第31話 るろうに

(1)


 俺は今妹の橘茜と遠い親戚の片桐冬夜に地元まで連れられてきた。

 そして片桐家のリビングにいる。

 片桐家の家族が集まり会議をしている。

 リビングには片桐冬夜、愛莉、片桐冬夜の両親・正人、麻耶、そして片桐冬夜の子供・翼、空、天音、冬吾、冬莉がいる。

 冬吾と冬莉はまだ生後5か月くらいだ。

 愛莉の腕に抱かれて眠っている。

 時計は21時半を回っていた。

 僕達の今後について会議が開かれていた。

 まず俺達の事について説明しよう。

 俺の名前は橘純也。片桐冬夜の従妹橘亜子の次男だ。

 隣に座っているのが長女の橘茜。

 僕と茜は双子だ。

 親はどうしたかって?

 色々あったんだけど簡略すると蒸発した。

 俺の兄さんだけを連れて母さんは駆け落ちして父さんは俺達の親権を放棄した。

 つまり両親に捨てられた。

 普通なら施設に入れられるだけの話なのだが片桐冬夜の父片桐正人が引き取った。


「どうしてそんな事をしたんですか!私達には関係ない事でしょ!」

「そうは言ってもまだ6歳だぞ。施設に入れるのは可哀そうだろ」

「そんなのお兄さんたちにさせればいいじゃない」

「そのお兄さんが拒否してるんだから仕方ないじゃないか!」


 片桐正人とその妻片桐麻耶が言い争っている。


「冬夜さん、どうにかなりませんか?」

「未だにバスケットシューズが売れてるらしいから養育費は問題ないんだけど」


 片桐冬夜とその妻片桐愛莉が相談している。


「空、この子たちと部屋で遊んでなさい」

「わかった、おいで」


 そう言われて俺達は空の部屋に行く。

 姉妹もついてきた。

 翼が俺に言う。


「父さんに任せていたらきっとなんとかなるから」


 ありふれた励ましの言葉を俺達にかける。

 だけどいつもは明るい茜も今回ばかりは不安に感じているらしい。

 こいつらが憎かった。

 お前らはぬくぬくと育ってきたんだろう。

 俺とお前たちは住んでる世界が違うんだ。


「君たちスマホ持ってる?」


 翼が言う。

 持ってるわけないだろ。


「どんなゲームが好きなんだ?お姉ちゃんと遊ぼうぜ」


 ゲーム機なんか触った事すらない。

 俺達はただじっと話を聞いていた。


「翼、どうなんだ?」


 天音という女が翼に言う。


「だめ、心を閉ざしていて上手く読み取れない。ノイズが酷いの」


 翼がそう言って首を振る。


「空、皆を連れて降りてきなさい」


 愛莉が言った。

 俺達はリビングに戻る。

 知らない大人が二人いた。


「遠坂佑太さんと梨衣さんだ」


 片桐冬夜が言う。

 結局また丸投げか。

 面倒見切れないなら最初からこんな田舎に連れてくるな。


「純也君と茜ちゃんに順を追って説明するね」


 片桐冬夜がそう言った。


「まず君達の苗字は当分は橘のままで行くことにした。手続きに少し時間がかかるみたいだから」


 すぐに家庭裁判所に手続きに行くという。

 手続き自体は親が蒸発してるんだから簡単に通るだろうと言う。

 手続きが終わったら俺達は「片桐」に名前を変えるらしい。 

 取りあえずは住民票をこっちに移して転校手続きを急ぐという。


「次に君達の世話をしてくれる人を紹介するよ」


 それがさっき言った遠坂佑太と梨衣。


「りえちゃんありがとう」

「いいのよ~念願の男の子の世話ができるんだから~」

「……うむ」


 2人は喜んでいる。


「じゃあ、今日はもう遅いし早速家に案内するわね~」


 梨衣に言われて2軒隣の家に行く。


「まだ茜ちゃん小さいからお兄ちゃんと一緒がいいわよね~?」

「うん!」

「ベッドは用意してあるから今夜はゆっくり休みなさい~」

「ありがとう」

「その前にお風呂に入りましょうか」

「うん!」

「これからは私達をパパとママだと思ってね~」

「は~い」


 茜は梨衣と打ち解けたようだ。

 その後茜と風呂に入ってそしてベッドに入った。

 久しぶりのベッドでの睡眠だった

 茜もリラックスできたようだ。

 疲れがどっと出たのかすぐに熟睡している。

 俺はまだ明日も知れぬ我が身を案じていた。


(2)


