第8話 花園
(1)
「おはよう空、朝だよ」
「……あれ?翼?」
翼が僕の部屋に天音よりも先に来ていた。
「天音はどうしたの?」
僕が翼に聞くと翼は笑っていた。
どうしたんだろう?
翼に聞いていた。
柄にもなく今日着ていく服を深夜まで悩んでいたらしい。
そして深夜に両親の部屋に押し入って「下着くらい勝負下着の方がいいだろ!?愛莉の貸してくれよ!」と交渉したらしい。
「いくら私のでも天音には大きすぎます」
そういう問題か?母さん。
「じゃあせめてリップくらいいいだろ!」
「まあ、そのくらいならいいですよ」
母さんは承諾したらしい。
交渉は成功したがその代償が寝坊。
今慌てて準備してる最中だという。
「と、言うわけで空も早く準備した方がいいよ」
翼はそう言って部屋を出て言った。
天音がね……天音も女の子なんだな。
僕も着替えると準備をした。
今日は水奈と水奈の母さんと、美希さんの家……石原家の人達とフラワーパークに行く。
花がいっぱい咲いてるらしい。
何が楽しいのかさっぱりわからないけど。
「まあ、空もそろそろ慣れておく必要があるかもしれない」
父さんが昨夜言ってた。
天音が浮かれているのは天音と友達から始める事になった石原大地くんと一緒だから。
初めてのおでかけで気分が浮かれているのだろう。
そのくらいは僕にだってわかる。
準備が終るとリビングで皆を待つ。
今日は天音がお弁当を作ってるらしい。
昨日の夜から仕込んでた。
「翼、盛り付けお願い。私天音の準備手伝ってあげないといけないから」
「は~い」
翼はそういって弁当箱に料理を詰め込んでいく。
うちは大食いが4人いる。
量もすごい。
翼一人で大丈夫だろうか?
「翼手伝おうか?」
「空こういうのセンス無いからいい」
却下された。
仕方ないので父さんとテレビを見てる。
呼び鈴がなる。
僕が出ると水奈と水奈の母さんがいた。
今日は水奈の父さんは試合がある日。
水奈と水奈の母さんも父さんの車で行くことにした。
そのあとに石原家がやってくる。
急な呼び出しに多忙な美希さんの父親・石原望さんが来たのには、母親・石原恵美さんの一言があったらしい。
「子供達の恋愛に協力するくらいしてあげてもいいでしょう!」
大地君の恋愛の為に地元の中小企業が何件か不渡りを出したらしい。
「連休に仕事をしないといけないような無茶なスケジュールを組む無能が悪いのよ」
というのが母親の弁。
「片桐君久しぶり」
望さんは父さんを尊敬しているそうだ。
父さんがいなかったら今の生活はなかったらしい。
そんなに凄い人なのだろうか?うちの父さんは。
「石原君こそ多忙なのに急にごめんね」
父さんが言う。
「いいのよ片桐君。うちの子供達を選んでくれてありがとう。これでお互いの将来は安泰ね」
恵美さんが言う。
「そ、それはこれからどうなるか分からないし……」
父さんは返答に困ってるようだ。
「パパ、準備出来たよ」
いいタイミングで翼が入り込んできた。
そうして3家でフラワーパークに行く。
父さんの車には母さん翼と水奈と水奈のお母さん。
僕と美希と天音と大地は石原さんの車に乗るそうだ。
色々話もあるんだろう。
出発した。
美希のお父さんの運転もとても丁寧だった。
だから天音は寝てた。
僕は美希と二人で景色を見ながら話をしていた。
フラワーパーク付近では渋滞していたけど、そんな時間すら美希と一緒なら平気だった。
そうしてフラワーパークに着くと大地が天音を起こす。
そして入場して芝生の広場でシートを広げてお弁当を食べる。
大地君には特別に用意してあったらしい。
ただ問題があった。
天音の弁当の量の基準は僕達だ。
大地君は小食。
食べきれるわけがない。
だけど大地君は無理して食べた。
大地君のお母さんの厳しい目線と天音の残念そうな目線がそれを許さなかった。
なんとか食べ終わった大地君にお茶を差し出す天音。
「どうだった?結構頑張っただけど」
「美味しかったです。ありがとうございます」
そんなやりとりを僕達は見ていた。
冷やかす親達。
その時美希が僕の腕をつつく。
「私も空のお弁当作ってきたんだけど」
「ありがとう、頂くよ」
「お前まだ入るのかよ!」
水奈が驚く。
弁当を平らげると、自由散策。
小学生にそんなことさせて良いのか?と思うけどこんな行楽地で誘拐なんてするやつはいないだろ?
