お腹をチクチク
手術から2日目の朝は、前日にベッドから降りられなかったので、再び寝たままで始まった。
しかしさすがに2日寝ていれば飽きるし、痛みも取れて寝ているのが逆に辛くなってくる。じっとしていると腰が痛いのだ。
そんなわけで、看護師さんに頼んで、ブルーレイプレイヤーとスマホを移動してもらった。上半身を起こせば見られる位置に置き、私はようやく暇から解放された。
そんな午前中の出来事である。
この日は「ドレーン」と呼ばれるものをお腹から抜く作業があった。
ドレーンというのは、手術後のお腹の中の様子をある程度確かめるために、お腹に通しておく細い管だ。このドレーンの先が小さなパックに繋がっていて、出血の量や色などで様子が分かるらしい。
B先生や看護師さんの口ぶりからして、特に問題はなかったようで、この日に抜くことになった。
完全に仰向けで抜かれたので、私は詳細を見ていないが、ドレーンが動かないように止めている何かを外すと、ゆっくりすーっとお腹から抜いていった。ここまでは特に問題はなかったらしい。
しかし管が抜けたと思った直後、その穴のあった部分が急速に熱を持ち始めた。
何事かと思ったら、結構な勢いで出血し始めたのだ。
B先生はすぐにガーゼを当ててそこを圧迫した。だいたい血が出るときは、押さえると止まるものだ。しかしこの時は、ガーゼがどんどん血を吸うばかりなのが私にも分かった。
案の定、ガーゼを外しても血が溢れてくる。
これはまずい、どうやったら止まるんだろう……と呆然としかけたその時、B先生はさっと立ち上がった。
「ちょっとここ、縫いましょう!」
そう言うと、傍にいた看護師さんに必要な道具類を指示し、自分は傷口をぎゅっと摘まんだ。
えっと、今何て言いました?
と、状況に付いていけない私の頭を置き去りに、二人は素早く傷口の処置を始めた。
急いで準備を整えた看護師さんが戻ってくると、まず両手に消毒済みの手袋をはめ、傷口を消毒。痛くないように傷の両側から麻酔を打ち、私が何を言う暇もなく専用の器具で傷を縫い、結んでパッチン。
あまりの仕事の早さと、直前まで寝ていて頭がぼーっとしていなかったら、軽くパニックになっていたかも知れない。なんせ起きたままお腹をチクチク縫われたのだ。
しかし出血は見事に止まった。
その後に止血のための点滴も打たれ、それ以上血が出ることはなく、無事に傷はふさがって今に至る。
この日の午後には立って歩くこともできるようになり、私は体に装着されている全てのものから解放された。
しかしこの日の記憶は、この朝の驚きの一件だけに塗りつぶされている。もちろん驚きだけではない、B先生の医者としての頼もしさとか、優しさとか、そういう部分にもだ。
今もあの時のB先生の仕事の早さ、そして去り際に看護師さんにかけた「ありがとう」という言葉が印象に残っている。
本当にいい仕事をする人というのは、そういう人なのだ、という気がしている。
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