レビュアーズ ~棚に一冊ずつしか置いていない本屋。レビュアーがオススメする本だけ揃えています~

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

クラスイチのヤンキーが、ビジネス書を買いに来た

 私は、寂れた本屋で店番をしている。

 近くにコンビニができたから、立ち読み客は向こうへ行ってしまった。

 イートインもあるから、しゃべれるし、くつろげる。


 本屋でそれは難しい。

 カフェと併設している本屋なら、違うんだろうけど。


 だが、ここは普通の本屋とは違った風味があって……。

 

 自動ドアが開く。

 

「いらっしゃ……」

 

 ど金髪のギャルに、私は度肝を抜かれた。


 あの子、クラスで一番のヤンキーではないか。

 

 しかし、彼女の表情は真剣そのもの。


 決して、万引き客ではない。

 

「なあ新山にいやま


 相手も、私のことを知っているらしい。


「どうしたの、松井まついさん?」 


「新NISAの本ってない?」


ああ、2024年から始まる新制度についてか。 


「松井さん、投資に興味があるの?」

 

「バイト代、増やせたらなって。あたし高校卒業しても、進学しないし。ここなら、確実にいい本が手に入るって、ダチから聞いてさぁ」

 

「ごめんなさい。出ちゃった」


 私が頭を下げると、松井さんはため息をつく。

 

「ビジネス系の本なら、この人のレビュアーがいいんじゃないかな」

 

 クラス一のヤンキーが、ビジネス書を買いに来るとは。

 

「各本棚に、一冊しかないんだね?」


「そうなの。ウチは本棚が狭い代わりに、珠玉の一冊しか置かない。レビューが、一番の商品なの」


 私が勧めていた本には、便箋にレビューが書かれている。

 借金苦だった自分がどれだけこの本に救われたか、びっしりと。


「今は通販も電子書籍もあるけど、レビューがいいかげんじゃん。ウチは、信頼できる人の勧める本しか置かないんだ」

 

「ああ。アンテナショップってやつ?」


 ここには日本全国のあらゆるレビュアーが命を掛けて勧める本しか置いていない。

 だから信頼度はバッチリ。 

  

「こんなビジネス思いつくとか、新山って頭いいのな。ありがと。これあんたのおすすめだろ? 買うわ」


「えっ」

 

「だって、これ新山の字じゃん」


 私は、顔が熱くなった。

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