第9話 転校生
(1)
「空!いい加減に起きなさい!」
今日は母さんに起こされた。
「天音は?」
「もうとっくに朝ごはん食べてますよ!」
「翼は?」
「これから起こしに行くところ。ついてきたらダメですからね!」
そう言って母さんは翼の部屋に行った。
僕は着替えて支度をするとダイニングに行く。
遅れて翼が来た。
「おはよう」
「おはよう」
「天音。どうして朝起こしてくれなかったの?」
天音に聞いてみた。
「起こして欲しいならいいけど……」
いつもなら抱きついてくるのにどうしたんだろう?
「まあ、パパの前で言うのも悪いような気がするんだけどさ」
それを聞いた父さんは聞こえないふりをしている。
「私にも彼氏候補できたわけじゃん?」
今さらだけどそうだな。
「もし大地が私が毎朝他の男に抱きついてるって知ったらどう思うだろうって気になってさ」
ああ、そういう気持ちがあったんだね。
「じゃあ、自分で起きるよ」
「そうじゃないだろ!」
天音が言う。
「美希に起こしてもらうとかやりようがあるだろ!ていうかお前が美希にモーニングコールくらいしてやれよ!」
「天音の言う事も一理あるわね」
母さんが言った。
朝食を食べ終えると準備する。
翼の準備を待っていると水奈が来る。
翼が降りて来て、3人で玄関に向かう。
靴を履いて家を出る。
「行ってきま~す」
今日も朝から天音の元気な声がこだまする。
天音は水奈と話をしながらもスマホをちらちら確認してる。
「天音。歩きスマホは危ないよ」
翼が注意する。
「天音もとうとう色気づきやがったか」
水奈が言う。
「水奈も他の男子探せばいいじゃん」
「他の男子って誰だよ?」
「自分で言ってたじゃん。粋とか遊とか……」
「同い年ってガキっぽくて嫌じゃね?」
「じゃあ、学とかは?」
「堅物すぎて趣味じゃねーよ」
「あんまり選り好みしてると先取りされてしまうぞ?」
「なずなも花もその気ないっぽいじゃん。天音が大地と付き合ってるのが奇跡なんだよ」
実際、付き合ってると公言してる時は誰も信じなかったらしい。
またいつものどっきりか大地が悪戯されてるか。
そんな風にとられていたそうだ。
無理もない。
天音たちが友達とつるんでる時は大地は話しかけてさえ来ないらしい。
せめて給食一緒に食べようくらいの一言あってもいいのに。
そう天音が愚痴ってた。
「なんか天音が大地と付き合いだして暇になったな。……本気で粋か遊惑わしてみるか?」
水奈は気紛れで男を選ぶらしい。
学校に着くと大地や美希と出会う。
昇降口で天音たちと別れる。
最近僕達を見る周りの目が変わった。
無理もない。小学生の男女が腕組んで歩いてるのだから。
まともな思春期の子なら冷やかすだろう。
教室に入ると何事もなかったかのようにそれぞれの席につく。
すると友達の亀梨光太と桐谷学が来た。
「おっす空。お前ら一体何があったんだ?遠足の時もそうだったけど」
「あまりそう言う事を聞かない方がいいと思うんだが……やっぱり気になってな」
光太と学が言う。
「別に何もないよ?たんに付き合ってるだけ」
あっさりと答える。
「まじで!?まだ続いていたのか」
光太が言う。
まだ一か月しか経ってないぞ。
「もうキスとかしたのか?」
光太の関心はそこらしい。
まあ、クラスの女子の中でも美希は一際大人っぽいしなぁ。
「まだだよ」
「さっさとしたらいいじゃねーか」
そうは言うけど小学生でそういう雰囲気になるのって難しいんだぞ。
「続きは昼休みに聞く。そろそろ時間だ。光太席に戻るぞ」
さすが学級委員だな。
そして高槻先生が教室に入ってくる。
しかしみんないつもと違う事に気付いた。
席についたらすぐに寝る天音なら気づかなかったかもしれないけど。
高槻先生についてきた背の高い男子。
見たことない。
ざわつくクラスメート。
男子は黒板にチョークで名前を書いた。
酒井善明と書いてあった。
「今日から皆さんと一緒に学校生活を送ることになった酒井君です。みんな仲良くしてあげてね」
「酒井です。お手柔らかにお願いします」
酒井君はそう言って礼をする。
女子の中でひそひそ囁かれるほどの美形だった。
「席はそうね……空君の隣が空いてるね」
酒井君は僕の隣に来る。
「えーと……」
「片桐空、よろしく」
「よろしく空君」
酒井君が握手を求める。
それに応じた時感じた。
見た目に寄らずかなり強い。
そういうのだけは敏感に感じるようになっていた。
彼もそれに気づいたのかにこりと笑って答える。
