不安な気持ちと相談

 彼氏と付き合い始めたのは、2022年の5月だった。

 それまでネット上での付き合いだったのが、初めて実際に会ってみたら、お互いに一目惚れしていた。

 彼氏とは趣味嗜好も似ているし、価値観も近い。繊細で物静かだけれど、愛情ははっきり示してくれる人だ。少し一緒に過ごしただけで「長い付き合いになる」と思った。


 足並みが揃っていたぶん、早くから結婚に向けて動いていたので、11月に病気が発覚した時には両家の顔合わせまで済んでいた。

 それだけに、病気の事は伝えるのが少し不安だった。


 2度目の再発となる今回の病気は、おそらく異常を起こす臓器を全て取る、という手術になると思っていた。残すことも考えられるけれど、たぶん難しいんじゃないか、という話もA病院で聞いていたし、何より残しておけばまた再発しかねない。

 仮に残すという選択肢をもらっても、私は全て取る方を選ぶつもりだった。


 しかしそれは、手術が終わった後にも彼氏や家族に負担を掛ける、という選択でもあった。

 悪くなっているといっても人間の内臓なのだ。受け持っている役割はそれぞれにあるので、当然なくなれば体調を崩してしまう。

 更に言えば、今後の人生を考えるのに関わって来る臓器でもあるので、相談なしに決められない事でもあった。


 元々、心療内科に何年もかかっている身で、それに伴う心配や負担もかけていた。この上そんな負担を増やすとなると、結婚も断られる可能性がないか、と気になっていた。

 彼氏がいいと言ってくれても、あちらのご両親は何か言わないだろうか、とも思っていた。


 そんな不安を一言で拭ってくれたのも、やはり彼氏だった。この時はもう、婚約者と呼ぶべきかも知れない。

 彼は言い淀みながら説明を終えた私を、優しく抱きしめてくれた。

 これで別れる事になるとか、そんな心配はしなくていいよ、不安だったでしょ、と。

 そして、

「むしろそういう大変な時こそ、自分が側にいなきゃいけないと思うから」

と、真剣な顔で私の目を見て言ってくれた。


 彼も何とも思わなかったわけではないと思う。けれど彼もご両親も、私の健康が第一だから、と言ってむしろ心配してくれた。

 結婚を決めたのがこの人で良かった、と私は心底嬉しかった。

 これからまた手術を受けねばならない、ということ自体への不安もあったものの、体を治す事に集中していいのだ、と思うとほっと安心した。

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