もう一つの食事会

 2月の2週目、入院するほぼ直前の頃に、2回目の食事会をした。

 今度は親族ではなく、友人たちと一緒に過ごすささやかな席だ。


 私の友人たちは、みんな県外の人だった。地元での友人だった人も、他県に出ていて疎遠になっていた。なので久しぶりの再会が何より嬉しかった。


 しかしみんな初対面だったので、最初は私もみんなも、何を話していいのか分からなかった。接点は私だけの人たちなので、みんな緊張していたし、遠慮し合ってもいた。

 それでもぽつぽつと、今どうしているかとか、家族は元気かとか、そんな話をしているうちにお互い打ち解けてくれたらしい。

 私も「馴れ初めはどんな感じだったの?」と聞かれて、実はネットゲームで知り合った人なんだと話したら、「今時だねぇ」と驚きつつも面白がってくれた。


 一方で夫の友人たちは、全員地元の人だった。ごく最近まで付き合いがあったらしく、最初から賑やかに話をしていた。

 そのうちの一人が幹事をしてくれて、お店を決めたり、場が静かになると話題を出してくれたり、帰りにはお土産をくれたりと、あれこれと気を配ってくれていた。

 私と夫はどちらも話し上手ではないので、場が冷えた瞬間もあってかなりヒヤヒヤしたけれど、この人がいてくれて本当に助かった。


 しかもこのお店の食事は、かなり美味しかった。

 正直に言うと、喋るより食べる時間の方が長かった気がする。魚メインの和食のコース料理だったのが、出てくる料理がどれも美味しくて、ついつい食べるのに夢中になってしまったのだ。


 量もかなりあったので、私や友人たちにはちょっとお腹にきついくらいあった。

 もう食べられないかも、と言った後に丼や甘味が出てくるくらいの量で、元々お腹がパンパンの私は、文字通りお腹がはち切れそうだった。

 それでも最後まで食べられたのは、懐かしい友人たちの顔を見られた嬉しさと、この時間をめいっぱい楽しみたいという思いからだった。


 なにしろ週が明けたら入院なのだ。

 大事になる事は滅多に無いと分かっていても、やはり手術を受けるというのは、とても怖いし、勇気が要る事だった。

 この日の食事会は、そういう意味でもとても元気を貰える、ありがたいものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る