僕が殺し屋になった日⑩
ケイシーは銃をアレクに向けながら器用に片手で煙草を咥え火をつけた。 悠長な所作に焦りばかりが増していく。
「どうして俺がお前の父だと偽っていたのか? それはアレクを殺し屋にしたくなかったからだ」
「それはアグネスの理由じゃ」
「アグネスはブラッドと同様俺も愛した女だ。 殺し屋の息子だけど普通の子として育てたい。 アグネスからそう事情を聞いた上でお前を育てていた」
「ッ・・・」
「まぁアレクは根からの殺し屋だったのか、まだガキだというのに想定外に殺されそうになったけどな」
―――・・・そうだったのか?
―――ケイシーとアグネスは本当に俺に愛情を持って育てていた・・・?
そう思うと身体が震えた。
「そして俺の目的は何なのか。 ブラッドがアレクを引き取り殺し屋をしていると分かったんだ。 だからブラッドとアレクを共に殺そうとした」
「それはどうして・・・」
「俺が生きていると知ったアレクがまた俺を殺しに来ると思ったんだ。 そうなる前に先手を打とうとしただけ。 まぁ当然の話だろう? 危険は排除しておきたいという欲求は俺にもある」
そのようなことは思ったことがなかった。 それ以前にケイシーが生きているだなんて思ってもみなかったのだ。
「どうしてブラッドがアレクを雇ってまだ生きている俺のことを黙っていたのか。 それはさっきブラッドと二人きりの時に聞いておいた。 俺が代わりに答えてやろう」
ケイシーは軽くブラッドを見た。 ブラッドは呻き声はもう出していないが苦しそうにしている。
「どうしてアレクを雇ったのかは分かるだろ? アレクを最初から殺し屋にしたかったからさ。 ブラッドは本物の父親だ。
ずっとアレクを気にかけていて俺の家の周りをうろちょろしていたのには気付いていた」
その言葉にブラッドを見た。
―――そこまでしてボスは・・・。
「アレクが俺たちを殺した後、確かにブラッドは処理をするために俺の家へ来たんだろう。 だけど俺とアグネスは既に意識を取り戻し避難していた。
俺たちが生きていることを言えばアレクの精神コントロールが利かなくなる可能性があった。 だから言わなかった」
「・・・じゃあボスは今までケイシーたちの居場所をずっと捜していたんですね」
「あぁ。 だから俺が今住んでいる場所を特定できたんだろう」
「・・・」
「最後の答えだ。 今回の依頼がこうなると分かっていたブラッドはどうしてアレクに言わなかったのか。 ブラッド自身が答えてやれよ」
「くッ・・・」
ブラッドは何も答えずにケイシーを睨んでいた。
「仕方ない、憶測だがこれも俺が答えてやろう。 ブラッドは俺が罠を仕掛けているとは思っていなかったんだよな? “やられる前にやれ”精神で先に俺を殺そうとしたが失敗したんだ」
「そんな・・・」
確かにブラッドがあっさり負けるとは思ってもみなかった。
「アレクに言わなかったのは単に不要な感情を抱かせないためだろう」
「うぅッ・・・」
「ボス!! ・・・ッ」
ブラッドが苦しそうに声を上げたためアレクはブラッドのもとへ向かおうとした。 だがそれを遮るようにケイシーはアレクの足元に銃弾を放つ。
「動くな! ちゃんと約束は守らないと駄目じゃないか。 お父さんはお前をそんな子供に育てた覚えはないぞ?」
あえて“お父さん”を強調して言うケイシーに嫌悪感を抱いた。
「交換条件っていう約束だっただろ?」
ブラッドの周りには血が流れているが撃たれた場所は太もものようで、すぐのすぐ命を失う状況ではなかった。
「お前のボスはこのまま放っておけば出血多量で時期に死ぬだろう。 今なら交換で済ませてやることができる」
―――そんなの、答えはもう・・・。
「どうする? このままブラッドを見殺しにするか? それとも娘を大人しく渡すか? お前が選ぶんだ」
その選択肢だとアレクが選ぶ方は既に決まっていた。 ベティの背中に手を置きそっと前へ差し出そうとする。 そこでブラッドが叫んだ。
「コイツの本当の狙いはアレク! お前の命だ!!」
「ッ、ボス・・・」
「俺は大丈夫だからその子を連れて遠くへ逃げろ!!」
「黙れ!!」
「うッ・・・」
ケイシーが再度放った銃弾がブラッドの逆側の太ももを貫いた。
「ボス!!」
これで出血は増え制限時間は更に少なくなってしまった。
「さぁ、アレク。 答えを聞かせろ」
―――・・・ッ、俺が選ぶのは・・・。
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