第3話 赤子
(はぁ〜…帰りたい…)
結婚式から1年後、王妃教育漬けの毎日を送っていたアメリアは心の中で愚痴をこぼしていた。
一度部屋でため息をついたら、ダイアナが咎めてきたからだ。
隙のないメイドはまるで監視するようにアメリアにつき、そのくせ雑な世話をしては部屋から消えていた。
ドレス選びのセンスは非常によくないし、アメリアに対して説教をする様はまるで自分のほうが立場が上だと言わんばかり。
他の若いメイドもたまに見かけるが、ダイアナを恐れて必要最低限のことをすると去って行く。
誰もが哀れみの目を一瞬向けてくるので、一体王宮はどうなっているのだ、と思ったが。
(全くわからないのよねぇ)
騎士団長とは何かの式典の折に護衛として会えるが、ダイアナに「王妃なのだから他の男と話すな」と私語は禁じられている。副団長である父とは、接点をなくされているのかまるで会えていない。
母にも弟にも会えていないので、持ち前の根性が音を上げそうだった。
父が「ダンジョンより辛い」と言うのもよくわかった。まるで終わりが見えないのだ。
(イザベルにも会えない…)
彼女は公爵家令嬢だから家格的には王妃と会えるのだが、陛下へ婚約破棄を突きつけたのがまずいのか、面会は許可されない。
また、手紙を出しても返事が来なかった。
(届かないのか、握りつぶされているのか…)
そのどちらかも分からない。
ダイアナに尋ねても「見ておりません」としか言わない。
(ああもう、情報が欲しい!自分で動きたい!!)
正直に言えば自分は脳筋だ。だから父も騎士団長も「逆らうな」と言ったのだろう。
彼らも文官ではないから、情報に乏しい。
敢えてそんな人選をしたのかと、宰相に訊いてみたかった。
(でも…一つだけ、情報が入ったわねぇ)
まるで檻の中にいる自分に聞かせるためなのか、勉強のため書庫へ向かって歩いている際に見える範囲内でコソコソと若いメイドが掃除をしながら話をしているのを聞いたのだ。
(陛下が、女性を囲っているって…)
王族の居住区には居なさそうなので、王宮内の離れにでもいるのだろう。
ウィリアム王はその女性に夢中で通い詰め、自分の方には義務的に会うだけ。
(だから…イザベルは断ったのね)
有能な彼女なら確実な証拠を掴むだろう。それを突きつけて婚約を破棄したに違いない。
まさか、親友の自分にお鉢が回ってくるとは思ってもいなかっただろうが。
アメリアは応接間のソファに座りながら思う。
(まぁ、別に好きでもない人との子供はいらないし…)
子供は養子でもいい。
ウィリアム王には、アルフレッドという非常に有能な弟がいる。
(アルフレッド様が結婚して、子供ができれば…そちらを王太子にすればいい)
そんな事を呑気に考えていたらば、後日、ウィリアム王が赤子を連れてきた。
「こ、この赤子は…?」
「余の子だ。貴族として…王族として厳格に育てよ」
必要なものはダイアナに言えば用意してもらえる、と言葉短く伝えてウィリアムは退室してしまった。
赤子が泣き出したので誰の子供かと考える暇もなく。
「ええ…?王妃教育が一段落したと思ったら、次は子育て???」
年の離れた弟の面倒を見た事はあるが、たかだか5歳差で自分も子供だったから、おままごとのような育児しかしたことがない。
慌てて育児に関する本と赤子に必要なものを揃えてもらう事にした。
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