手術内容、再度決定

 B先生の話が終わったあと、食事を挟んで夫と母から電話が掛かって来た。

 二人とも、私が悩んでいるであろうことを心配しつつ、一様に「私が決めるのが一番だから」と言った。

 実は電話をする前から、こういう答えになる事は予想済みだった。


 母は昔から私自身の事は私に決めさせる人で、特に大事な決定では口を挟まない。それは父も同じで、進路で悩んでいた時も「私の本当に勉強したいところに」と言っていたし、A先生から話のあった手術の方法についても同じだった。


 夫もそれは同じで、出会った時から気が合ったのは、これが大きかったように思う。

 夫には夫の意志があるし、それは時々見え隠れする。けれど私の事に関しては、基本的に私のやりたいようにさせてくれるし、私の意志を捻じ曲げるようなことは決してしない人だ。


 だからこそ、結局は自分で決める必要があった。

 後悔しないためにどんな選択をするか、よく考えなければならない。


 けれどB先生の話から、私の心は既に臓器を残す方へ傾いていた。

 A先生は簡単に処方できると言った薬なのだが、実は私もそれに近いものを使った事があるのだ。そしてその時、肝臓に影響が出てしまい、全身がだるくなり、すぐに飲むのを止めるように言われた経緯がある。


 B先生によると、A先生の言う薬はそれと同じ症状が出る可能性が高いそうだ。では飲むのを止めればいいかと言えば、今回はそうもいかない。失った臓器を補わなければ、体の機能にあちこち支障が出てしまうからだ。

 しかしそうなると、肝臓を壊しながら、つまり体のだるさや不調を抱えながら、薬を飲み続けるという状況に陥る可能性がある、という話だったのだ。


 一生体を壊しながら、しんどい思いをしながら生きていくデメリットと、起きるかどうかも分からない再発のデメリット。秤にかければ、前者の方が大きいのは目に見えていた。

 私は電話をくれた二人にその事を伝えて、「無事な臓器は残す」という選択をすると話した。

 二人も賛成してくれて、翌日の朝の診察には、その事をB先生に伝えた。


 心なしか、B先生もほっとしたように頷いてくれた。

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