第51話 俺なに着れば良い?
「
一同に向かってうやうやしく、シーモスが告げた。
うららかな午後のティータイム。おのおのに好みの飲み物を手にして、一同はイリスの部屋に集まっている。
「戴冠式は今週の
「え!? それって……」
驚くイリスに、シーモスは苦笑を浮かべて肩をすくめた。
「はい。タイキ様を『地球』に帰す『儀式』の当日でございますね」
「マジかー! じゃあ、イリスが王様になるとこ見てから帰れる?」
それが、心残りだった。イリスの晴れ姿を見てから帰れるなら、それに越したことは無い。
「はい。戴冠式は日中行われますから。タイキ様も、ぜひ参列なさって下さい」
「うん! 参列、するする! あ、でも、良いのか? 俺、人間だぜ?」
「問題はございませんよ。当日は人間の皆さまも参列なさいますし」
シーモスが何でもないように言うので、泰樹は安堵する。
「やった! 俺、なに着れば良い?」
「服は、いつもの礼服で大丈夫でございますよ。新調している時間はございませんしね」
「わー!! 良かったあ! タイキも戴冠式、見てくれるんだね!」
手を上げて、イリスは素直に喜んでいる。泰樹とイリスは、たがいに顔を見合わせて嬉しそうにハイタッチした。
「タイキ様はイリス様の使用人あつかいといたしましょう。それならイリス様の間近で戴冠式に参列できるでしょう」
「おう! 使用人でも何でもいいぜ! イリスの晴れ姿、見られるんならな!」
「俺とシャルは、どうしたら良い?」
アルダーはカップとソーサーを手にして、ソファの背にもたれかかっている。シャルはその隣で、グラスから飲み物を口に運んでいた。
「シャル様はイリス様の使用人として参列して下さい。アルダー様は護衛としてイリス様のお側に」
「解った」
「解りました、シーモス様」
二人が了解すると、シーモスは珍しくシャルにミルクティーを
シャルが用意をする間に、シーモスは空いていたソファに腰掛ける。
「イリス様のお衣装は城側で用意して下さるそうです。明日は衣装合わせで魔の王様の城に向かわねばなりません。のんびり出来るのは本日までだと思って下さいませ」
「……それにしても、ずいぶん戴冠式を急ぐのだな」
アルダーの一言に、シーモスは小さくうなずいた。
「それは私も不可解に思っております。確かに新たな魔の王様をお迎えすることは500年の悲願だとは思いますが、今更1日、2日遅れたところで誤差の範囲でございましょう」
「なにか、特別な理由があるのか……?」
アルダーは、イリスを案じるように眉を寄せた。シーモスは何かを考え込むように腕を組む。
「それも調べて見なければなりませんね。まずは城の事情に詳しい者をお呼びいたしましょう」
「……で、僕が呼ばれた訳か? シー」
「ええ。貴方は仮にも城勤め。何か事情を知っているでしょう? ディ」
「そのまえに。こほんっ……新たなる魔の王陛下。あなた様のご即位を、心よりお待ちしておりました。おめでとうございます! 『慈愛王』陛下」
早速、屋敷に呼びつけられたイクサウディは、イリスにはにこやかにお祝いの言葉を述べた。それから、不機嫌そうにシーモスをにらみつける。
「……お前、実は友達いないだろ? シー」
「それは貴方もでしょう? ディ。それに友など……数人の本当に良き友がいてくれれば良いのです。ね、イリス様?」
「うーん。そうだねえ。でも、お友だちは、いっぱいいても嬉しいけどね。でも、シーモスとイクサウディくんは仲良しだよねえ」
「どこが、ですか!」
「どこが、です?!」
相変わらず二人とも息ぴったりだと思う。声を揃えて叫ぶシーモスとイクサウディに、泰樹は心中そう思ったが声には出さないでおく。話がややこしくなりそうだからな!
「……それで? 新魔の王陛下の筆頭側仕え様。聞きたいのは戴冠式を急ぐ理由だな?」
「ええ、そうです。キリキリ吐いてくださいまし、筆頭司書様」
シャルのさしだしたお茶をチラリと眺めて、イクサウディは語り出す。
「そりゃ簡単なことだ。魔の王様の城は今魔力が足りない。城はこの『島』の中心で『島』を浮かび上がらせている力の源だ。このまま魔力が不足すれば、『島』を浮かばせることすら出来なくなる。魔の王陛下が即位されれば、幻魔が増える。その幻魔の魔人もな。魔の者が増えれば魔力を供給する者も増えると言うわけだ」
「……『冷淡公』はそれを知っていて?」
シーモスの問いかけに、イクサウディは首を振った。
「わからん。だが、『冷淡公』の『耳』はどこにでもあるという噂だからな」
チラリチラリとイクサウディは、アルダーの姿を盗み見ながらお茶を口にする。
「……あ、の、そう言えば、アルダー殿は当然、陛下の護衛とか、側仕えとして城にいらっしゃる、んだよな……?」
「うん。アルダーくんには護衛をやってもらおうかなって。アルダーくんは人間だったころ、元々そう言うお仕事してたんでしょう?」
イリスの問いに、アルダーは丁重に一礼する。
「ああ。そうだ。イリス……イリス陛下がそれを望まれるなら。俺は全霊をもってお仕えいたします」
「……ふふっそんな風に言われると、まるで、シーモスが二人になったみたい。ねえ、アルダーくん。僕のお家にいる間は、いつもみたいにお話ししてよ」
態度を改めたアルダーに、イリスは寂しげな笑みを向ける。イリスとて立場が変わってしまったことくらい、理解している。それでも、寂しさは感じているようだ。
「それが、貴方のお望みなら。……イリス。お茶のおかわりはいるか?」
「うん! ありがと! ちょうだい!」
満面の笑みでイリスは、笑った。
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