「これでも気配隠してたんですけどね。君もなかなかのやり手のようだ。安心してください。クラスメートと喧嘩なんて面倒なことしたくないので」
そう言って隣に座る酒井君。
彼はただものじゃない。
その気持ちが翼に伝わったのか「大丈夫?」と対話してきた。
「多分大丈夫」
そう答えた。
そうして昼休みになり給食を食べる。
酒井君は孤立していた。
そんな酒井君をみかねて学が「酒井君と言ったかな?こっち来て一緒に食べよう」と声をかけた。
「すいませんね、気を使わせて」
酒井君がやってきた。
「酒井君どこから来たの?」
僕は聞いてた。
「戸次です。家が老朽化したから新築するって母さんが言いだして、たまたまこの近くに土地があったし親の知り合いが沢山いるらしいので。納期が遅れてこの時期に転校になったんです」
酒井君が説明する。
「老朽化したからってそんなにぼろい家だったの?」
僕が聞いてみた。
「いや、どうでしょうね築15年も経ってないんじゃないでしょうか」
は?
「じょ、冗談が上手いな酒井君は」
むしろ冗談であってほしいと学は思っていたんだろう。
「父さんも同じ意見でした。でも母さんの方が強いから」
本当らしい。
その後趣味は?特技は?等色々聞いていたら突然非常ベルが鳴りだした。
慌てる皆。
酒井君は妙に落ち着いてる。
「いや、僕どうもこういうトラブルに巻き込まれる性質でして」
何か分かる気がする。
うちの場合は身内がトラブルを作るんだけどね。
翼と対話していた。
どうも嫌な予感がする。
とりあえず先生の指示に従って校庭に避難した。
(2)
今日から新しい学び舎での生活が始まる。
担任に連れられ教室に入る。
「今日から入る新しい友達の紹介よ」
担任が言う。
「今日からお世話になります。酒井繭と申します。どうぞよしなに……」
男子は誰一人聞いてない。
「席は……栗林さんの隣が空いてるわね。どうぞ」
担任が言うと席に移動する。そして歩みを止めた。
理由は男子が足を出してるから。
「足どけて頂けないでしょうか?」
私は言った。
「いやだね」
男子はそう答えた。
「そうですか、それでは仕方ないですね」
私は足を思いっきり蹴り上げた。
男子は椅子から転倒する。
「こうなるから忠告して差し上げたのに。お怪我ありませんでしたか?」
私は男子に手を差し出す。
男子は手を払いのける。
「ふざけた真似しやがって!」
男子は立ち上がる。
「止めなさい!小泉君!あなたが悪い」
担任が言うと黙って座る。
私は大人しく指定された席に座った。
両隣りの女子から声をかけられた。
「酒井さんってすごいね。私栗林瑞穂。よろしくね。お友達になりましょう」
「私は桐谷恋……よろしく」
「宜しくお願いします」
その後私にちょっかいをかけてくる男子はいなかった。
もっとも好意的な男子もいなかったけど。
先ほどの小泉という方がこのクラスの実権を握っていることは昼休みに瑞穂さんから聞いた。
小泉優。大原奏、大原要、如月天。この4人が要注意人物だという。
「どこから来たの?」
恋さんが聞いてきた。
「戸次です。家が老朽化したのと部屋の数が足りないという理由で引っ越してまいりました」
「老朽化?」
恋さんが聞き返す。
「ええ、10年以上も経ってるぼろ家に住みたくない。という母のたっての希望がありまして」
「……酒井さんの家って何やってるの?」
瑞穂さんが聞いてきた。
「大したことじゃありませんよ。小麦やお野菜等を売ってる商売です。あとは株とかですね」
「カブ?……酒井さんの家って八百屋さん?」
「八百屋というよりスーパーと言った方が近いかもしれませんね」
小麦の中にRPGなんかを混ぜているのは伏せておくように兄から言われてるから言わなかったけど。
3人で和やかに給食を取っていると突然鳴り響く非常ベルの音。
教室の中は騒然とする。
瑞穂さんと恋さんも不安そうにしていた。
瑞穂さんに至っては泣いている。
先生が必死に皆を落ち着かせて非常口から非難するように言う。
「私達も参りましょう」
2人の手を取って歩き出す。
「何でそんなに落ち着いてるの?」
瑞穂さんが聞いてきた。
「父の仕事の関係上こういうトラブルは日常茶飯事だったので」
なんせ母様のご機嫌一つで会社一つ潰れるのだから。
(3)
新しい学校生活が始まる。
「じゃあ、どうぞ先に入って」
担任に教室に先に入る様に言われた。
だけど嫌な予感がする。
「先生からどうぞ」
どうせ黒板消しでもしかけてるんだろう?