それにパパ達を怒らせると大変なことになるらしい。
特に今回は石原家が絡んでる。
100倍にして仕返しをするらしい。
敵とみなしたら容赦しないのが父さん達のやり方なんだそうだ。
「じゃ、天音と大地君は気を付けて回っておいで」
父さんが言う。
僕も美希と回ろうかな。
あまり興味はなかったけど美希は興味あるらしい。
「美希、僕達も見て回ろうか?」
美希に手を差し出す。
「うん」
美希が僕の手を取ろうとした時だった。
「待った!!」
そう言ったのは水奈だった。
「水奈、どうしたの?」
翼が聞いていた。
「あの二人気にならね?」
「初めてのデートなんだし二人きりの方がいいんじゃない?」
「相手は大地だぞ、上手くやるとは思えねえ!」
水奈が断言する。
「そうね。姉の私が言うのもなんだけど、大地はちょっと頼りない」
美希も言う。
「で、どうするの?」
翼が聞いていた。
「尾行しよう」
水奈が言った。
心を読まなくても分かる。完全に興味本位だ。
「まあ、天音が恋してるってのも気になってたし面白そうだね……でもそれなら私と水奈だけでいいよね?」
翼が言うとにやりと笑った。
「と、言うわけで二人は楽しんでくるといいよ」
ソフトクリームばかり食べてたらダメだよ?と翼からの忠告を受けた。
(2)
今日は空達とおでかけ。
気持ちが興奮していて眠れない。
若干寝不足だった。
服を着替えてダイニングに行く途中、弟の大地に声をかけようとした。
大地の恰好を見て目が覚めた。
そして叫んでいた!
「あなた何やってるの!?」
「あ、姉さんおはよう」
おはようじゃないでしょ何その格好!?
まるで七五三か入学式でも行くのかというような恰好。
このまま行かせたら、間違いなくどんな恋の炎も冷めてしまう。
大地たちが破局したら私達まで気まずくなってしまうかもしれない。
阻止しないと!
「いいからその服を脱ぎなさい!お姉ちゃんが服を選んであげる!」
そう言って大地が服を脱いでる間にクローゼットの中から適当に服を見繕う。
デニムのジャケットにボーダーのTシャツ、下はジーンズ。
これならいくらかましだろう。
「こんな普通の恰好でいいの?デートだよ?」
「そうよ、デートだよ!お見合いするわけじゃないんだから。ちょっと来なさい!」
そう言って洗面所に連れていくと寝癖を直した後父さんの使ってるワックスを使って髪形をセットしてやる。
いくら私達が作戦を練ったところで基礎から崩されたら元も子もない。
私も自分の身支度をして朝食を食べると空の為にと昨日作っておいたお弁当を盛りつける。
「美希、あなたも頑張りなさい。2人共片桐家と結ばれたら石原家は安泰よ!」
母さんが言う。
父さんは苦笑いしていた。
あまりこういう事には口出ししてこない。
教育方針は母さんが独断で決めているようだった。
独断なのは教育方針だけじゃない。父さんの仕事のスケジュールも母さんの意のまま。
私の出産に無理矢理立ち会わせて決裁が遅れて傾きかけた中小企業があるらしい。
「お前の命は尊いものだよ。色々な意味で。大事にしなさい」
父さんはそう言っていた。
準備が終ると父さんの運転で空の家に向かう。
空達も準備を済ませたみたいで、家から出てくる。
天音が大地の隣に座ると車は空が私のとなりに座っていた。
空のお父さん・片桐冬夜さんは運転がとてもうまい。
後にも目がついてるんじゃないかというほど父さんを気づかって車を進める。
母さんを除く4名が緊張していた。
緊張の元は隣に座っている大地。
完全に固くなってる。
何も言おうとしない。
一方天音は静かな車の中で空気を読むことなく爆睡している。
この状況を打開したい空が一言言った。
「今日はいい天気ですね。景色も綺麗だ」
「そうだね、とてもいい天気」
私も手助けした。
だが、母さんの悪気の無い一言が空気を冷やす。
「大地は普段天音と何をしているの?」
大地は回答に苦しむ。
無理もない。大地がデートに誘ったことなど一度もないのは私も知ってる。
しかし大地は一言も喋らない。
あなたが喋らないと始まらないでしょ!
