第9話 エリザ
(アメリア様…)
門衛からは「王妃様からの意向だ」と伝えられたがすぐに嘘だと分かった。
アメリアの自分に対する愛情も理解していたし、祖父に頼み安全な…仕返しが来ない場所から調べてもらい、騎士団長経由で「宰相の妨害だ」という事も分かった。
(今まで通えていたのが、奇跡だったのかもしれない)
そうエリザは理解した。
もうこれからは…それこそ自らが王妃にならない限り、この門は決して自分に対して開かれないだろう。
「置物の王妃にはならないように」と言われたが、回避する術はあるだろうか。
日に日にルイスはクロエに傾倒していっている。
クロエの方は「しょうがないなぁ」という感じで、甘えるルイスの面倒を見ている姿は母親のようでもあった。
(殿下は愛を勘違いしている…)
そんな姿を見ていれば、過去に薄っすらとあった恋心も霧散するというものだ。
同じような高位貴族の者は”よかれ”と思ったのか、クロエをつまらない悪戯で少々困らせたりもしている。
(…うまく行かないものね、母様)
だから母は王を切り捨てたのだろうか、とも思う。
門から踵を返して馬車に乗り込む前に、隣へ馬車が停まった。
(ルイスだわ)
豪奢な馬車は王族のものだ。王は滅多に出歩かないため、この馬車に乗っているのはほぼルイスだ。
スッと馬車の窓が開くと、案の定、ルイスが顔を出す。
なぜだか不機嫌そうな表情だ。
「どうかいたしまし」
「どうしたもこうしたも!…お前はやはり、母上に教育された者なのだな」
「…と、言いますと?」
ルイスは澄まし顔とは裏腹に、王に似て直情的だ。
冷静に返すとそれが気に入らなかったのか、文句を言ってくる。
「クロエに近づくな」
「ああ、その事ですか」
自分は何もしていないのに勝手に取り巻きがつき、自分の友人だと言う人物たちがクロエに対して何かしているのは知っている。
全く見覚えのない者たちだった。
おそらくは、誰かに仕組まれている。
「何度も言いますが、私は関係ありません。権力で排除なさったらどうです?」
「そのようなところが母上そっくりだと言っているんだ!…まったく、これだから貴族は…少しは自重しないか」
(何を言っているのかしら、この方)
その貴族の筆頭に居る王族だというのに、平民とちょっと恋をしたくらいで、こんなにも意識が変わるものなのか。
(いえ、”離れの君”や…王の…宰相の影響かしら)
何も言い返さないエリザに、苦言を肯定したと思ったらしいルイスが満足そうに笑う。
しかしエリザはその顔にカチンときて言い返した。
「アメリア様は日頃から公務をなさっていて忙しい合間に殿下を育て、私にも王妃教育を施して下さいました。その事をあなたはご存知なのですか?公務はもうなさっているのでしょう?そこのところ、きちんと理解されていますでしょうか?」
「っ!」
実を言うと公務にはまだ手をつけていない。
やりたいと言ったのだが「まだ早い」と宰相に言われてしまった為だ。
「知った口を聞くな!お前に何が分かる!!」
乱暴に馬車の窓を閉めると、車輪が回りだす。
(あらあら、逃げたわ)
ルイスを初めて見た5歳くらいの時は非常に大人っぽいと憧れたものだが、内面は7歳くらいから成長していない。
あのアメリアがそんな中途半端な教育をするとは思えなかったので、彼女が忙しい間に仕込まれて形成された性格なのだろう。祖父も父も、ルイスは元王であるウィリアムそっくりだと言っていた。
(…でも、少々問題があるわね)
ルイスや王はともかく、アメリアが悪く言われるのは我慢ならない。
その日以降、エリザは得体のしれない取り巻きを解散させて近寄らせず、クロエに直接会って会話をする事にしたのだった。
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