第10話 ルイスの横暴

 エリザが王宮から締め出されてから一年が経過し…彼女は学園の卒業パーティへ、従兄弟の兄とともに出席した。

 ルイスは傍らにお揃いのドレスを身に着けたクロエを従えている。

(まるで新しく手に入った玩具を見せびらかす子供みたい)

 クロエは相変わらず困ったような顔をしているが、ルイスを邪険にしていない。

 エリザは彼女に苦言を呈したが、やはり彼女は平民なのだ。

 養親を護るために王族には逆らえないようで、今もルイスの言いなりになっている。

 どうも、ルイスがかなり強引のようで勝手に卒業後の結婚も決めてしまったらしい。

 クロエは「大変申し訳ありません」と謝り、「どうしたらいいのか…」と非常に困り果てていた。

 そうして不躾な視線に二人の少女が晒されている事も気が付かずに、鈍感なルイスは満足気にクロエをほうぼうへ紹介しパーティを満喫するのだった。

 パーティのあと、ルイスはクロエを王族用の馬車へ残し、学園の裏庭へ向かう。

 そこへエリザを呼び出していたからだ。

 当のエリザは「婚約破棄かしら」と考え、護衛数人とそこへ佇んでいた。

 彼女が静かに佇むさまを見て、ルイスは満足げに微笑み控えていた騎士たちへ命令をする。

「捕らえろ」

 すぐさま騎士たちは動き、エリザを捕縛した。

「何をしていますの…?」

 特に抵抗もしなかったのでルイスの前に連れて行かれると、彼はフン、と偉そうに吐き出した。

「まだわからないのか?…お前は聖女たるクロエに害をなしていた」

「証拠は?」

「お前の友人たちが、証言した」

「友人?伯爵家の、でしょうか」

 親友とまではいかないものの、よく行動をともにしていたのは遠縁の伯爵家の少女だ。

 そう尋ねると、ルイスは言う。

「公爵家、だ」

「公爵家?…そちらに友人はおりませんが…」

 公爵家は国内に三家ある。外交官であるエリオット家、騎士団長のグリーン家、そして宰相のフォックス家だ。

 グリーン家は家族同士が仲が良いが近い年齢の子女がいないので学園に友人はいないし、フォックス家は祖父母と父が毛嫌いしているので友人は全く居ない。

「嘘を付くな!メイソンが…いや、フォックス家の遠縁の者がきちんと証言している」

(また、宰相、なの)

 いい加減に王も王太子も、宰相の怪しさに気が付いてくれないかと思うのだが、幼い頃から洗脳されているのか疑いもしない。

 今回のことも、メイソンのシナリオ通りなのだろう。

 ならば自分を婚約者などにしなければいいのにと思うが、持ち上げて落とす、という手段かもしれない。

 自分まで殺されたならば、エリオット家は確実に勢いを削がれる。

(そう言えば…)

 王妃教育の際に内緒だけど、と教えてもらったことがあった。

 メイソンは、トゥーリアの隣国である民主政国家のペルゼンを手に入れたいようだから、外交を穏便に済ませる為にいるお父様やお祖父様とお祖母様の周囲に気をつけて、と。

(…アメリア様の言う通り、この男とさっさと縁を切っていれば…)

 忙しい王妃にまた心労をかけてしまう。

 自分の事よりも、ルイスのことよりも、その事が気がかりだった。

「申し開きがないのなら、このまま連行する」

「……」

(どうせ、何を言っても無駄なくせに)

 貴族や権力を嫌うくせに、自分の思うようにしたい時は権力をあっさりかざして来るこの男が、エリザはそろそろ大嫌いになりかけていた。

 エリザは青い顔をした護衛たちに家へ戻りなさい、と告げると騎士たちに連行される。

 ルイスは別の馬車へ満足げな顔をして走っていったから、きっとその馬車にクロエを閉じ込めているのだろうと思う。

(親と子って似るのね…)

 そのように仕組まれたのかもしれないが、もう少し疑問を持って欲しい、とも思う。

(はぁ…)

「こちらへお願いします」

 騎士は申し訳無さそうに護送用の馬車へ誘導し「修道院へ行くことになる」と教えてくれた。

 おそらく騎士団長と関わり合いのある騎士なのだろう。

 お礼を伝えると、なんとも言えない表情をしていた。

 騎士団は宰相の魔の手があまり伸びていない。だからこそ、”おかしさ”に気が付いているのだろう。

(でも、どうにも出来ていない)

 なんとか出来るならば、アメリアが王妃になっていないはずだ。

(宰相のメイソン…一回ひっぱたきたいわ)

 しかしそんな考えも虚しく、エリザは王宮にある貴族用の幽閉塔へと収監されたのだった。

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