 2週間後連休に入る直前になって俺達の転入が決まった。


「りえちゃんおはよう!」

「……おはようございます」

「はい、2人ともおはよう~。今日から学校だね~楽しみだね~」

「うん!」


 茜はすっかりこの家に馴染んだようだ。

 いつも通り朝食を食べていると俺達にスマホが渡された。


「入学祝よ~大事に使いなさい」

「ありがとう」


 受け取ったは良いが初めてのスマホ。

 どう扱ったらいいか分からない。

 説明を梨衣から聞いていたら呼び鈴が鳴る。


「迎えに来たみたいね~」


 梨衣がそう言って玄関にむかう。

 俺達も買ってもらったランドセルを背負って玄関に向かう。

 外には片桐翼と空、天音と……あと誰だ?


「初めまして、私多田水奈」


 天音のクラスメートらしい。


「じゃ、2人の事よろしくね~」

「りえちゃん行ってきま~す!」


 茜が元気に挨拶すると俺達は小学校に向かった。

 天音と水奈は楽しく話をしてる。

 茜ははしゃいでいる。

 無理もない。

 初めて小学校というところに行くのだから。

 小学校にはすでに下駄箱が用意されてある。

 俺達は職員室に行くと担任の中山瞳美に連れられて教室に行った。


「今日から皆とお勉強することになった橘純也君と茜ちゃんです。みんな仲良くしてね」

「よろしく……」

「よろしくお願いします!」


 クラスメートは大別して二つに分かれている。

 黒い頭巾をしているものとそうでないもの。

 黒い頭巾は何かのトレードマークか?

 昼休みになると早速茜が黒頭巾をしている男に話しかける。


「どうしてみんな黒頭巾してるの?」

「かっこいいだろ?」

「うーん……微妙かな?」

「お前も興味あるのか?」

「うん!」

「じゃあ、俺達の仲間に入れてやるよ」

「ありがとう!」


 この流れはヤバい気がする。

 茜が足を踏み入れたらいけないと予感した。

 俺は茜の腕を掴む。


「行くぞ茜」

「お兄ちゃんまだ話終わってない」


 茜が抗議するが無視した。

 だけど男たちが俺と茜を取り囲んでいた。


「人の話は最後まで聞けって親に言われなかったのか?」

「……親なんかいねーよ」

「は?」


 こいつらにこっちの事情を話したところで時間の無駄だ。

 男たちを押しのけその場を後にする。


「待てよ!」


 男が肩に触れた瞬間、俺は回し蹴りを食らわせていた。

 男が吹き飛ぶと黒頭巾をしていた連中が全員立ち上がる。


「お前には教育が必要みたいだな」


 さすがに多勢に無勢か?

 せめて茜だけは守らないと。

 茜は俺の背後に隠れてる。

 俺は構える。

 何人やれるか?

