少し深く沈む指定席

くすのきさくら

僕が使い続ける理由

 とある山間にある駅には引退した車両を使った古本屋がある。

 以前は車両展示という形だったが。今は古本屋へと役目を変えた。

 どうやら以前は鉄道会社が維持管理をしていたらしいが。今は地域の人が維持管理?に変わったらしく。それと同時に古本屋となったらしい。


 この古本屋は車両1両を使っているが。外観はかなり雨風を受けたからか塗装も剥がれかなりボロボロになっており。車内もお世辞にも綺麗とは言えない。車内の座席にも穴とか破れが普通にある。

 床も長年使われてすり減ったのか。出入口付近の床は色が変わったり。多分昔は広告などが掲示されていたであろうところも枠などが壊れているところが多々ある。

 天井を見れば蛍光管は外されており配管?というのだろうか。むき出しになっている。ちなみにこの車内、電気が来ていないらしく。明るい時間帯しか開いていない。

 そんな車両だが。入口、壁の一部には、かわいらしい文字で本の紹介などが張られており。僕を和ませてくれる。

 もちろん古本屋なので、本は至る所に置かれている。網棚の所。また座席の一部にも本が置かれている。網棚の所はそこそこ高い場所になるが。今も台を使って本を片付けている彼女が居る。危なっかしく見えることもあるが。これがこの場所の日常だ。


 そんな小さな古本屋があるこの駅は、電車の本数が少ないこともあり。利用客はほとんどいない。それもあって駅に人が来るように――という思いで古本屋があるのだが。今のところ利用客は限られている。

 ちなみに僕はその数少ない利用客。高校帰りの夕方から暗くなる閉店時間まで《わざわざ途中のこの駅で電車を降りて》利用している。

 

 でも僕は本が好きというわけではない。だが毎日利用して、閉店時間まで過ごす。いつも同じ座席に座り適当に本を読む。そして時たま本の整理をする彼女を見る。


 そろそろ勇気を出して話しかけてみようかな。


 (了)

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