その程度にしか考えてなかった。
しかしこのクラスには高度な知能犯がいるようだ。
担任がドアを開けるとロープで作られた仕掛けが作動してドアの上に仕掛けて置いた水の入ったバケツがひっくり返る。
先に入った担任は水を思いっきり被った。
クラスは爆笑の渦に包まれる。
その知能犯は確信犯らしい。
自ら名前を名乗り出る。
「な、上手く言ったろ。水奈」
「お前人を笑わせるの上手すぎるぞ天音!」
その声を聞いた担任は怒りに震えだす。
「片桐さん!またあなたの仕業なの!?」
しかしその片桐天音という人物は悪びれる様子がまったくない。
「いつも黒板消しじゃ桜子も刺激が足りないと思ってちょっと工夫してみました。てへっ」
天音がそう言うと水奈と呼ばれた女子は笑い転げている。
「桜子、水も滴る良い美女って言うけどそのままだと風邪ひくんじゃね?」
水奈がそう言うと、担任は「しばらく自習してなさい!」と言って職員室に戻った。
私はどうしたものか迷う。
「なあ、ところでお前誰?」
男子の一人が言うと皆気付いたようだ。
まあ、担任抜きでも自己紹介くらい出来るか。
私は黒板に自分の名前を書くと自己紹介した。
「今日からこのクラスでお世話になることになった酒井祈です。よろしくお願いします」
「新学期始まってからいきなり転校生かよ!」
「まあ、いいや。せっかく天音が作ってくれた自習時間だ。なんか遊ぼうぜ」
「新人歓迎会ってやつだな」
皆言いたい放題。
私は教室を見渡して見つけた用具箱からモップを取り出すととりあえず濡れた床を拭く。
そうして転校初日からこんな雑用させられなきゃならないんだ。
そうしている間に担任がジャージ姿で戻ってきた。
「水奈と天音!2人は放課後職員室に来なさい!お母さんも呼び出しましたからね!」
「そんなにヒスんなよ桜子。また皴が増えるぞ!」
「……。祈さんは竹本さんの隣の席について」
言われたとおりに空いてる席に向かう。
「あっ!」
すれ違う私を見た小柄な男子生徒が声を出した。
私はその男子生徒を見る。
その男子生徒を私は知っていた。
石原大地。
石原恵美の息子。
何度かパーティで見たことがある。
石原恵美の親・江口家とうちの母・酒井晶の親・志水家の二大企業は地元の産業の7割近くを牛耳る巨大グループ。
その力は経済だけでなく政治にまで影響するという。
江口家と志水家に逆らった人間は地元でまともな暮らしをすることは不可能なくらいまで追いつめられるらしい。
実際に石原恵美と私の母さんの逆鱗に触れた企業は尽く潰されてきている。
と、いうことはひょっとしたら兄・酒井善明も石原大地の姉・美希と遭遇してるかもしれない。
「お久しぶりね。大地君」
とりあえず挨拶していた。
「お、お久しぶりです」
大地と握手をする。
「石原、お前片桐と付き合って一月経ってねーのにもう浮気か!?」
男子が囃し立てる。
手を握ったくらいでどうしてそうなるのか理解に苦しむ。
「大地君?その人誰?知り合いかな?」
片桐天音が大地に問い詰める。
「と、父さんの仕事の関係で知り合った人です」
大地の慌てっぷりを見てると本当に付き合ってるらしい。
大地が女子と交際しているのも驚きだが、こんな破天荒な女子と付き合ってるとは。
「いいから席につきなさい!」
担任が言うと私は席につく。
転校生というものは孤独な者。
誰一人構ってもらえない。
面倒事にも巻き込まれないならそれもいいかもしれない。
たった3年我慢すればいいんだ。
そう思ったのは昼休み迄だった。
「おーい、酒井って言ったか。こっちこいよ」
片桐天音に呼ばれた。
給食を持って席を移動する。
「私片桐天音、よろしく。天音でいいよ」
天音がそう言うと皆挨拶を始めた。
片桐天音、多田水奈、竹本花、三沢なずな、石原大地、栗林粋、桐谷遊。
これが片桐天音のグループのメンバーらしい。
自己紹介が終ると天音が聞いてきた。
「お前本当に大地と何も無いんだろうな」
気にしてるらしい。
誰がこんな小者と関係を持つものか。
「心配しなくてもパーティであったきり」
「ならいい、じゃあ。さっさと飯食おうぜ。新人歓迎の儀式やらねーといけねーし」
儀式?リンチでもするつもりか?
