僕が殺し屋になった日③
朝食の間、ターゲットの情報に目を向けていたが、視てはいなかった。 殺し屋として何年もやってきたが、自分にも違う人生があったのかとふと考える。 アレクは自分の生い立ちを知らない。
物心ついた時には両親だと思っていた二人と共にいてそれ以前の記憶が全くないのだ。
「アレク、どうしたんだー? 食わないのか?」
食事に手を付けずにいると仲間にそう言われた。
「食わないなら俺が食っちまうぞー」
「アレク。 朝食を終えたらすぐに出発する。 早く済ませてしまえ」
「・・・はい」
仲間の言葉にブラッドが被せてきた。 言われた通り急いで朝食を済ませる。
―――・・・いつも量が多いんだよ。
殺し屋をやっているため皆多くの金を持っている。 だから裕福な生活を送ることができる。 食事はいつも仲間に作ってもらっているが普通に美味しい。
娘が殺される前は料理人だった彼が食事作りを担当してくれているからだ。 食べながら先程思い出していたことを振り返った。
―――どうしてボスは俺を雇ってくれたのか理由が未だに分からない。
―――・・・知りたくても怖くて聞けずにいる。
満腹になっても残すことはなく、拳大のパンを無理矢理ミルクで流し込み早速出発することになった。
「じゃあ、行ってくる」
「お気を付けて!」
仲間二人に見送られながらアジトを離れた。 チラリとブラッドを見る。 ブラッドは前を見据えたままアレクに言った。
「アレク」
「はい?」
「こんな仕事をさせておいてなんだがアレクは将来の夢とかあるのか?」
「・・・え?」
―――どうしてそんなことを聞くんだろう。
―――今までそういう話はしたことがなかったのに。
「確かにアレクには有難い働きをしてもらっている。 だがアレクはまだ若い。 望めば選べる道はいくらでもある。 俺は殺し屋としての人生を終わらせ新たなスタートを切れるようなルートも知っている」
「・・・」
ブラッドは仲間の中で一番年下ということもありアレクを可愛がってくれていた。 幼い時から面倒も見てくれている父親のような存在だった。
「・・・まだ分かりません」
「そうか。 時間はたっぷりある。 アレクが思うように生きなさい」
それには素直に頷くことが難しかった。 それからは互いに話すこともなくターゲットの家へと着いた。 平凡な家だ。 石を積み重ねられた作りで華美でも質素でもない。
周りの家から浮くこともなく、どうしてそんなところに皆殺しを依頼されるようなターゲットが住んでいるのか分からない。
「ここで待っているんだ」
ブラッドはアレクを置いて家の周りをぐるりと回り始めた。 家の中の様子を確認しつつ周りに人がいないかも確認する。 しばらくここで大人しくしているとブラッドが戻ってきた。
「娘を置いて父親は外出中のようだ」
「そうですか」
「俺は父親を探してくる。 アレクは娘を遠くへと連れていけ」
「はい」
「そしていつものように殺しの証明だけを撮って隠蔽するんだ」
「分かりました」
「じゃあ、頼んだからな」
アレクの肩を叩くとブラッドはここから離れていった。 ブラッドの姿が見えなくなるまで見送ると早速とばかりにチャイムを鳴らした。
意外かもしれないがこれが最もターゲットに近付きやすく周りに不審に思われないとアレクは知っている。
―――とっとと終わらせてしまおう。
出てくる前にネックウォーマーをマスク代わりにする。 ターゲットと対面するのは慣れたもので躊躇わなくなった。
「はーい」
しばらくすると中からトタトタと足音が聞こえてきた。 そのまま覗き穴からアレクを確認することもなく簡単にドアを開けてしまう。
「誰ですかー?」
娘は10歳だと聞いていたがとても幼く感じられた。
―――思ったよりも子供だな。
―――ここで喚かれると厄介だ。
「急にお訪ねしてしまってすみません。 道をお伺いしたいのですが」
営業スマイルを見せ安心させる。 尋ねると娘は笑顔を見せて言った。
「そこなら私、分かるよ! 今日はお父さん帰ってくるの遅いって言っていたし、そこまで私が案内してあげる!!」
「本当ですか? 是非お願いします」
心配とは裏腹に駄目元で言うと簡単に外へと連れ出すことができた。
―――中身も子供だったか。
「じゃあ、早速行こう!」
娘は身支度を整えると早速先導して歩き出した。
「これね! お父さんからもらったものなんだ!」
大きな髪飾りを付けて出かけることを喜んでいるのか楽しそうに笑っている。
―――俺はこの子を殺すことになるのか。
―――恨むなら依頼した人間を恨め。
今まで何度も殺してきているアレクにとっては少女の殺しも慣れたことだった。
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