況が分からない。

 クラスを見渡して気づいたのは黒頭巾の連中が皆怪我している事くらいだ。

 その時何かが爆発したような音がした。

 この音は多分消火器を作動させた音。

 そして気配を感じる。


「廊下側の皆伏せろ!」


 私は叫んでいた。

 次の瞬間窓ガラスを突き破って投げこまれる椅子。

 クラスの皆が悲鳴を上げる。

 カチコミか?

 返り討ちにしてやる。

 ドアを蹴飛ばして入ってくる黒い衣裳を身にまとった集団。

 その先頭には山本勝次がいた。

 やっぱり殴り込みか?

 上等じゃねーか。

 今日の遊び道具はお前だ!

 だが様子がおかしい。


「勘違いするな、今日はただの挨拶だ」

「挨拶?」


 勝次の言葉に反応していた。


「俺達からの挑戦状だ。お土産も持って来たぜ?」


 そう言って勝次は髪の毛をばらまく。

 長さからして女子のだ。

 恐らくSHの女子の誰かのだ。

 めんどくせー。てめーをぶちのめす

 私は勝次に向かって突進する。

 勝次が何かを言う前に私は勝次を殴り飛ばしてた。


「ふざけた真似しやがって!生きて教室から出られると思うなよ」

「天音待て!よく周りを観ろ!」


 祈が言う。

 教室に押し寄せる無数の黒い衣裳の連中。

 この場でやりあえばこっちにも被害は出る。

 無関係の奴を巻き込むわけにはいかない。

 勝次はゆっくりと起き上がる。


「心配するな今日は挨拶に来ただけだ」

「挨拶?」

「俺達はSHを潰す為だけに結成された新しいチームフォーリンエンジェル!」


 また中2全開のの名前だな。


「そうだな、お楽しみは連休明けからにしようか?」


 勝次が宣言する。


「つかの間の休みを楽しめ。その後に生き地獄を味合わせてあやる。喜一の次はお前だ天音」

「……お前が喜一をやったのか?」


 勝次はにやりと笑った。


「あなた達何やってるの!?」


 桜子がもどってきた。


「じゃあな」


 そう言って勝次達は自分の教室に戻っていく。

 教室の中は混乱していた。


「天音どうする?」


 水奈が聞く。


「そんなの決まってるだろ」


 皆殺しだ。

 その日の昼休み3年生のクラスに最小メンバーで乗り込む。

 私と大地と水奈と祈で乗り込んだ。

 しかし先に翼が駆けつけていた。

 空まで来ると本気で殺しかねないから翼だけできたらしい。


「指の骨じゃ物足りないみたいだから腕ごといっておく?」

「ふざけんな、そいつは私の獲物だ!」」

「んじゃ天音に任せる。その他で我慢しておくね」


 翼とそんなやり取りをしている間に黒い衣裳の男子達が次々と沸いてきた。

 雑魚は他の奴等に任せて私は勝次だけを狙う。


「天音、遠慮することない。これは”不慮の事故”だ!」


 祈の口から死刑宣告が告げられると私は勝次が構えるより早く勝次を殴り飛ばす。

 教室で乱戦が起こる。

 翼もキレていた。

 髪を切られたのは山本紗奈。

 勝次の妹だ。

 髪の毛伸ばすのにどれだけ時間がかかったことか?

 どれだけ大事に手入れをしていたか切られた髪をみたら一目瞭然だった。


「女の子にとって髪の毛がどれだけ大事かしっかり教えてあげる」


 翼はそう言って片っ端から蹴り飛ばしていく。

 

「あんまりごつい拳になるのだけは勘弁しておくれ」


 善明にそう言われたらしい。

 それは善明の好みではなく「翼の拳がこんなになるまで善明は何もしなかったの!?」と怒られるかららしい。 

 蹴り飛ばした後も椅子を投げつけたりあらゆる暴行を加える。

 私も勝次を徹底的に痛めつける。

 先生がやって来る頃には勝次は気絶していた。


「勝手に気絶してんじゃねーぞ!気絶してりゃ許してもらえると思うなよ!」

「片桐さんやめなさい!それ以上やったら彼本当に死ぬわよ」

「殺す気でやってるんだよ!殺してミンチにして池にばらまいてやらぁ!」

「天音、構う事無い!後始末はしてやる!今すぐそいつをベランダから放り投げろ!」


 祈が言うと私はベランダに勝次を引きずる。

 しかし大人が5人がかりになるとさすがに私でもきつい。

 昼休みからパトカーが学校に駆け付ける。

 しかし私はまだ10歳。それに愛莉のパパが南署の署長だった為もみ消しは容易だった。

 翼と大分暴れたらしい。

 その場にいたプリンとエンゼルパイは全員病院で連休を過ごすことになったそうだ。

 髪を切られた紗奈は「イメチェンもいいかもしれない」と笑っていた。

 私達3人はその日愛莉に怒られると思った。

 だけど……


「事情はパパさんから聞きました。でもちょっとやりすぎです。そういうところは冬夜さんに似たのですね」


 それを止めるのが翼の役目でしょ。

 お叱りはそれだけで済んだ。

 説教を受けると私達3人は空の部屋に集まった。

 空は言う。


「勝次は言ったんだろ?”連休明けたら地獄が待ってる”って。だったら望み通り叶えてやろう」

「まだ懲りてなかったみたいだね。次はどういたぶってやろうかしら」


 翼も言う。


「だから連休の間は忘れよう。純也と茜もいるんだし」


 空が言う。

 その代わり連休が明けたら生き地獄を味合わせてやる。

 私達3人はそう誓った。

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