 そんな事を考えていた時だった。


「そこまでだクソガキども!」


 声のする方を教室にいた皆が見ていた。

 片桐天音と多田水奈、他数名の上級生がいた。


「お前らはボス猿に聞いてないのか?下手な真似したらボス猿は投身自殺だぞ!」

「なんだお前!」

「そいつらの世話を任されている。そいつらに指一本触れてみやがれ!全員丸刈りの刑だからな!」

「そう言うと思ってちゃんと持ってきたよ。バリカン」

「ナイス祈!」


 祈と呼ばれた女がバリカンを取り出すと黒頭巾の男は皆散った。

 天音は教室に入ると俺の手を掴む。


「ちょっとこいよ」


 そう言って天音に無理矢理手を引っ張られ廊下に連れ出された。


「りえちゃんから聞いてる。スマホ出せよ」


 天音が言うと僕と茜がスマホを出した。

 天音と連絡先交換する。

 そしてメッセージグループに招待された。

 セイクリッドハートというグループ。

 天音が教室から何人か呼び出す。

 志水拓海、小泉夏希、多田仁、多田綾乃、酒井善斗、酒井半太、酒井周、大島龍子、桜木太賀、桜木桜。

 皆仲間だという。


「くだらない」

「あ?」


 俺が言うと天音が言った。


「俺と茜は流浪人。どうせまたどこかに流されていくんだ。仲間なんて無意味なんだよ!」

「この世に無意味な事なんかねーよ」


 天音が言う。


「流浪人でいいじゃねーか。今は休まる時だ。お前は今疲れてるんだろ?少し休んでけよ」


 その為の場所を提供してやる。

 天音はそう言って笑った。


「言っとくがお前の為じゃねーぞ。いっしょに流れてる茜の為にも休ませてやれよ。どんな時だって茜はお前のそばにいるんだから」


 それだけは唯一の真実。

 茜の為にか……。


「お兄ちゃん……大丈夫だよ。この人良い人たちだよ」


 茜が言う。


「それはどうかな?私ら学校の問題児らしいしな」


 祈が言う。


「それもそうだな!」


 天音が笑い飛ばす。

 こんな世界があるんだ。

 こんな世界に辿り着いたんだ。


「確かに俺も旅に疲れた。また何時何処へ流れるかわからないけどそれでいいなら……」

「よっしゃ!決まりだな!じゃ、あとよろしく、なんかあればすぐ言ってくれ。ボス猿を屋上から放り投げるから」


 本気で言ってるのだろうか?

 天音達は自分のクラスへ去っていった。

 そして俺達は翌日早速報復を受ける。

 机の上には菊の花。

 クラスの皆は知らぬ顔。

 虐めは茜が集中的に受けた。

 それでも懸命に茜は笑ってた。


「私は大丈夫だよ」


 俺が反撃したら茜への攻撃が酷くなるだけ。

 堪えていた。

 だけど多田仁が言った。


「遠慮することはねーんだよ」


 仁はそう言うとバケツに水を汲んで黒頭巾の男にぶっかける。


「床拭いとけよ」


 仁はそう言って後にする。


「手前何やってんだ!」


 男が激高する。


「天音さん達から聞いてるから。SHの標的はFGだって」


 男は何も言えない。

 SHとやらの影響力は強大らしい。

 それ以降茜への虐めも止った。

 今は昼休みは皆でグラウンドでドッジボールして遊んでる。

 やっとたどり着いた場所。

 大切なモノへと……辿りつく場所へと……白鴉が目指す地平……あの空の向こうへ……。


(3)


「と、いうわけで転校当初は少々いじめを受けたいみたいですが今は落ち着いています」


 私は遠坂さんに説明していた。


「純也君も少し落ち着いたみたいで。素直じゃないけど皆に心を開いてるようです」

「それはよかったわ~」

「成績も良いようです。少々の遅れはすぐに取り戻したようだし」

「茜ちゃんはどうですか~?」

「問題ないですね、素行もいいし成績もいいし。ご家庭ではどんなご指導されてますか?」

「何も言わなくてもやる事はやってくれてるようなので、敢えて口出しはしてませ~ん」

「そうですか、それでは私はこの辺で」

「はい、ありがとうございました~」


 そうして橘さんの家庭訪問が終わった。

 明日は祝日。

 教員の皆で花の宴をあげようとしていた。

 と、言っても繁華街の料理屋だけど。

 酒を飲みながら鬱憤を晴らす。

 水島先生はかなり溜まっているようだ。

 無理もない。

 5年生だけじゃない。

 学校全体での問題児の集まりなのだから。

 彼等の暴動はとどまることを知らない。


「お前らと同じ空気吸ってるだけで気に入らない」


 もう無茶苦茶ないいがかりをつけてフォーリンググレイスにちょっかいを出している。

 そんな彼等もセイクリッドハートには手を出すなと言う命令を出して要るらしい。

 当然そんな事お構いなしにやりたい放題の天音。


「ちっとは反抗するとかなんとかしろよ!つまらねーんだよ!」


 無茶苦茶な言いがかりだ。

 結果授業の妨害は減った。

 当たり前だ。

 他のクラスの窓ガラスを割って歩けば。


「ガラス屋に謝れ!」といい。


 水島先生をベランダに閉じ込めたら、天音が。


「鍵をかけられてたらこうすればいいんだよ!」


 と、いって扉を蹴飛ばす。


「お前のせいでガラス屋さんがまた忙しくなるだろうか!」


 どっちが善でどっちが悪党なのか分からなくなっていた。

 このままフォーリンググレイスがやられっぱなしだとは思えない。

 だが、どう対抗していくのかまでは予想がつかなかった。

 花見の宴で私達は沈んでいた。

 教師としてどっちの味方をするべきなのか?

 喧嘩両成敗なのか?

 私達は悩んでいた。

 でもこんな席くらいの時くらい陽気になりたい。

 今夜は忘れて盛り上がることにした。

 帰りは主人に迎えに来てもらった。

 ついでに愚痴も忘れずに漏らした。

 主人も中学校の教師をしている。

 だから親身になって聞いてくれた。

 だって、近い将来自分が受け持つことになるのだから。


「お前も大変だな」


 そう言ってくれるだけでも嬉しかった。

 だけどこの事件は更にややこしい事態を引き起こすことになる。

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