「あ、天音あれはもうやめた方がいいって……」
大地が天音に言う。
「大地びびってんじゃねーよ!大体お前だけだぞ俺らの中でやってねーの!」
遊がそう言う。
「あれって何?」
私は素朴な疑問を投げかけてみた。
「大したことねーよ。ただの”ピンポンダッシュ”だ」
天音が言う。
その割には異常な程に怯えている大地。
その理由は給食を食べた後すぐにわかった。
私達は体育館裏でも倉庫でもなく非常ベルの前に立っていた。
「これをぽちっと押してダッシュするだけ。簡単だろ?」
凄く解りやすい解説を水奈がしてくれた。
「くだらない」
そう言って踵を返して立ち去ろうとすると遊が私を呼び止めた。
「逃げんのか?お前もチキンかよ」
私は、足を止めた。
「今なんて言った?」
大地は私の性格を覚えていたようだ。
これはまずいと言ったような顔をしている。
しかし私をチキンと罵った遊は続ける。
「このくらいでビビッてんじゃねーよ。ピンポンダッシュくらい幼稚園児でもするぜ!」
「誰がビビってるって!?ふざけんな!」
「じゃあ、やってみろよ!」
「止めとけ遊。なんかしらけた。大地にやらせようぜ。天音の彼氏候補なんだろ?こんくらいやらせねーと納得いかねえ」
水奈が言う。
大地は怯えている。
それは自分が押すのが嫌じゃなくて別に理由があるという事を大地は震えて声が出せなかった。
しかし私は頭に来た。
「上等だ!こんなもん押して喜んでるお前らがくだらねーって言ってんだよ!」
「祈!待て!今はまずい!」
天音の大地の警告に気付いたようだ。
だがもう遅い。
「押したからなんだって言うんだ!」
ぽちっ
ジリリリ……!!
非常ベルが鳴りだす。
と、同時に背後にいた職員が叫ぶ
「またお前らか!!何やってるんだ!!」
「やばい!祈!ずらかるぞ!!」
天音が私の手を取って走り出す。
だが遊が逃げ遅れた。
「また遊か!本当に間抜けだな!!」
天音が足を止める。
みんな逃走を止めた。
「どうして?私達だけ逃げられたはずじゃ?」
私が言うと天音は言った。
「何でもみんなでやれば怖くない。ならみんなで怒られよう。だ!」
そう言って天音は笑う。
そして私達は放課後揃って職員室に正座をさせられ親を呼び出されて大目玉を食らった。
転校初日から散々な目にあった。
だけど悪い気はしない。
なかなか面白いグループに出会えたと思った。
(4)
「いやあ、なかなか面白い転校生が入ったぜ」
風呂から上がって髪を乾燥させながら翼に伝えた。
「その転校生を初日から事件に巻き込んでどうするの!?」
翼に叱られる。
「ピンポンダッシュくらいどうってことないって!」
私は言う。
しかし親はそうは思わなかったみたいだ。
「天音!ちょっと降りて来なさい!」
「……愛莉も結構怒ってる」
「……そうみたいだな」
「精々怒られて来い」
翼に言われて部屋を出る。
リビングには愛莉とパパがいた。
お爺さん達は部屋に入っているようだ。
珍しく。愛莉がピリピリしてる。
このくらい日常茶飯事だろ?