「大地。初めてだから仕方ないけどもっと肩の力抜いた方がいいよ」
父さんが言う。
そしてそれが余計な一言だった。
「なんですって?」
母さんの声音が変わる。
「じゃあ、帰りに家まで送ったりは?」
「天音は水奈やお兄さんたちと帰るし帰る方向が逆だし……」
「休日に何してたの?」
「とりあえずメッセージは送ってたけど」
「大地は新條に何を教わったの!?何を聞いてたの!?まさか学校でも喋ってないとか言わないでしょうね!?」
「天音の周りには、竹本さんとか三沢さんとか、桐谷君とか栗林君がいて……」
「言い訳になってない!それでよく彼氏だなんて言えたものね!自分が情けないと思わないの!?」
「恵美、その辺にしとこう。せっかく天音さんが来てくれたんだ」
父さんが仲裁に入るけど父さんが仲裁に入って収まったことは一度もない。逆に燃料を投下することになる。
今回もそうだった。
「望は黙ってて!大体あなたにそっくり。デートはしてくれない。どうせ誕生日も知らないとか言うんでしょ?そもそも今日誘ったのは片桐君達のほうなのよ!」
「だ、大地も頑張ってるみたい。ちゃんと夜とかは電話してたりするみたいだし」
それはたまに大地の部屋の前を通る時に声が聞こえてくるから知っていた。
「美希。あなたの方はどうなの?」
まずい、矛先が空に向かいそうだ。
「空は必死に頑張ってる。電話したり学校でも一緒に給食食べたり……」
ただ小学生だからまだデートとかは早いかなとか悩んでるみたい。
そう弁護したつもりだった。
母さんは一度火がついたらなかなか鎮火しない。
大地を叱る母さんと、それを聞いて小さくなる大地。
現地に着くまでそれは続いた。
こんな日に限って車は渋滞して母さんの説教は長引いた。
車を降りると母さんは収まった。
そしてお弁当を広げる。
天音は料理が得意らしい。そして今日も張り切って作ったらしい。
大地には多すぎる量だ。
大地は途中でもう食べられないとシグナルを出した。
そんな事は許されない。
そう母さんの表情が物語っていた。
大地は頑張って食べた。
我が弟ながらよくやったと褒めていた。
そして忘れてた。
私も弁当を空に作っていたことに。
「私も空のお弁当作ってきたんだけど」
そう言って空に弁当を渡す。
さすがに食べきれないかな?
空ためらうことなく食べ始めた。
どれだけ食べられるのだろう?
