僕が殺し屋になった日⑨
アレクがブラッドの言葉に反対したことを聞いたケイシーは笑い出した。
「何だよ、アレク。 まさか妹だって聞いて同情したのか?」
「・・・」
「お前、殺し屋に向いていないな。 あの時みたいに感情を爆発させてみろよ」
自分でも思った言葉に何も返せずにいた。
「まぁアレクが俺を殺すのは無理だけどな。 油断していなければ子供に不覚を取るような俺じゃない。 あの時はまさかそんな行動を取るとも思っていなかったからたまたま偶然ああなっただけだ。
ということで、特に気に病むことはないぞ? お前はただの子供なんだから。 だがこれじゃあ埒が明かないな。 どうしたい?」
そう言って懐から取り出した銃をブラッドへ向けた。
「とりあえずコイツを殺すか」
「それもさせない!!」
「はぁ? 駄目だ駄目だ、駄目だって。 何都合のいいことを言ってんだ?」
―――確かにここまで来て何もないだなんて都合が良過ぎる。
―――それを望んでも駄目なことくらい俺だって分かっているさ。
―――なら何を犠牲にする?
―――それはもう・・・。
「・・・撃つなら俺を撃て」
それしか答えはなかった。
「ふん。 じゃあそうするか」
そう言うとケイシーは躊躇うことなく銃をアレクへ向けた。
「アレク、何を言っているんだ!!」
「ボスを守るにはこうすることしかできません!」
「アレクは俺の息子だと言ったよな!? そんな親不孝なんてあってたまるか!!」
「ふッ。 親子喧嘩なんて聞きたくないな」
そう言ってケイシーは引き金にかけた指に力を入れる。 その瞬間アレクとケイシーの間にベティが入った。
「撃たないで!!」
「ベティ!?」
ケイシーは突然の娘の登場に驚きギリギリのところで明後日の方向へ発砲した。 ベティの登場に驚いたのはケイシーだけではない。
「どうして戻ってきたんだ!? 大人しく家へ帰れと言ったのに!!」
「だってアレクお兄ちゃんが辛そうな顔をしていたから!」
「ッ・・・」
―――この子が来てくれたおかげで今助かったのは事実だ。
―――無理に追い返すことはできない。
―――それにこれで一応交換条件を満たすことができる。
「・・・助けてくれてありがとう。 どうしてここが分かったんだ?」
「それは・・・」
「君はもうお父さんのもとへ行くんだ。 さぁ」
ベティの肩を押しケイシーのもとへ行くよう促す。 これでブラッドが解放されるかもしれないと思った。 だがベティはその場に留まって言った。
「お兄ちゃんはどうするの?」
「俺?」
「私の本当のお兄ちゃんなんでしょ?」
「・・・分からない。 何もかもが分からないんだ」
「分からない、って?」
「どうしてケイシーが俺の父親だと偽っていたのか。 どうしてボスが俺を雇ってまだ生きているケイシーのことを黙っていたのか。 ケイシーの目的は何なのか。
そして今回の依頼がこうなると分かっていたボスはどうして俺に何も言わなかったのか。 全てだ」
「・・・」
「俺はもう誰を信じたらいいのか」
―パン。
ベティと話しているうちに乾いた音が響いた。
「・・・ッ!?」
慌てて前を見るとケイシーが持つ銃から硝煙が昇っていてブラッドが呻き声を上げ崩れ落ちていた。
「ボス!!」
アレクはブラッドに近付こうとしたがケイシーがそれを許すはずもない。 向けられた銃口に足を止めてしまう。
「お前の疑問に全て答えてやろう。 もっともあまりのんびりしているとお前の父親は死ぬがな」
ケイシーは冷たい瞳からそう言い放った。
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