無理ヤリ!『悲しみの人形編』


「ここは?」

目が覚めると石壁の、全体が暗んだ場所に居た。それも足には重りまで付いている。

『タダ事ではないな』

現状を理解するためのヒントを部屋を見渡して探すと部屋に空く格子窓を見つけた。そこからは光が入り、今が昼時だとわかる。となれば人の行き来も多く、叫べば誰かが気付くかもしれない。

「おーい!誰か居ないか?」

「誰もいないさ。ここは山奥田からね」

突如としてドアが開くと、そこには私と同年代程の女が立っていた。

「イト!あぁ良かった」

その女は『イト』他でもない、私の生涯の友である。幼い時から親交があり、命を落とすことも少なくないこの界隈で今まで互いに切磋琢磨し生き残ってきた戦友とも言えよう。


「すまない、どうやら何者かに捕まったようでな。その辺に鍵は無かったか?」

私が足の重りを見せながらそう言うと

「いや、探したけど無かったよ」

とシンは軽く首を横に振った。

「そうか、ならば仕方ない。イト、この重りを叩き切ってくれ」

私は足を開いて間にある鎖部分をイトに差し出す。イトはその高速な太刀筋であらゆるものを気持ちよく切り捨てる、その美技には友として誇りを感じざるを得ない程だ。

「お前なら容易いだろう、さぁ。スパッと頼む」

「あぁ、でもすまない。今日は剣を持って無いんだ」

「何?」

驚いた。以前は『剣が無くては出歩けない』と言っていたのに、私を助けに来てくれたんであろうこの状況において剣が無い?

「じゃあ抱えてくれ。それで一旦町まで出よう」

「あぁ、あぁ。そうだな」

いつもは軽快でよく回るその舌に今日はキレが無い。ここに来るまでに相当疲れたのか、それとも何か別の要因があるのか。

そう不思議に思う私にイトはこつこつと近寄ってくる。そして私のことを抱え上げて連れ出す、かと思いきやシンは私の頬にそっと手を触れさせた。

「イト?」

「友よ、私は」

イトはふるふると手を揺らす。そしてその手をそのまま背中に回してそっと私を抱きしめた。

「本当にすまない」


そう耳元で呟かれたその瞬間、私は全身の力が抜ける。いや、抜けるどころじゃない。感覚はあるが糸が切れた操り人形のように全身のパーツが動かなくなる。

『な、なんだ!?』

「傀儡化、私の力だ」

イトは脱力しきった私の顔を舌でジトッと舐めて愛らしそうに見つめる。

「あぁ、もう戻れない」

『イト!?何だ、何かの冗談か!?』

そうは思いつつも動かない私の体が決して冗談などではないことを示す。何よりイトと長年交流していた私にとって目を見ればこれが本気かどうかなど火を見るより明らかだった。

「声は聞こえてるんだろう、友よ。君にはしっかりと説明しなければならないね」

イトはそう言いながら私の服帯をゆっくりと外していく。

「結論から言うとね、私は君のことが大好きだったんだよ。本当に、本当に」

『え?』

上着を脱がし、折りたたんで地面に置く。抵抗しようと腕に信号を送るが腕は一切の反応を見せず、ただ地面に尽き果てていた。

「毎回君と呑んで、酔い潰れた君を見るたびに『あぁ、このまま君が倒れていれば好き放題できるのに』と、そう思っていた」

イトは私の胸に耳を当てて目を瞑る。

「そしたら思った通りになった」

『馬鹿な』

だが今この状況が、そんな戯言に説得力を持たせて私の脳をめぐる。本当にそんなことが、本当にイトは私のことが


「だが実際、君を人形にするかは相当に迷った」

胸に顔を置いたままイトはえぐるように私を見上げた。

「私は君の『親友』という地位に満足していたからね。人形にまでする必要あるか、と『君があんな事言うまで』はそう思っていた」

息を荒くして私の腹に指を食い込ませながらギュっと顔を押し付ける。

「前に呑んだ時、言っていたね。『隣町のサヤという子が可愛い、私に良く懐いて。親友みたいなものだ』と」

『!』

「『親友』というのは私にとってはとても大事な、唯一無二の地位だった。だが君にとっては違ったらしい、『親友』という地位は軽くて、誰にでも簡単にあげられるような。有象無象のもの」

『イト!それは違うぞ』

「岩が頭にぶつかったような最悪の気分だったね。だが私は早々に話を変えて、その場は平静を装った。君に気持ちを知られたくなかった、だって知られたら『親友』じゃなくなってしまう。でもその『親友』って地位は君のとっては。私はね、本当に苦しかったんだよ!」

興奮しきった口で、きっと今までにため込んでいたことを洗いざらい話す。そして全てを出し切ると荒げた呼吸を落ち着けるように深呼吸をした。

「だからそれ以上の地位を望んだ、そして今に至るってワケだ」

『イト!お前は勘違いをしている』

サヤというのは猫だ、だから親友どころか人間ですらない。私にとっても『親友』というのは特別な存在だ。そしてそれに該当するのはただ一人、お前だけなんだ。

だがそれを伝えようとしても口はただ半開きのまま動かない。どれだけ言葉を出そうとしても喉はネズミの足音すら出さない。


『イト!』

「友よ、もうあと戻りは出来ない」

イトは自分の服を脱いでその辺に投げ捨てると、私の腰に手を回して力いっぱいに抱きしめた。

「私のことは許さなくていい、恨んでくれていい。君がどう思おうと私は君の持ち主、『主人』なんだから」

肩を舐めたり甘く噛んだりしながら、イトは微笑む。

『あぁ、何故』

そのまま私を地面に横たわらせて唇を重ねる。かつての友は、すっかりと獣になっていた。

『くっ、うぅ』

熱く、深く。長い間、キスをした。時間が経つたびに、彼女との思い出が1つ1つぼやけていった。

「愛しているよ、本当に愛してる」

耳元でそう呟かれて頭をなでられても、体は言うことを聞かない。いや、長年の親友に想いを告げられて、挙句に好き放題されて、私にはもう『ここから逃げる』という気力すら湧かなかった。

『もうどうにでもなれ』

そう思ったその時、イトはついに私の股に指をそえる。


「可愛いなぁ。ほら、ご主人様のお帰りだぞ」

イトは指で入り口をぐりぐりさせて、そして

『うっ、くぅッ』

ゆっくりと私のナカへと挿れた。

「あぁ凄い。君が私の指をこんなにもてなしてくれるなんて、『親友』時代ならありえないよ』

愛情がこみ上げて、たまらずイトは目を強く瞑る。

「やっぱり。君を人形にして良かった」

その目からは糸のような涙がこぼれた。


その後、結局私の体が動くことは無かった。だが今となってはどうでもいい。

私はキョウも『ゴシュジンサマ』の性のはけ口としてセイいっぱい頑張っている。

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