第18話 魔王様、勇者に問い詰められる。


 そうとは知らずに魔王の前に出てきた勇者は、端から見れば人畜無害そうな笑顔で話しかけている。

 そもそも、勇者一行を迎え入れる人だかりから不自然に離れた者を勇者は追って来たに過ぎない。つまり、勇者が場慣れしていることもあるが、魔王の行動が不審者のそれだったから、ということの結果である。

 魔王としては、魔族にとっての超危険人物に、人目のないところで、しかも人族の砦の中に潜入中に話しかけられたことで、警戒心が高まっていた。


「(どっちだ。バレているのか、いないのか)」


 そんな魔王の心情など意に介さず、勇者は魔王に微笑みかける。


「こんな路地裏に一人で居るのは危険ですよ。……って、子供、じゃないよね? 岩人ドワーフみたいな髪色だし、そう考えると身長もこれぐらい……」


 などと後半は何かを確かめつつ自問自答している。


 魔王としては、確かめたいことは二つ。

 一つは自身の正体を勇者が知っているか否か。

 二つはリプライリングの通信相手と勇者の関係だ。

 魔王は、慎重に言葉を選ぶ。


「人を探している最中だったんですよ」

「人探しですか? こんな路地裏まで?」

「多少の身の危険なら自力でなんとかできますから、ご心配なく。それでは」


 魔王はさっさとその場を離れようとしたが、勇者は呼び止める。


「じゃあ、一緒に探しましょう!」

「は?」

「丁度今、僕は時間が出来たので」

「いや、その……」


 これはあくまで勇者の性質なのだが、何かしら困っている人が居る場合は助けたがる性質がある。好奇心と真面目さ、まめな性格と合わせてあらゆる問題に首を突っ込んでお使いやパシリを行う。それが彼が人族の間で知名度を上げる切っ掛けであり、彼の旅路で得てきた様々な知見や人脈の元である。

 すなわち、勇者の、勇者たる、勇者の資質が故に、魔王は逃がしてもらえない。困っている一人の人として。もちろん、魔王はそんなこと知ったことではない。

 なんとかして魔王は勇者から離れようと思う。


「ああいや、待ち合わせ相手の姿も名前も知らなくて……」

「はあ、それは奇妙な待ち合わせですね」

「なので、一緒に探してもらうには、きっと時間がとてもかかってしまいます。そこまでお手を煩わせるわけには」


 嘘は言っていない。

 だが勇者は引き下がらない。


「じゃあ、ますます二人で探した方が早いですね!」

「いや、そうじゃなく……」


 また、この困っている者を構い続ける勇者の資質は、同時に不審者を追い詰めるのにはとても有効だ。実際魔王は追い詰められている。

 魔王が返答に困っていると、勇者は疑問をぶつけてくる。


「でも、それなら一体どうやって待ち合わせを? 文通か何かのお知り合いなんですか?」

「え? まあ、そんな、ところ? です」


 文通、というか、通信相手。

 勇者の質問は続く。


「そもそも待ち合わせをしようって言う話なら、せめて待ち合わせ場所とかは解らないんですか?」


 魔王はリプライリングの通信相手が成り代わり種族チェンジリングの若者ではないかと思っている以上、魔族同士の待ち合わせ場所に勇者を連れて行くなどありえないと考え、しかしどうやれば諦めさせられるか分からなかった。

 下手に応えて怪しい者だと断じられる訳にもいかない。あくまで一般人。一般人として考えるならどうすればいい。人族は勇者が急に背後から話しかけてきたら……どうするんだ?

 メンタルのやられた魔王のうまく動かない脳が必死に回転し、なんとか答えを導きだそうとする。


「い、入り口で、ゼセン村の入り口で会う予定の相手なんですが、既に居ないようでしたし、その」

「ゼセン村の入り口で? もしかして!?」


 ここで勇者は確信する。この、目の前に居るのがリプライリングの通信相手であると。

 勇者は懐から小さな小袋を取り出し、その中から白い指輪を自身の掌に落として、魔王に見せる。


 この相手こそが、リプライリングの通信相手、待ち合わせの相手だ、と。お互いの符丁として勇者は見せた。


 だが、魔王は別の結論が頭の中で繋がった。


「(こいつ、まさか……? チェンジリングの若者から!!)」

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