目覚めてみれば
ふっと目を開けた時、傍には看護師さんが二人いた。
白い天井の比較的広い部屋で、少なくとも手術室からはもう移動している様子だ。
以前は手術が済むと叩き起こすように起こされていたので(麻酔から覚めないと死んでしまう事もあるらしくて、文字通り頬を叩いて起こされていたのだ)、この普通の目覚めのような手術明けは初めてだった。
以前は他の患者さんと一緒に、カーテン一枚で区切っていた回復室も、今回はほぼ個室だった。しばらくしたら病室に戻された以前と違い、一晩そこで過ごすと言われて不安だったが、これに気付いて安心した。
が、体の方はと言えばもう、あちこちがめちゃくちゃに痛いし気持ち悪かった。
まず両肩と首が、折れそうなくらい痛い。実際にどこか折れているのかと思ったくらい痛い。
おまけに麻酔から覚めると一気に寒さが押し寄せてきて、ガチガチガチガチとずっと歯の根が合わない。看護師さんが色々と話しかけてくれるのだが、返事もし辛いくらいだ。冷蔵庫に入れっぱなしのバナナはこんな気分かも知れない。
温風を通す布団のようなもので温めてくれるのだが、それでもなかなか暖かくはならなかった。具体的な時間は分からないのだが、20分近くはガタガタしていた気がする。
それでようやく暖かくなったと思ったら、今度は喉の奥からせり上がるものがあった。ナースコールを押したのも間に合わず、首を横に向けて吐いてしまった。
こんな事になるのは本当に初めてだ。手術が終わったばかりなのに、自分は死にかけてるんじゃないかと一瞬思った。
しかし一番びっくりしたのは、その処置をしてくれた看護師さんの言葉だ。
「もうそろそろ消灯なので、電気は消しますね」
と言ったのだ。
B病院の消灯時間は午後9時である。手術が始まったのが午後4時過ぎだったので、はや5時間も経っていたわけだ。
えっ、と思った。
麻酔で頭がぼんやりしていなければ、「5時間も手術してたんですか!?」と跳ね起きた気がする。過去の手術では、長い時でも1時間半くらいだったからだ。
残念ながら頭はぼんやり、吐き気と痛みでそこれどころではなく、これについては翌日に聞かされた。
私の手術にかかったのは4時間、それから私が目覚めて落ち着くまでが1時間。執刀してくれたB先生もさぞかし大変だっただろうし、面会まで5時間も待っていた夫と母も待ちくたびれたことだろう。
吐くほどしんどいのもそりゃ当たり前だ、と合点がいった。当の私も疲れ果てていたのだ。
面会に来てくれた夫と母は、喋るのも辛い私の様子を見て、「もう大丈夫だからね」と声をかけてくれた。そして制限時間である5分を待たずに、「しんどいみたいだから帰るね」と言って退室していった。
本当に初めてのことだらけの入院に手術だ。
しかも「初めての体験」は、これでもまだ終わりではなかった。
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