大文字伝子が行く110

クライングフリーマン

大文字伝子が行く110

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

 金森和子1等空曹・・・空自からのEITO出向。

 早乙女愛警部補・・・警視庁白バイ隊からのEITO出向。

 大町恵美子1等陸曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ1等陸曹・・・陸自からのEITO出向。

 馬越友理奈2等空曹・・・空自からのEITO出向。

 安藤詩3等海曹・・・海自からのEITO出向。

 浜田なお3等空曹・・・空自からのEITO出向。

 日向さやか1等陸佐・・・陸自からのEITO出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。

 稲森花純1等海曹・・・海自からの出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からのEITO出向。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。

 久保田管理官・・・EITO前指揮官。あつこと結婚した久保田警部補の叔父。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。


 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==


 午後1時。EITO秘密基地。

 市橋総理は、マルチディスプレイで麻生島副総理と話していた。

 「とにかく、総理がご無事で何よりです。」「あなたこそ、大丈夫なの?怪我は?」

 「忍者のお陰で助かりました。忍者はEITOの方ではないんですか?」麻生島の言葉に、聞いたことがありません。理事官が用意されたのですか?」と、マルチディスプレイの端に映っている理事官に伝子は尋ねた。

 「いや。知らないな。そんな戦力があれば助かるがねえ。しかし、高遠君は予知能力がるとしか思えない作戦を立てたので、驚愕したよ。」と、理事官は感心した。

アラームが鳴った。マルチディスプレイに高遠が映った。

 「伝子。理事官。総理。たった今、テラーサンタから電話がありました。明日午後1時。。富士山の『上敷村』にエマージェンシーガールズ全員で来い、と。」

「神式村と言えば、コーンとかいう新興宗教の拠点だったところじゃないか。果たし状かね?」と、理事官は言った。

 「やはり、最終決戦を望んでいるのですね。」と、総理は言った。

 翌日正午。富士山。上敷村。

 エマージェンシーガールズがオスプレイから降りて、歩いて来た。

 一人の男が待っていた。

 「ご苦労さん。1時って言った筈だが、誰も時計を持って無いのかな?ウチはまだ準備中だが。」

 「どこにも準備中の札はかかっていなかったぞ。お前がテラーサンタの派遣した軍団のリーダーか。」

 「そういうお前はエマージェンシーガールズの行動隊長、いや、大文字伝子か。いいプロポーションしているな。90,60、90のEカップか。」

 「セクハラの罪が加わったな。日本人は、時間に几帳面なことは知ってるな。遅刻しない為には、早めに出発、早めに到着がセオリーなんだよ。」

 「成程。暫くすれば、ウチの連中もやってくるだろう。待てるかな?」

 「待てるかな?待って下さい、だろう。先に到着したからといって奇襲攻撃はしない。フェアがモットーなんだ。」

 「夫婦揃って、変わってるな。今回は銃や機関銃や爆弾は使わない。水浸しはもうコリゴリだ。棒やヌンチャクなら文句はないだろう。」

 「いいだろう。こちらは、ヌンチャクや三節棍、バトルスティックで闘わせて貰おう。」

 話し合いをしている内に、テラーサンタ側の集団がやって来た。ざっと200人くらいだ。

 「お前ら、すぐに手を出すな。俺がタイムキーパーをやってやる。準備運動をやっておけ。なあに。そいつらはお前らより圧倒的に少ない。すぐ終わるさ。」

 男の手下たちは、納得したのか、武器の点検をしたり雑談を始めたりした。

 エマージェンシーガールズも武器の点検をした。10分が経った。

 午後1時。

 男は右手を挙げ、「はじめー!!」と掛け声をかけた。

 いつもと要領は違うが、エマージェンシーガールズは、伝子以外はヌンチャクやバトルスティックで闘い、伝子は三節棍を使って闘った。また、投げ技、絞め技で敵を落す者もいた。

 バトルスティックとは、チタン製の棒で伸縮出来る、接近戦用のEITOの武器である。

 1時間20分が経過した。伝子は、男が座っている切り株の隣の切り株に座った。

 「人数が少なくないか?」と、伝子は男に尋ねた。

 「面白い。よく分かったな。500人注文したが、200人位とはな。もう組織から見下されたんだ。総理を誘拐していないのに誘拐劇をし、偽の挑戦状を用意して、こちらが全力で拠点攻撃したら、全力で交わされた。高遠は全部予測したのか?」「いや、6割が的中しただけだ。お前の言う通り、火薬は水に弱いと学は主張した。雨は上がってしまったから、人工的なモノを用意した。」