朝の罠とセットだったのが不味かったか。
「そんなに怒んなよ。生理か?」
「……」
どうしたんだ?
「どうした愛莉?」
パパも気になったらしい。
「冬夜さんにはまだ言えません」
愛莉の機嫌が悪い事だけは確かだ。
情緒不安定になってるっぽい。
「冬夜さんも何か言ってください。この子全く反省してません」
愛莉がパパに言う。
「なあ、天音。今日新しい転校生来たんだって?」
「ああ、翼のとこにも来たらしいぞ」
「その人たちも父さんの仲間だった人だ。」
え?
「父さん達も高校大学時代と仲間を次々と集めてきた。大事なグループだ」
知ってる。
今も繋がってるって事もきいた。
桜子もそのグループの一員だって聞いてる。
「天音もいいグループを作ったみたいだな。仲間が一緒なら怖くない。ならみんなで怒られよう。父さんは賛成だ」
「ちょっと冬夜さん!」
「でもそんな大事な仲間を巻き込んで騒動を起こして楽しいか?大事な仲間なんだろ?」
「楽しいんだからいいじゃん!」
「皆に迷惑かけて本当に楽しいと言えるか?。ピンポンダッシュは天音が思っている以上の人を巻き込んでるぞ」
みんな夜勤明けや当直の人だっている。緊急搬送先の病院の手配もしなくちゃいけない。
どれだけの人が被害を被ってるか。
でも、パパの言う事に疑問があった。
「じゃあ、バケツの件はいいのか?」
「天音!いい加減にしなさい!」
だがパパは笑う。
「仕掛けの仕組みは聞いたよお前の頭の良さは愛莉に似たんだな」
「冬夜さん!」
「愛莉も落ち着いて。いつもなら天音たちの主張を聞いてるだろ?今日は変だぞ?今日は僕に任せて先に休んで」
「分かりました……じゃあ先にお休みします」
母さんが寝室に行った。
それを見るとパパは言う。
「愛莉最近様子が変なんだ。ピリピリしているって言うか不安を抱えているようで父さんにも教えてくれない」
パパにも悩みがあるんだ。
「愛莉は天音の教育に不安を抱いている。これ以上愛莉の不安を増すような真似は止めて欲しい。それが父さんの願いだ」
「聞いてくれるかい?」とパパは言う。
「……分かった」
そう言うしかなかった。
「ありがとう」
パパは自分の要求を受け入れると必ず「ありがとう」って言う。
それがパパの本心なんだろう。
「父さんからは以上だ。悪戯も程々にな。父さんの予感が正しかったら……」
「正しかったら?」
「その時は愛莉から言うと思うよ。愛莉の支えになってやれ」
パパはそう言って笑った。
リビングの電気を消す。
「もう寝よう?おやすみ」
そう言ってパパは寝室に行った。
私も部屋に戻るとまだ翼は起きていた。
「なんて言われた?」
翼が聞く。
「愛莉がどうも何か隠してるらしい」
「え?」
「そのうち愛莉の口から告げられるから待ってやれって」
翼はパパの意図を知ってるようだ。
「これから大変だね。お前も悪戯どころじゃないよ。愛莉に負担掛けられない」
どういう意味だ?
「ピンポンダッシュの件はどうだった?」
「いつも通りの小言。ただ大切な仲間ならまず厄介ごとに巻き込むなって言われた」
「パパらしい解説だな」
「そうかもな」
「じゃ、そろそろ寝るか?」
「おやすみ」
愛莉に負担をかけない悪戯か。
それを模索しているとスマホが鳴る。
大地からだ
「天音は大丈夫だった?」
「しぼられたよ。大地は?」
「彼女がやれるのにあなたがびびってどうするの?って叱られたよ」
笑った。
「悪かったな。もうちっと別の遊び考える」
「うん」
「じゃ、そろそろ寝るわお休み」
「おやすみ」
スマホを充電器にセットするとベッドに入る。
明日は何をしよう?
そんな事を考えながら眠りについた。
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