僕が殺し屋になった日②
「皆殺しとかヤベーッ! ターゲット滅茶苦茶恨まれてんじゃん。 何をやった奴なんだ?」
「ターゲットにも依頼人にも関心は持たないのが俺たちの流儀だ。 お前たち二人は先輩だがアレクを見習えよ?」
「そうは言われてもなかなか、なぁ?」
「あぁ。 やっぱり男を殺すのと女を殺すのなら女を殺す方が躊躇っちまうし」
「俺は女を殺す時の方が楽しいけどなッ! くひひ」
「うわ、キモいなお前」
仲間二人の会話を聞き流しアレクは書類に目を通していた。
―――正直、依頼者の動機なんてどうだっていい。
―――ただ殺す、それだけだ。
先輩たちも楽しそうに話をしているのを止め、書類に目を通しブラッドに尋ねた。
「二人家族か?」
「あぁ」
「4人必要?」
「いや。 俺は父親に付くからアレクは娘に付け」
「ボスとアレクだけ? じゃあ俺たちは?」
「お前たち二人は今回留守番だ」
「よっしゃ! ラッキー!!」
ガッツポーズをする先輩たち。 正直、こんなノリがアレクにはうんざりだった。 ただ今は書類が気になりどうでもよかった。
―――・・・どこかいつもと違う依頼書のような気がする。
―――こんなにきっちりと書かれているなんて珍しい。
「金は俺たちにも渡してくれるんだよな?」
「当然だ。 山分けっていうわけにはいかないが、基本給は出すからな」
「ボス、太っ腹ー! アレクは若いのに大変だな」
「別に」
ガハハと笑いながら肩をバンバンと叩かれる。 体格に明らかな差があるため、そんなスキンシップもかなり痛い。
「しかも娘に付くんだろ? 力では大人が厄介だけど子供は精神的にキツいよな」
「俺は子供の方がテンション上がるけどな!」
「もういいわ、お前は!」
そんな感じでまた言い合いが始まった。 アレクは無口でブラッドも必要以上には口を開かないためこの二人だけで場が盛り上がる。
「お前は俺が殺し屋になった理由を知ってんだろ!? 俺は娘と二人暮らしだったのに娘は通り魔に殺されてッ!!」
「分かってる分かってる。 辛かったよなぁ。 通り魔に復讐したいから殺し屋になったんだろ?」
殺し屋になる理由なんて人様々だった。
「無事通り魔を見つけて殺すことができたんだからよかったじゃないか」
「そうだけど、未だに俺は子供を殺すことができねぇ・・・」
「そこはボスも汲み取って子供対象の時は任務から外してくれるだろ」
彼らの会話を流しながら目の前にいるブラッドがアレクに言った。
「何度も言うが殺しに関係性を持たせないため別々に遠くの場所で殺すことになる」
「分かっています。 俺一人で娘を殺しに行けばいいんですね?」
「あぁ。 アレク、いけるか?」
「はい」
力強く頷くとブラッドは満足そうに微笑んだ。 その表情のためにアレクは頑張っているのかもしれない。 アレクは感情を失っているわけではない。
ただ殺し屋として拾われた時からそうするべきだと考えているだけ。 自分を拾ってくれたブラッドを親のように慕っている自分がいる。
これはアレクの両親が実の親ではないと知った直後の話である。 血液型からアレクは両親だと思っていた二人と血が繋がっていないことが分かった。
無我夢中で家を飛び出し、しかし5歳のアレクに行く当てもない。 次第に雨も降り出し体力も尽き家に帰ることになる。 冷静になれば二人と和解できるかもしれないと考えていた。
「アレク、ごめんね。 隠したかったわけじゃなくて」
「うるさいうるさい! 僕に近付くな!!」
だが駄目だった。 二人の顔を見た瞬間、湯沸かし器のように頭に血が上る。 何故そうなるのか自分でも分からず制御できない。
「もうお前たちからの偽物の愛情なんていらねぇ! 気持ち悪いんだよッ!!」
感情を制御しようと思ってもできない。 自分でもよく分からないが、その爆発するような感情のままアレクは暴れてしまう。 家の中にあるものを手あたり次第手に取り大人たちに向かって投げ付けた。
「アレク! 危ないから止めて!!」
母に叫ばれるも止めることはなかった。 以前の怪我をしているはずなのに、雨に降られたはずなのに、痛さも冷たさも何もなくただ我を忘れて暴れた。
次第にうずくまる二人を直接的に狙い初め、その時何を持っていたのかすら今のアレクは憶えていないが殴り続けると二人は動かなくなった。
「・・・え?」
静かになった家でアレクは我に返って自分の両手を見た。
「・・・ッ!!」
真っ赤に染まった両手。 目の前には血まみれになった両親だと思っていた二人の姿がある。
「・・・あああぁぁぁあぁぁぁあッ!!」
血まみれの二人を見て怖くて家から飛び出した。 できるだけ遠くへ行きたい。 だが元々怪我していることもあり上手く走れない。
それでも逃げる気持ちが勝り懸命に走っていると一人の男性とぶつかってしまった。
「ぅ・・・」
衝撃で尻もちをついてしまう。
「大丈夫かい?」
ぶつかった相手は怒ることもせず立ち上がらせてくれた。 返り血を浴びたアレクは間違いなく相手を汚してしまったのにもかかわらず。
「あ!」
咄嗟に血まみれの両手を背中に隠す。 だがそんなことをしても意味はない。 何も言えずにいると男性はアレクを覗き込むようにして言った。
「君、名前は?」
「・・・おじさんは知らない人でしょ? 名前を知りたいなら自分から名乗るべきじゃない?」
そう答えると強気な姿勢を見て男性は微笑んだ。
「俺はブラッドだ。 よかったら俺のところで働かないか?」
「・・・働く? 僕は子供なんだけど」
「君を見れば誰だってそう思うだろう」
「じゃあどうして僕を誘ったの?」
「君にぴったりの仕事があるからだ。 仕事内容は簡単。 人を殺すだけだ」
「ッ・・・」
「欲望と欲望の間に生まれた歪みを壊すのが俺たちの仕事だ」
「・・・どうしてそんな仕事を僕に・・・」
「周りを見てごらん。 幸せな人が憎いと感じる君には簡単だろう?」
辺りを見渡すと幸せな家族が目に入った。 自分は偽りの愛情を受けていたのに彼らは本物の愛情を受けていると思うと確かに憎い。
「大丈夫。 君のご両親は我々が上手く処理をしておくから」
この時にそう声をかけてくれたのが育ての親となるボスだった。
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