 「惨敗だ。闘争だけじゃない。全てにおいて、お前達が勝っていた。実は、俺はガンなんだ。だから、決戦を早めた。それに・・。」

 言いかけた男の首に吹き矢ボウガンの吹き矢が当たった。

 ホバーバイクで井関が飛んできた。ホバーバイクとは、民間開発の『空飛ぶバイク』をEITO用に改造したバイクである。空中戦の他、短距離移動も出来る。普段はオスプレイに格納されている。

 飯星が走って来て、男を介抱しようとした。

 男は言った。「こうなる予定だった。予定しなくても、こうなった。血清か。効かないよ、前より強力だから。楽しかったよ、大文字。これを・・・頼む。」

男は息絶えた。「馬鹿野郎!名前くらい言えよ!」と言いながら、伝子は渡された紙片を見た。

 伝子は、ガラケーを出した。このガラケーは追跡システムも入っているが、傍受されにくい電波通信も出来る。

 「管理官。お願いがあります。」

 電話を終えると、久保田警部補が警官隊を率いて、やって来た。手下は全員逮捕連行された。久保田警部補は、亡くなったボスに手を合わせた。

 午後3時。都内のある病院。

 伝子から連絡を受けた久保田管理官は、警官隊を連れてやって来た。

 「廃墟だな。でも、電気は通っている。みんな、手分けして探せ。病棟だけでいい。」

 30分後。発見された病室に行くと、一人の老女が寝ていた。

 生命維持装置が繋がれている。側のテーブルには、訪問看護師のノートがあった。

 「たった一人の患者の為の病院か。しかも、常駐する医師も看護師もいない。ん?何か、この枕変だな。」

 「管理官。救急車がこちらに向かっています。100メートル先の消防署からです。」

 「了解。救急隊員を各所に散らばり、誘導してくれ。鑑識にも連絡をしろ。」

 午後4時半。本庄病院のICU。

 伝子達がやってくると、池上医師がいた。

 「この人はね、大文字さん。私の恩師なの。紅林貴子先生といって、感染症の権威なの。久保田管理官が見付けた日記に全ての真実が書かれていたわ。先生は那珂国に渡り、ウイルスの万能解毒剤を研究していた筈だったけど、那珂国政府に利用され、ウイルスそのものを開発していた。そのウイルスは、ある民族だけに感染し発症することを目標にしていた。それがバカールウイルス。そう、コロニーの原型よ。そして、その民族とは日本人。実験は失敗し、どの民族にも感染し発症する恐ろしいモノになったわ。先生は、被験者第一号、いえ、犠牲者第一号となった。この日記を書いていたのはビル・チャンという男。彼は、密かに彼女を連れて日本に渡った。そして、各地でウイルスをばら撒いた。便宜上、養子縁組していたビルは、世話をしている内に、親子の情が沸いた。コロニーが収束した頃、那珂国に連れ帰る積もりだった。でも、マフィアの組織ダーク・レインボーは、彼を組織の枝、ブランチとして利用するようになった。」

 池上医師の言う言葉に耳を傾けていた伝子は、「では、紅林先生はテラーサンタじゃないんですね。」と尋ねた。

 「そう。彼女の声質を記録させたAIに、ビルの話す言葉を吹き替えさせていたのよ。先生が自分の意思で話したんじゃないの。先生は記憶を失ったまま、寝たきりだったのよ。テラーサンタはビル自身で、彼女を生かせておく為には組織に逆らえなかった。」

 「全てが納得出来ました。ビルの態度があまりにも投げやりだった訳が。私たちに敗北すれば、義理の母親を救うことは出来ないから、あの場所を教えたんだわ。」

紅林は起きた。薄らと目を開けたのだ。

 「あなたは・・・池上?私は、どうしたのかしら?」

 「紅林先生・・・お久しぶりです。あなたは、マフィアに利用されて・・・。」

 同席していた飯星が、すぐにコールして、本庄副院長と看護師がやってきた。

 「池上・・・少し眠っていいかしら?」

 そう言うと、紅林貴子は眠るように息を引き取った。

 廊下を出ると、高遠が伝子を待っていた。肩を落として、伝子はその場に座り込んだ。

 「終ったよ。学。」

 池上医師は出てきて言った。「ありがとう、大文字さん、高遠君。お陰で先生と再会出来たわ。たった5分だけどね。彰の時は0分だったから、まだマシね。」

 「我々も引き上げよう。」久保田管理官が静かに言った。

 午後5時半。依田の車。

 「先輩、可愛い寝顔だな。」依田の言葉に、「だから惚れたんだよ、ヨーダ。」と、後部座席から高遠が言った。

 「結局、悪い奴いい奴で簡単に線は引けない、ってことだろ、高遠。あれ?寝てるの?俺って、執事か?お抱え運転手か?」

 依田の声が狭い車内にこだました。

 ―完―

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