美味しかったと言ってくれた。
その後自由行動になった。
大地と天音は二人で自由行動。
そして私も空と二人で回ろうとした時だった。
「待った!!」
水奈が私達を呼び止める。
大地達を尾行しよう。
水奈が二人に言う。
だけど翼は「それなら私と水奈の二人でいい」と言ってくれた。
大地を尾行するのは難しい。
大地は人の気配をすぐに察知する。
だが翼はその上をいっていた。
大地が気づく領域を的確に把握して、気づかれないぎりぎりの距離を保ちながら行動する。
それは水奈には無理だから翼がついて行くと言った。
私達は二人で散策していた。
相変わらず空はソフトクリームやホットドッグを食べながらだけど。
そんなに良く食べられるな。
「朝抜いてきたの?」
「ちゃんと食べてきたよ」
おかしいと思うのは私だけなんだろうか?
「あ、美希もおなか減ったの?」
あまり食べてなかったねと空が言う。
ちゃんと見てくれてるんだな。
「そういうわけじゃないんだけど」
「んー。母さんが言ってたな。あの店に行こうか」
向かった先は香水とかハーブのお店。
そう言う店に連れていったら私がきっと喜ぶと聞いたらしい。
ちゃんと私の事も考えてくれているみたいだ。
「最後に行きたいところあるんだけどいいかな?」
私から空にお願いすると「いいよ」と言ってくれた。
花のアーチの下にあるベンチ
ちょうど天音たちも来ていたみたいだ。
空と二人で座ると天音たちに撮ってもらう。
時間になって親たちの元に戻ると帰路につく。
「いつか大きくなったらまた来れるといいね」
「そうだね」
これから一緒に成長して行動範囲が広くなって二人だけで色々な場所にいくんだろうな。
そんな将来を夢見ていた。
(3)
空と天音は帰りも石原家の車に乗っていた。
私と水奈はパパの車に乗る。
そして車が走り出した。
走り出すと同時に水奈は親子共に眠っている。
「ねえ?翼」
愛莉が話しかけてきた。
「どうしたの?」
「クラスに気になる子とかいないの?」
これから先、空と天音は美希や大地と行動するだろう。
水奈もそうだけど寂しくないのか?と愛莉が聞いてきた。
「スカート捲って喜んでる変態と付き合うつもりはないよ」
何人か病院送りにしてやったけど。
「そんな子ばかりなの?」
「例えば?」
「空の友達もそんな変態なの?」
「空はあまり友達作らないから」
光太は誰かを気にしているのは見ていたら分かる。
学は多分それどころじゃないだろう。
仮に学を好きになっても学にさらなる負担をかけるだけだ。
そんな風に空の友達を紹介していた。
「そういえば亜衣も言ってましたね。弟や妹の面倒を任せっきりにしてるって」
「でしょ?」
「諦めることはないよ」
突然パパが割り込んできた。
「翼は気づいてるかもしれないけど、愛莉は視野が狭くなってる」
「と、言いますと?」
「翼は今弟の空の幸せを願っているんだろ?」
「うん」
少し寂しいけど。
「そんな翼にもきっといい相手が現れるよ」
「この先そんな相手に会えるってことですか?」
「そうだね。その時に躊躇ったらだめだ」
人生のうち一度きりかもしれないし何度でもあるかもしれない。
その時に踏み出せるかどうかが全て。
やり直しなんて聞かないから。
「おじさん。それ私もそうなのかな?」
いつの間にか起きてた水奈がパパに聞いていた。
するとパパは首を傾げて言った。
「そこが不思議なんだよね」
「え?」
「……水奈はもうすでに出会ってるような気がするんだけど」
パパの勘は良く当たる。
しかし水奈に心当たりはないらしい。
「そいつは大丈夫なんだろうな?」
水奈の母親の神奈さんが聞いていた。
パパは笑って答える。
「それもよくわからないんだよね。でも水奈と相性がよさそうな人がいるのは間違いないと思うよ」
「冬夜さんでも分からないことがあるんですね」
水奈も頭をひねって考えている。
私と水奈の相手か。
どんな人なんだろうと車窓を見ながら考えていた。
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